4-4 虚飾の玉座
「こんな王様はイヤだ」の見本のようになってしまった……。
「本当は親友のゴドリック・ダンブリッジに宰相をやってほしかった。
だが、断られてしまった。
まあ、イスカリーヌの姫をどうしたとうるさかったから、身近に置かなくてよかったかもしれん」
国王は一度、首を振った。手が拘束されていなければ、髪をかきむしっていたことだろう。
「誤算は、魔道士長が死んだことだ。
王家の『影』によると、同僚に殺されたらしい。
副魔道士長は私の言うことを聞かぬ頑固者だったので閑職に回し、魔道士長を陥れたそやつを新任にしてやった。
なかなか気持ちのいいことを言う、気の利くヤツだ。国王の機嫌は、なにより大切だと思わんか、うん?
隙を見せなければ、うまく使える便利な駒だ、くくくく」
前魔道士長は精霊魔法と魔術だけに関心を持つ狂った研究者で、お追従など口にする人間ではなかった。この男にとっては、能力よりもおべっかを使える方が重要らしい。
椅子をぎしりと鳴らし、王は濁った目で笑みを浮かべる。
「そのあとで、ダンブリッジの娘が精霊魔法を使えることがわかった。領地で育て、隠していたとは水くさい。
だが好都合だ。息子の婚約者にして、いずれはこの娘に泉への道を開かせよう――そう、私は思いついたのさ。
婚約誓約書を自分たちで作ると言い出したが、別に紙切れ一枚だ。どうということもない。
法務卿がうるさく言っておったが、あやつは『正しいかどうか』ではなく『法に則っているか』ばかり気にする木偶人形よ。
その法を作っているのが王家だ。王が正しいと言えば、それが正義なのだ!
私は……、私は悪くない!」
そのうかつさが、イスカリーヌ国を失うことに繋がった。
悪くないと言いながら、足をダンダンと踏みならす。
「……自白魔術は、『言うまい』とする思考を押さえつけ、口から言葉があふれ出す状態にします。つまり、いまの陛下は、自らを律する術を失っているのです」と、小さな声で説明した。
「魔道鉄道というものが、大陸では走っていると聞いた。馬車より速く、大量の荷物や人を安全に運べる……これだ!
私の治世が燦然と輝くだろう」
王は身を乗り出し、腕を固定するベルトをきしませ、高らかに宣言した。
「鉄道に私の名を冠する栄誉を与えようか。
完成の暁には、各国の王を招き、披露目の宴を開かねば。
──私の名は全ての国の歴史に、永遠に、刻まれる!」
足はカタカタと小刻みに、貧乏揺すりのようになってきた。
「すぐに調査団を結成させた、私の判断力の見事なことよ。
その結果、サマセット男爵領が線路敷設に欠かせぬ土地だとわかった。
素直に国に貢献する男ではないゆえ、いくら吹っかけてくるかと危惧していたが……ふふん、そこの娘が我が息子を好いているというではないか。
王太子がダンブリッジ公爵の娘を正妃とし、サマセット男爵令嬢を愛妾とすれば、盤石の構えだ。私は自分の息子に嫉妬するような、狭量な男ではないぞ!」
拘束された男は、鼻息荒く、胸を張った。
「ああん? イスカリーヌの姫と二人の子どもをどうするかだと?
国王である私に愛でられる、それこそが幸せであろう。
政は男に任せておけばいい。世継ぎの姫に指名されるなど重荷であろうよ、気の毒に。
子どもは、役立つ機会があれば……使ってやる。森の中で隠れるように育った私に、国王の座が転がり込んできたように……いつ、幸運に巡り遭うか……は。
王の血を引く以上……無駄にする手は……ない」
聞くに堪えない言葉が次から次へと吐き出されたが、次第に、言葉が不明瞭になっていく。
口端に泡を浮かべ、なおも何かを吐き出そうとしたが……。
魔道士の「そろそろ限界ですね」という言葉で、尋問は一旦打ち切ることになった。
「これが、国王と名乗る者の正体か……悍ましい」
書記は筆を止め、震える手でインクがこすれないように並べ……己が誠意を持って仕えてきた年月を呪った。
一世を風靡した人が何かで躓き、「そういえば……」と見ないようにしてきた違和感が次々と明るみに出て、どんどん転落していく感じですかね。




