1-3 既成事実があれば許されると思うヒト
皇女の登場です。
ドラッヘンヴァルト帝国の皇女とその夫は、苛立ちを使用人たちに向けていた。
二人の子どもたちは、それぞれの部屋で、メイドに対して八つ当たりをしている。
皇女に与えられた離宮の中は、さながら地獄絵図だ。
まともな家門はこの離宮に配属されると退職するようになり、わけありの他に行くところがない者たちだけが働いている。
苦情やたしなめる人がいないため、ますますひどくなっていく悪循環に陥っていた。
「エロじじいが。何が『まだ現役』だ!」
夫がショットグラスを暖炉に投げつける。薄いグラスはパリンと軽い音を立てた。
「愛人は黙認されているとはいえ、教義に背いているでしょう?! なんで『本宮に部屋を与えて保護する』とか言っているのよ!
まさか、子どもにわたくしが使っていた部屋を与える気じゃないでしょうね。とんでもないわ。
お母さまも、相変わらず役立たず。正妻の権利を主張して、愛人たちを叩きのめしなさいよ」
グラスをどんとテーブルに叩きつけるように置き、中身が周囲に飛び散った。
「汚いわね。早く拭きなさいよ!」
濡れた手袋を無造作に脱ぎ、慌てて寄ってきたメイドの顔に叩きつける。
「――はっ。『忠臣の功績をたたえて妻を保護する』? 言い訳にしたっておかしいわ。
優遇されるけど寝取られ男って笑われているわよ、旦那たち。『功績』って、妻を差し出したってだけじゃない」
「早くくたばれ、じじい!
ジークの野郎をアルビアンス王国に追い出してやったのに。あっちの公爵の娘を娶って、評判をあげるなんて計算外だ。
それに加えて新しい子どもなんか産まれたら、俺たちの出番が遠ざかるじゃねぇか」
破落戸の会話とさして変わらない。
カジノに出入りして、怪しげな連中に声をかけられてから、どんどん口調が崩れていった。
その品性がにじみ出ているから支持が集まらないのに、本人たちは気付かない。
ジークムントの結婚により、帝国の貴族たちは今後の動きを検討し始めた。
悪魔つきと評判が悪く影の薄い皇子が、にこやかに、聡明そうな公爵令嬢と談笑している。
いつの間に立派な青年になったのか。
皇女しかいない状況で、他にマシな人物がいないものかとため息を吐いていた貴族たちは、ジークムントに希望を見いだした。
――そのままでは、皇女たちの攻撃がジークムントに集中するところだった。
だが、皇帝が愛人に子どもを産ませるとなると、風向きはわからなくなる。
冷遇してきた息子と新たに生まれる子ども、どちらを後継者にするか。
権力に近い場所に行くために、それぞれが頭を悩ませていく。
不穏な空気ですね。




