王太子の正妃捜し(王妃side)
55話目に出てきた話の王妃sideです。
王宮の薔薇が見事に咲いたので、お茶会にいらっしゃいませんか。
そんな招待状が、妙齢の令嬢たちに届いた。
王妃がテーブルを回り、令嬢たちと談笑する。
王妃が離れている間の会話こそが目的とは知らずに、小声でさえずる令嬢たち。
「王太子殿下のお相手を捜していらっしゃるのかしらね」
「そうかしら? 子爵令嬢も混じっているわよ」
「ああ、そのうち伯爵にあがるという噂があるお家よ。王太子妃になったら確実にあがるでしょうね」
「見事に独身の令嬢ばかりですから……でも、婚約者がいる方もちらほら」
「え、嫌ですわ。今の婚約者と結婚します、絶対に」
「あの方に嫁ぐくらいなら、修道院に参りますわね」
「『真実の愛』がいらっしゃるのに他の人を捜すなんて、不誠実だわ。
政務をやらせて、使い潰す気なのでしょうか? 冗談はやめてほしいですわね」
「今の王家と縁を結んで、何か利がございますの?」
お茶会の後にメイドたちから報告を受けて、王妃は目を閉じた。
もっともな話である。
アルビアンス王国の王太子は、学園の卒業時に公爵令嬢を陥れて婚約破棄を目論んだ。
その性根の卑しさを晒しただけでなく、再教育中としてもう何年も公の場に姿を現わしていない。
国王グリムリーの失敗を覆い隠すためには、「普通の王太子」では駄目だ。
「優秀な王太子」でなければ。
いくら言い聞かせても、優秀な教師をつけても、不出来なまま。
最近では、ふてくされた態度を隠さず、酒に逃げているようだ。
宰相がイスカリーヌの姫の子を授業に同席させると言ってきた。
アーチボルトの邪魔をしないならと許可したが、なかなか優秀だと……なにより熱心に聞いてくれると教師たちが喜んでいる。
国王の罪の証である子を国民の前に立たせたら、いつまで経っても忘れてもらえないではないか。
アーチボルトを諦めて、イスカリーヌの姫の息子を王太子にしようという意見があるのを……薄々気付いてはいる。
だが、そんなことは認められない。
国王の罪が公になってからの、イスカリーヌ国の非常識な要求の数々。
王太子に据えたら、何を言ってくるか考えたくもない。
王城の中に大使館の別館を作るなど、よくも思いついたものだ。こちらが属国になったかのような屈辱。
イスカリーヌ国から要望されるままに「王子」とし、王位継承権を与えざるを得なかった。
その後も彼を臣籍降下させることはまかりならんと、こちらの動向を見張っているようだ。
さらに勤勉で優秀で、精霊魔法も身につけているとは、厄介な……。
息子の出来を比べて、アルビアンス王国側が劣っているなど許されない。
イスカリーヌ国の姫に、この国の王妃である自分が後れを取るなどありえない。
モリウェナは手のひらに爪の跡がつくくらいぎゅっと拳を握りしめた。
少し緩めて、またぎゅっと握る……繰り返すうちに手のひらには鱗のような模様ができる。
血が流れなければ、誰にも気付かれない。
夫に浮気されていた妻という事実に、どれだけ傷ついたか誰も寄り添ってくれない。
問題は山積みで、孤独で、哀れみの目で見られるのは、誰のせいだろう?
年を重ねた女性を襲う、病気とまでは言えない倦怠感や体のほてりが、気力まで奪っていくようだ。
常にイスカリーヌ国からの護衛が彼に付き従い、寝起きは城内のイスカリーヌ大使館の別館。
……害してやろうなどと考えていないが、鉄壁の守りにどこか疑われているような気がして、神経を逆なでされる。
「……いやだわ。何を考えているのかしら、わたくし」
自分の両頬をぱちりと叩く。不穏な思考は、きっと疲れているからだ。
「できることから、コツコツと。誠実に。着実に」
自分に言い聞かせて、モリウェナは執務に戻った。
モリウェナは、自分が長年手を抜いていたから気付かない。
誰もがやる気になれば何でもできると本気で思っているから、理解できない。
人には向き不向きがあり、政治に向いていない人には知識を詰め込んでも、まともに動けないということを。
もしくは、全体を把握できないまま短絡的に動き、事態を悪化させていくことを……。
国王の罪を認めて、そこから再スタートすればよかったのに……と思います。




