7-1 波間に揺れる誓い
婚約の話が動き出します。
すごく短いです。
甲板に立つと、ひと息ごとに潮の匂いが肺を満たし、鼻の奥に塩気が残る。
アルビアンス王国からドラッヘンヴァルト帝国がある大陸まで、船で数時間。
婚約の話を進めるために、ダンブリッジ公爵夫妻と娘のコーデリア、ジークムント皇子は帝都へ向かっている。
ダンブリッジ夫人の兄、ナイジェルも同行して、帝国の人間関係を観察する予定だ。
そこに、アルビアンス王国から外交官が随行していた。
「忙しい時にすまないな」とゴドリック・ダンブリッジが語りかけた。
「いや、これで帝国がイスカリーヌ国に味方する可能性を減らせるなら、立派な仕事だ」
アルビアンス国王がイスカリーヌの姫にした非道な振る舞いが、国際的にどう判断されるか、予断を許さない状況だ。
「……ここ数年、皇帝の言動が怪しくなっている。
グリムリー国王陛下の方がまだ理性的だと思うくらい、横暴になっているぞ。気をつけろ」
波音に紛れるくらいの小声で囁く。
「そんなにか?」
「……晩節を汚す君主は珍しくないだろう? 老いても権力にしがみついて、おかしくなる」
「歴史上、よくあることだな。どうやら、人生の引き際を見極めるのは難しいらしい」
「ゴドリック、本当に爵位を譲るのか?」
「息子がしっかりしているからな。
それに、王妃陛下に……もうダンブリッジを頼るなというメッセージにもなるだろう」
ダンブリッジ夫妻は国王とも王妃とも幼なじみであった。
その関係性は微笑ましいものではなく、グリムリー王子に振り回され、一方的に利用されるものだった。
「……そうだな。幼なじみに甘えるのではなく、元首として凜と立っていただきたい」
ゴドリックが断りきれずに結ばれた娘の婚約。
そのせいで子どもたちに苦労をかけた。無邪気な子ども時代を終わらせ、一緒に闘う仲間……小さな大人にしてしまった。
今度こそ、「生涯の伴侶」と関係を築く楽しさを味わってほしい。
その条件を整える折衝――負けられないと、ゴドリックは決意を新たにした。
クラリッサに「もっと力を抜いて」と言われそう(笑)




