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お前を愛することはない、私もなのでお構いなく  作者: 紡里
第一章 卒業パーティーとそれから一年後

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王子様は弱い山羊

ロクサナ視点のお話です。

 私が生まれた実家は、サマセット男爵領の山間で山羊(やぎ)を飼っている家。

 ミルクやチーズを作って、細々と暮らしていた。


 たまに、他の村の山羊飼いと種付けを協力し合う。

 そのついでに人間同士も交流を持つので、貞操観念はわりと大らかだ。



 母は領地を視察に来たサマセット男爵の嫡男に襲われて、私を産んだ。

 性的なことには大らかだけど、「断られたら諦める」という決まりがある。

 同意がないのに……しかも自分の力ではなく、従者に協力させた卑怯者。思い出すだけで(はらわた)が煮えくり返るということで、私は嫌われていた。


 私が十三歳の年、男爵が突然私を「引き取る」と言ってきた。

 そこで始めて読み書きを習い、礼儀作法というものを知った。 



 きれいな服を着れるのは嬉しかったけど、正妻さんの目は恐かった。

 でも、私と同じ境遇の子はたくさんいるらしく、時々、門の外で叫んでいる人を見かけた。


 王太子が生まれた年は、高位貴族の子どもが多いんだって。

 出産のタイミングを管理するのは、畜産でも常識だからね。


 人数が多いんだから、「学園で誰か捕まえてこい」と命じられた。


 二歳年上の義姉より、私に賭けるらしい。

 お貴族様の血筋より、私の顔面の方が価値があるってことか。


 山羊なら外見だけじゃなく、乳の出とか病気に強いとか、色々な価値があるのに。



「貞操観念」の授業には、本当に驚いた。

 結婚してから「合わない」ってわかっても、手遅れじゃん? 



 じゃあ、あのオヤジは?――ってなるじゃない。

 男爵は「貞操」って言葉を知らないに違いないって言ったら、「男性は別にいいんだ」と来た。

 はあ?

 女だけ貞操を守れって、どういうことよ。


 男だって女だって平等に、自分の好みの相手を捜すべきだわ。

 貴族って、実は、頭そんなに良くないんじゃない?




 さて。

 どうやって親しくなったらいいか……わからなかったから、とりあえず、見た目がいい貴族の前で転んでみたよね。

 山羊を追いかけて斜面を駆け回っていれば、安全な転び方くらい身についているから。



 仲良くなった男の子に、高位貴族の授業や教室移動の時間を調べてもらった。



 騎士団長の嫡男が力自慢してきたときには、笑ってあげた。「山羊でも、大きい角を持つやつが偉いんだよ」



 宰相の次男が「兄上は立派なんだ」って、苦笑いしたときに教えてあげた。

「山羊の群れにはサブリーダーが必要なんだよ。リーダーだけじゃ危険に気付くのが遅れたり、小競り合いが増えたりするよ」



 魔道士長の愛弟子が男色の相手をさせられると悩んでいたから、「山羊も雄同士でじゃれあうよ」と教えてあげた。

(魔道士長は結婚もしないで清廉潔白な人って噂を聞いていたから、びっくりしたけど)



 そんな話を耳にしたのか、王太子が「私の側近を励ましてくれたんだって?」と近づいてきた。


 さすがに、王太子と仲良くなろうとは思ってなかったけど……。

 婚約者のダンブリッジ公爵家が恐くて、ご令嬢たちは礼儀正しく距離を取るんだって。寂しそう。

 コーデリア様も、ねぇ……。公爵家なんだから、見栄えにお金をかけなよ。あれじゃあ、エスコートする王太子様が、可哀想。



 ――王太子は、お母さんの愛が欲しいんだね。

 私も、一度くらいお母さんに愛されてみたかったよ。

 無償の愛? 絶対に味方になってくれる?

 は~、すごいねぇ……って感じ。

 そんなの、どこに行ったら手に入るの? 

 王太子が持ってないって……お金があっても、地位があってもダメってことじゃん。



 私以外にも庶子から貴族になった子がいて、王太子を巡って私と競い合ったけど――当然、私の勝ち。

 だって、ほら。私の足を引っかけようとして、逆に転んじゃって。岩場で踏ん張れないタイプね。

 それに。見よ、乳製品に育まれたこの豊かな胸を!


 あの子は、王太子の孤独に寄り添うどころか、自分の虚栄心ばっかり強くて。

 ま、私の敵じゃなかったよね。



 そのうち、鉄道事業でサマセット男爵領が重要な位置にあることがわかった。


 そうしたら、私を目の敵にしていたダンブリッジ公爵家の次男が、王太子の側近から外された。



 すごい幸運!

 私、もしかして精霊の愛し子なんじゃないかしら?


 うるさい側近がいなくなってから、王太子がアクセサリーやドレスをプレゼントしてくれるようになった。



 その頃に、生家の母親らしき人を見かけた。

 何か言いたそうだったけど…………知らない。


 男爵に引き取られてから手紙の一つも……あ、文字が書けないんだった。

 鉄道の準備で、立ち退きさせられたのかなってちらっと思ったけど。

 飢えなかっただけで、可愛がられた記憶はないもん。


 それに、こっちだって、それどころじゃないのよ。

 いい男を捕まえられなかったら、卒業後にどうなるかわからない。



 貞操を死守しろとか言われたけど、一番地位が高い男を捕まえたんだから、引き留めるために……いいよね?

 そこで、私は勝負に出た。



 王子様の魅力? 

 ――可哀想でかわいいのよ。


 貴族ってみんなマナーが完璧で、すました顔をして、取り繕った建前ばかり。


 その孤独を理解して慰める私が、彼を支えて守ってあげたい……と思うの。


 弱い山羊がいると、リーダーや強い個体は自然と責任感を発揮し、群れ全体の秩序を保たなくちゃいけなくなる。王太子も、きっとそういう存在になれるわ。


 でも、それを認めようとしないせいで、彼の劣等感は募る一方だった。

 だから、私はか弱い女の子を演じて、「守ってやっている」という満足感をあげるね。


このエピソードを読んでから、一つ前のエピソードに戻ると「ふざけんな!」が倍増するかと思います(笑)

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― 新着の感想 ―
すっごく面白くて今イッキ読み中です! 勢いがあって、読みやすくて、キャラがたってて、寝たいのに眠れません(笑) 王子に母の愛が…。ってところ。 ロクサナは、鋭いんですね。 自然体で、したたかで、人間…
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