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【2-1】地味な初仕事

「それでは、行きましょうか!」


ギルドの正面玄関。

推しのパーティに加入することになったはいいが、まだ慣れない私にワッタが言う。


「はい……改めて、今日からよろしくお願いします!」


「あんまり緊張すんなよ、ノカ。お前はもう、俺たちの仲間だ」


(仲間、か……)


ダークリは私の不安をかき消すように、勢いよくギルドの扉をあけた——。


何度も足を運んできたギルドだけど、それは職員としての話。こうして冒険者側として入ったのは、もちろん初めての経験だった。

なにもかもが新鮮に感じた。


「ノカちゃーーーん!」


こちらに走ってきたのは、同僚……じゃなくて、“元”同僚のリアンちゃんだ。


「リアンちゃん、久しぶり」


「久しぶりじゃーん!」


「ごめんね、急に辞めることになっちゃって……」


「ほんと、大変だったんだよー! でも元気そうでよかった。そのワイルドな装備も似合ってるし」


リアンちゃんは“冒険者仕様”になった私の服装を見て言う。

制服か地味な私服姿しか見られたことがなかったから、改めて注目されると、ちょっと照れ臭い。


「みなさん、ノカちゃんのことをよろしくお願いしますね!」


リアンちゃんがパーティのメンバーに向き直って言う。


「この子、こう見えてみなさんのことすごく……」


「ちょッ! 変なこと言わないでよ!」


慌ててリアンちゃんの口を塞ぐ。

悪気はないのはわかってるけど、この子の持ち前の明るさは、時として危険だ。


「……ではみなさん! 早速、掲示板を見に行きましょうか!」


誤魔化すように、メンバーを促した。



***



クエスト掲示板には、様々な依頼が貼り出されている。

冒険者たちはそこから目ぼしいものを見つけて、受注するというわけだ。


「ノカの初仕事ですからね、気合い入れていきましょう!」


ワッタが、明るい声を出す。

あの憧れのメンバーと一緒に、クエストを選んでいる……改めて、ついこの間までは考えもしなかったシチュエーションだ。


「これなんかどうだ?」


ポトモがそう言って指差したのは、近くの村で暴れる怪力の精霊(トロル)の討伐クエストだった。


「小手調べにはちょうどいいと思うが」


ポトモは自信満々にそう言っているが……正直怪しい。

簡単なキノコ狩りクエストも失敗して帰ってくるようなこの人たちが、トロルを倒すことなんかできるのだろうか?


「ちなみにポトモさん、トロルの討伐に行かれたことは……?」


「ないな」


ないのかよ。

やっぱり聞いといてよかった。


「今の俺たちに、トロルは無理だよポトモ。こっちがいいんじゃねえか?」


そう言うとダークリが、別のクエストの内容を読み上げ始めた。

私はほっと胸を撫で下ろす。

こういうとき、頭脳派で冷静なダークリは頼りになる。


「えーっと……“廃屋敷に大量発生したゾンビの群れを討伐されたし”、だとよ」


「それはダメだな、ダークリ」


ワッタが慌てた様子で、話に入ってきた。

私も同感だ。

ゾンビ一匹ならまだしも、大量発生となると戦力的に厄介な……



「俺はオバケ系は無理なんだ」



そっちかよ。

その感じでオバケ無理なんだ。

それ、計算でやってるんだったら、かなり“あざとい”ぞ、ワッタ……!



***



「あのっ! みなさん!」


このままでは話が進まないので、一旦メンバーに呼びかける。


「トロルもゾンビもいいのですが……まずは全員の目標を確認しましょう! ひとまずこのパーティが目指すのは——今のCランクからBランクにアップすることでしたよね?」


そう、私だってパーティの一員なんだから、いちいち「可愛い」とか思ってる場合じゃないんだ。


「元ギルド職員の立場から言わせてもらうと……大きなクエストで一発逆転を狙うより、小さいポイントをコツコツ稼いだほうが確実かと思います。なのでまずは、これをやってみませんか?」


掲示板の隅っこ、小さな依頼書を私は指差した。

そこには、短くこう記されていた。



“ギルド近くにある菓子店のケーキを調査されたし。食品偽装の疑いあり”



……わかる。

びっくりするぐらい、地味なクエストだ。

そりゃ冒険者なら誰だって、剣とか魔法で戦う派手なクエストに行きたいだろう。

でも、みんなには申し訳ないけど、まずはこういう小さい依頼からこなしていくのも大事なことなのだ。


この菓子店っていうのはおそらく、この間リアンちゃんに教えてもらったお店だ。

私もケーキは買って食べたけど……材料の表記に問題でもあったのだろうか?


あまり乗り気じゃないメンバーに気づかないフリをしつつ、


「これでいきましょう!」


と素早く依頼書を取って受付に提出しに行った。


もちろん、小さなクエストだからって油断は禁物。

しかも私にとっては初仕事だ。

しくじるわけにはいかない。


——ところでこのクエスト、どんな作戦が考えられるだろう?


正面から乗り込んで「偽装してますよね?」なんて聞いても、絶対に追い返されるだけだ。

だからって、力で脅すなんて当然NG。

それなら……確実に証拠を押さえるため、“潜入捜査”が得策かも。

うん、そうしよう……!



——あれ?

ちょっと待って、潜入ミッション? ってことは……。



私はごくり、と唾を飲む。



メンバーのコスプレ姿を拝めるのでは???

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