3-5 終わるものと始まるもの
色々と変わっていきます。
伏線回収と次の仕掛け……楽しんでいただけると嬉しいです。
危惧していたとおり、アーチボルトは王太子妃と離婚して、ロクサナを正妃にした。
庶子たちは、王子、王女となる。
王太子妃が政務をしていたことを知る人々は眉をひそめた。
一部の恋愛至上主義者には歓迎された。しかし、ロクサナが下位貴族としての振る舞いしかできないことがわかると、賞賛が陰口に転じる。
ロクサナは森の中の家を出て王妃の部屋に移り、グリムリーは家に取り残された。
グリムリーは寂しいと感じたが、これで息子のアーチボルトの暴力に怯えずにすむと安堵もした。
妻の葬儀に参列できなかったが、人々の好奇に満ちた視線を思うと恐怖が勝る。
泉の精霊王への儀式で痛い思いをすることもなくなった。ホッとする一方で、泉への儀式をしないことで、また怒りが溜まるのではと不安になる夜もあった。
唯一、この家から出られる時間だったが、儀式の後は痛みで歩けなくなる。儀式の日が近くなることを、喜ぶことなどできはしない。
妻のことをどう思っていたのか、自分に問いかける日もあった。
従順な婚約者。夫を立てる良妻賢母。自分を幽閉して、国王代理を務める強さ。
私がいなくなっても、平気だったのだろうか。……平気だったから、相談にも来なかったし、弱音を吐きにも来なかったのか。
イオネは、本当に私を嫌っていたのか。あんなになんども愛し合ったのに、一方的な暴力だと言われた。私は何もわかっていなかったらしい。
父と同じことをしているのに、私だけ責められるのだな。
愛妾の子としてこの家で育ち、異母兄の死により王太子となっただけだ。
無能とさげすまれ、それを覆そうと必死になったが、なにもかも無駄だった。
精霊王の怒りで体がむくみ、じくじくと痛む。
このまま、朽ちていくのか。意味のない人生だった。
モリウェナと王太子妃が回していた国政は、アーチボルトの無能のせいで滞るようになる。
王太子妃は離婚を申しつけられて、すぐに王宮を去った。
アーチボルトが側妃として残ってもいいと馬鹿なことを言ったという噂が出たが、すぐに消えた。事実であったらひどすぎるし、いくらなんでもそんなひどい人間が国王になると考えたくなかったのだ。
突然王族になった子どもたちはロクサナからモリウェナの悪口を吹き込まれ、一気に堕落した。
――勉強しなくても、なんとかなるらしい、と。
数年前、アルベリックは王太子アーチボルトの婚約者候補に会いに行った。
何年もまともな婚約者が見つからず、災害に苦しんでいる伯爵の弱みに付け込もうとしているという情報を得たからだ。
義姉であるシャーロットは辺境伯家の出身だ。
王都で辺境伯が開いた夜会で、アルベリックはその女性に接触した。
「アーチボルト殿下はロクサナにしか性的に反応しないようにしてあるのです。
あなたが婚約者になるなら、あなたにも反応するように術式を変えますが……どうします?」
令嬢は少し考えてから、きっぱりと言った。
「そのままで結構です。父に命じられて伯爵領のために嫁ぎますが、王太子殿下のことは好きではありません。
閨をしないですむなら、その方がいいです」
「あなたは子どもができないことを責められるでしょう。耐えられますか?」
「おそらく王太子殿下は中継ぎで、早めに引退するのではないでしょうか。そのときは即離婚します。
それまでの辛抱だと思えば」
令嬢は多くを語らなかったが、後ろで支えてくれる人材を確保している様子がうかがえた。すでに、早期引退で絵図を描いている人物がいるらしい。
コーデリアが皇太子妃にならずにすんでよかったと思う一方で、その大変な仕事を若い娘に担わせてしまう罪悪感が拭えなかった。
それで接触してみたのだが、ブライス宰相あたりが相談相手になっているのかもしれない。
それなら悪い結果にはならないだろうと、アルベリックは安心したのだった。
その数年後。
離縁されたばかりの元王太子妃が、なぜかダンブリッジ公爵領を訪問したいと言う。
馬車で四日ほどかかる距離を、わざわざ。
先触れが来たので客間の用意はしてあるが、要件に心当たりはない。
今更、アーチボルトとうまくいかなかった苦情でもあるまいし。
兄嫁のシャーロットは、「あ~、まぁ、自由の身になったので……?」と言葉を濁す。
「離婚しました。アルベリック・ダンブリッジ様、わたくしと結婚してください!」
「は? え、突然なに?」
「あれ、責任とってくださるのですよね?」
「そんなこと言ったっけ?」
にこにこと笑顔で応える。
「言ったと思います(たぶん、きっと)」
離縁された元王太子妃がダンブリッジ公爵家に近づくなど、何があるのかと勘ぐられてもおかしくない状況だ。
だが、ダンブリッジ家はほぼ領地に籠もって国政から距離を置いていたし、元王太子妃の実家は災害から復興したばかりの伯爵で権力を持っているわけでもない。
しかも、当主の弟で、爵位を持っていない次男だ。特に注目されることなく、縁が結ばれた。
それに伴って従属爵位を与える、要らないという当主と弟の話合いは平行線を辿ったまま……。
そんな中、アルビアンス王国の王宮では――。
アーチボルト国王は異母弟フィリップの王位継承権を剥奪しようとしたが、王国大評議会の賛同を得られなかった。
フィリップの暗殺など、おかしなことを企みかねない。そう危惧した重鎮たちは、フィリップに大公の地位を与えることにした。
彼の王位継承順位は二位から一位に繰り上がっているのだが、アーチボルトは「王子」と呼ばれなければ継承権がないと勘違いし、誰もそれを訂正しなかった。
大公は別邸などを賜らず、王城の中のイスカリーヌ国の大使館別館に住み続けた。
押しかけ女房にアルベリック完敗。二人の年の差は、十一歳です。




