通知音
彼女がスマホを落としたのは、夜のコンビニだった。
急にポケットから滑り落ちて、アスファルトにぶつかったときには画面にヒビが入っていた。
「まあ、使えるからいいけどさ……」
彼女はそう言いながら笑っていたけど、それから数日後、おかしなことが起き始めた。
まず、通知音が変わった。設定していた音じゃない。どこか金属をこするような、不快な音。設定を見ても変えた形跡はないのに、メッセージが届くたびにその音が鳴る。
LINEの通知がきたのは、夜の3時だった。
【今、後ろにいる】
「なにこれ、誰……?」
送信者は自分自身のアカウントだった。
スマホを再起動しても、履歴からはそのメッセージが消えていた。
でも、通知音は相変わらずだった。金属のような音が、「きぃ……」と鳴るたびに、彼女はスマホを伏せて、怖がった。
ある日、画面の中のカメラアプリが勝手に起動していた。
操作もしていないのに、インカメラが彼女の顔を映していて、その画面の右上に、もうひとつの顔が見切れていた。
真っ黒な、目だけが異様に光った、女の顔。
彼女はスマホを落として逃げた。
翌朝、スマホを確認すると、通知音は止んでいた。
ただし、ホーム画面のフォルダの中に見慣れないアプリがひとつ追加されていた。
【カメラ(2)】
不思議に思って開くと、自分では撮った覚えのない写真が数十枚並んでいた。
彼女が寝ているところ。シャワーを浴びているところ。駅のホームにいるところ。
そのすべての背景のどこかに、あの女の顔が写り込んでいた。
スマホを初期化してもアプリは消えなかった。ショップに持って行っても、「そんなアプリは入ってませんよ」と言われた。
そして最後に、スマホの通知音が鳴った。あの不快な、金属音。
画面にはこう書かれていた。
【つぎは あなたの番】