2-2 一日目の宿、皇子の提案
すみません、すごく短いです。
王都から一日目の宿場町でのこと。
ジークムント皇子の侍従が、クラリッサとコーデリアの部屋を訪れた。
彼の部屋へ行くと、寝室のほかに応接間が備わった広い部屋だった。
重厚なカーテンが窓を覆い、灯が部屋を柔らかく照らしている。
ジークムントはライティングテーブルから立ち上がって、二人を出迎えた。
「再び、お目にかかれて光栄です。さて、お二人はもう夕食を済ませましたか?」
気づけば、食欲がないまま時間だけが過ぎていた。
そこで、ダイニングから軽食を取ることにして、ソファに座った。
ジークムントは、王都で入手したという「号外」を差し出した。
「この号外には、ダンブリッジ家のことは書かれていません。
しかし、卒業パーティーで大勢の人がいたのですから、情報を隠しきることはできないでしょう。王家が情報をどう出して行くつもりか、ご存じですか?」
クラリッサが答えようとしたとき、扉がノックされ、軽食が運ばれてきた。
ローテーブルに、小ぶりのサンドウィッチとコンソメスープが並ぶ。
コンソメスープの湯気が緊張をほぐし、透き通った味が疲れた体に染み渡る。
クラリッサは、サンドウィッチを一口食べてから口を開いた。
「情報について、ですよね。
午前中の王国大評議会で、それを話し合うと言っていましたが……イスカリーヌ国との賠償問題が絡んでいるため、状況は刻々と変わっているはずです」
魔道通話という通信手段はあるものの、不心得な回路交換手が会話を盗み聞きし、ゴシップ誌に売ることがある。極秘情報は電報で暗号文を送るほうが安全とされていた。
それゆえ、ダンブリッジ公爵に会議の結果を確認していないのだ。
「つまり、一刻も早く領地へ向かいたいという状況は変わらないわけですね」
ジークムントは十八歳という年に似合わない、腹黒く見える笑みを浮かべた。
「そこで提案があります。明日以降、お二人は私の馬車に乗りませんか?」
ジークムントの馬車は防御力が高く、高速での移動が可能だ。
領民を乗せた馬車や荷馬車を連れていると、どうしても進みが遅くなる。
「傭兵の女性にお二人の服を着せ、目くらましとしてダンブリッジ領のご一行様を予定通りに進ませることができます。
ただ、傭兵たちは場に相応しいドレスの選び方やコーディネートができませんので、どちらかの侍女をつける必要があります」
思いがけない提案だ。
もし、王室から口封じに来たり、敵対派閥の追っ手が来たりした場合、ダンブリッジ家の二人がいなければ、他の人たちは無事に済むかもしれない。
もし、襲われても、守るべき貴族女性の代わりに闘える傭兵がいるなら、相手を倒して生き残れる可能性は高くなる。
ただ、あまり馴染みのない傭兵に、侍女は尻込みせずにいられるだろうか。
偏見かもしれないが粗野で礼儀知らずだった場合、上品な世界で生きている彼女たちには苦行になりかねない。
コーデリアが心配そうに視線を向けると、コーデリアの侍女が一歩進み出て静かに言った。
「恐れながら……もしお許しいただけるなら、私がそのお役目に就きたいと思います」
小さく笑みを浮かべて続けた。
「傭兵の方々から面白いお話を伺えたら、お嬢様にご報告いたしますね」
主人を安心させるための、強がりに見えた。
クラリッサはその姿を胸に焼き付け、「……ではお願いするわ」と了承した。
その言葉を聞いて、ジークムントは自分の侍従に手で合図をした。
今の話し合いの内容を、ダンブリッジ家の一団を取り仕切っている嫡男の補佐役に伝え、待機していた傭兵に正式に依頼することを伝えるようにという指示だ。
ジークムントはその侍従が出て行くのを見送ってから、話題を変えた。
「次期公爵ライオネル殿から、見合いの名目でダンブリッジ領にしばらく滞在してもよいとの許可をいただきました」
心構えがまるでできていなかったので、コーデリアはむせた。
「けほ、こほ。……あの求婚は本気でしたの?」
思わずコーデリアは大きめの声を上げてしまった。
クラリッサはコーデリアの背中をさすりながら「あらあら、まあまあ」と楽しそうだ。
ジークムントは、何かたくらんでいる子どものような顔をして
「その辺りのことは、明日馬車の中で話しましょう」と微笑んだ。
「明日の馬車」の中がうまく書けず、出来たところまでアップします。
う~ん、困った。エピソードがうまくハマらない……。