7-2 悪魔つきと呼ばれた王子
婚約・婚姻の条件を決めるのも大変、というお話。
婚約の話し合いは、持参金や財産、身分および称号、国籍、居住地、子どもの養育、婚約破棄や死別時の条件など多岐に渡る。
皇子の希望としては、継承権を放棄してアルビアンス王国で暮らしたい。
外国王族へ婚姻による新爵位を与える許可を、国王代理から取り付けていた。
一度目の話し合いは、初っぱなから紛糾した。
「皇位継承権を放棄するなど、軽々しく言うものではない!」と帝国側が声を荒げたのだ。
「皇子の立場がなぁ。難しいぞ、これ」
外交官が複数の想定をした中で、あまり望ましくない方に進んだ。
第一皇子とはいえ、立太子の目処も立たず。精霊が見えるせいで、「まともではない」という評判がある。
「皇位継承権を放棄するのに難色を示されたな」
特に動揺を見せずに、ダンブリッジ公爵が資料をテーブルに置いた。
「『悪魔つき』なんか、国から追い出したいだろうと思っていましたよ」
自嘲気味にジークムントがつぶやく。
大使がそれを気の毒そうに眺める。
「皇女を皇太女にしていないのだから、君も駒として計算に入れているんだろうね」
「適度に後継者争いをして、勢力を削ぎ合ってくれれば、『皇帝』は安泰ってところかな?」
ゴドリックが皮肉を言ってから、珈琲に口をつけた。
「ならば、婚姻後は帝国に住むとして、数年間はダンブリッジ領に滞在研修という形にするか。その間に皇帝の目が向くものを増やして……」
相手が強固に譲らないものがあるなら、それを迂回する策を考えるまでだ。
「そうするか。コーデリアも帝国に永住する可能性は考えていたしな」
「しっかり守れるよう、頑張ります」
ジークムントが少し緊張気味に、宣言した。
「武力だけでなく、政治力も身につけてほしい。コーデリアも守られるだけの女性ではない。協力し合って、共に成長すればいい」
「はい」
大人二人は、ジークムントを微笑ましく思い、顔を見合わせた。
「さて、歓迎の宴で殿下が『悪魔つき』ではなく、精霊が見えるということを公表するか否かですが……」
大使がちらりをジークムントを見る。
「今回は見合わせた方がいい気がしますね。今、評判を上げたら、帝国を出るのがさらに難しくなりそうです」
「汚名など、返上しなくて構いません」
その頑なな態度が、今までの辛い経験を想像させた。
「帝国に住むことになったら、多少はいい評判を作った方が安心できるがね」
「あ、そうですね」
会議に出なかったナイジェルは、三人の会話を黙って聞いていた。
数ヶ月、ダンブリッジ領で生活して、ジークムントは表情が豊かになってきた。人に甘えることも覚えたようで、何よりだ。
人生の先輩として、いくらでも手助けをしよう。
今頃、書記官が議事録を作っているだろうから、あとで見せてもらうか。
多少汚い手を使っても……可愛い姪が安心して暮らせるように。
王侯貴族の醜悪さを知り尽くした宮中伯ナイジェル・ファリンドは、頭の中で作戦を練り始めるのだった。
すっごい鼻水が出て……風邪とかコロナじゃないといいなぁ。




