4-3 歪んでいた血統
国王による、犯罪の自白です。
国王と王太子がいる王宮の地下に、尋問をするための人々が入ってきた。
地下特有のかび臭さに加えて、妙に生臭い空気に、皆が顔をしかめる。
王太子は、昨日の醜態を恥じているのか、薄いシーツを頭から被って丸まっている。
国王はぐったりと簡易ベッドに突っ伏していた。
首を振って嫌がる国王を同じ地下にある尋問室へ移動させ、尋問用の椅子に座らせた。
肘掛けに腕を乗せ、革のベルトで固定する。
いつもの国王なら怒鳴り散らしてもおかしくないのに、弱々しく「やめてくれ」と言うくらいだ。
法務卿が発行した尋問を許可する通知を読み上げるが、耳に入っていないのか、反応が薄い。
違和感を感じたが、暴れられるよりはいいだろうと、魔道士が自白魔術の詠唱を始める。
しばらくすると魔法陣が浮かび、国王を包み込む。
国王の目がうつろになり、ボソボソとしゃべりだした。
「私はアルビアンス国の国王、グリムリーだ。
父は前国王。
そして、ヤツは前々国王を憎んでいた。私にとっては祖父にあたるな。
その祖父に似て、出来のいい息子を内心では嫌っていた。その息子――わたしにとっては異母兄が、精霊魔法の使い手だということも、気に入らなかったようだ。
狩猟大会で大きな獲物を仕留めた義兄を……怪我させて表彰されないようにしたかったそうだ。ところが……手違いで殺してしまった」
その場にいる全ての者が動揺した。記録係がこれを書いていいのかと、尋問の責任者に目で問いかける。
「我々は情報を引き出すだけだ。判断は王妃陛下がなさるだろう。全て記録しろ」と短く答えた。
「そうして、愛人の子どもである私を、王太子にせざるを得なくなった。
自分を脅かさない存在に、安堵したのだろう。ヤツのピリピリしていた雰囲気が和らいだ。
……そのことが、私の自尊心をいたく傷つけた。無能だから選ばれたのか、と。
いつか、大きな事をやって、見返してやろうと決意した!」
話ながら興奮したのか、急に大きな声をあげた。
だが、天井をしばらく見つめてから、濁った目を正面に向けた。
「……私の母は、かつては侯爵令嬢で、婚約者もいた。
それを……侯爵に冤罪をかけて、令嬢を平民にした。そうしておいて……森の中で囲った。
母の首には、隷属の首輪の習作がはめられていた。
前々国王が、国内にある隷属の首輪をすべて破壊し、作り方も抹消した。
それを、魔道士長に復元させようとしたものだ。
何度か改修を経て……いつしか完成版ができあがった。
前国王――父が死んだとき、私は喜んだ。ようやく母が解放されると。
魔道士長に隷属の首輪を外させた。
母は喜んで……城を出て行った。もう、実家はないのに、どこに行ったのだろう。
私を捨てて――」
国王は下を向いて、涙を流した。
「前王妃は塔に幽閉した。義兄の死を自分の夫のせいだと認めたくなくて、私を散々に虐めた女だ。
父の妹、叔母も神殿に追い出した。口うるさい、精霊魔法の使い手。――元・王女。
私の血筋が気に入らないのに違いないんだ」
言葉の端々に、押さえきれぬ苛立ちが滲む。
「ところが、国王の仕事の一つ、『初まりの泉』で儀式を執り行う事ができない。
見えているのに、その泉に近付けないのだ。
子どもの頃、叔母と手を繋いだときは一緒に入れたのに。
だが、頭を下げて神殿から戻ってきてもらうなど……ごめんだ」
重要な証言に近づきそうだと、緊張が走る。
「そんなときに、イスカリーヌ国の巫王の弟が言ったのだ。
世継ぎの巫女姫イオネを、この国に閉じ込めて利用すればいいと。
……彼も私と同じように、精霊魔法が使えぬ王族だった。なぜ、そんなことで欠陥品のように扱われるのだ?!」
国王は唾を飛ばして激高するが、精霊魔法は「たまに使える者が出る」くらいの存在だ。
イスカリーヌでは巫王になれないだろうが、このアルビアンス王国では問題視されない。
どこか、この男の認識はズレている。
「私はまず、騎士団長と魔道士長に相談した。
近衛騎士団長は堅物だから、バレないように気をつけた。
姫の視察に『初まりの泉』を組み込んだ。
だが、姫と一緒でも泉に行くことはできなかった。
ここで、計画を中止にすることも考えたが、イスカリーヌの巫王の弟との約束を破るわけにはいくまい。
騎士団長に姫の護衛を始末させ、魔道士長が姫の首に隷属の首輪をはめた。
……母が使っていた首輪だ」
国王は、目の焦点が合っていない状態で、ニヤリと口を歪めた。
「侍従長に、母の家を再び人が住める状態にしろと命じておいた。
姫と世話係の女を森の中の家に閉じ込め、魔道士長に家の周りに結界を張らせた。
私と一部の人間だけが出入りできるように。
必要最低限の下働きと医務官の下っ端の手の甲に、出入りできる『紋』を刻ませた。
私は国王だ。……国王が女を囲って、何が悪い」
その声は、叫びではなく呻きに近い。だが、言葉には自分の行いを正当化しようとする、いやらしさが滲む。
「宰相には後から、『事と次第』を伝えた。
傍若無人な父に仕えていたので、大抵のことは驚かない奴が……ひどく驚いていた。
私だってやればできるだろうと、内心誇らしかった。
慌てて、法務卿、外務卿、軍務卿を呼んで……『一目惚れで結婚』という物語を考え出した。
私には正妻がいるが、まあ、なんとかなるだろう。
正妻は呆れた顔をしたが、そんなのは……いつものことだ。
イスカリーヌ国から抗議が来たが、巫王の弟が押さえてくれるはずだし、宰相に任せた。
姫に子が生まれたら、宰相が『イスカリーヌを属国化できる』と言いだした。
巫王の弟と密談があったのか、なかったのか私は知らん。
だが、ヤツはその後、宰相を辞してイスカリーヌに移住した。随分と威張り腐っているらしい」
国王はうつろに笑った。
「――そして、新しい宰相ブライスが就任した」
国王の父親の代から、既におかしくなっていました。
次回、尋問の続きです。




