【1-6】ウルトラC
「そんなヤツぶっ飛ばせばいいでしょ? 流儀なのかポリシーなのか知らないけど、推しが毎日のようにバカにされてる私の身にもなってよ!!」
その場にいた全員の視線が、一斉にこちらに集まる。
——やばい。
一瞬、我に返り、そう思った。
でももう止まることはできなかった。
席を離れ、彼らのもとへ歩いていく。
足が、震えていた。
「なんだよお嬢ちゃん? 俺たちで遊んでんだから、あんまり邪魔すん……」
「うるさい! 黙ってて!!」
凄んできたチンピラに怒鳴りつけると、相手は驚いて口を閉じた。
ただの受付係が急に大声で叫びだしたんだから、それも当然か。
ワッタたちの方へ向き直り、私は思っていたことを全部吐き出した。
「この際、こんなチンピラはどうでもいいわ! 私が言いたいのはっ……本当に言いたいのはさ、アナタたち、今さらジョブ変えて、それなりの中堅パーティになって、それなりに活躍して——それで終わるつもりなの? ここまで来て自分曲げないでよ! こんなの勝手だってわかってるけど……私は、不器用でも——万年C級でも、自分たちの好きなことを貫いてるアナタたちが好きだった!!! “好きなことを武器にしたい”って、いつも言ってたじゃんかよ!!!」
言いながら、自分の中でここまで気持ちが大きくなっていたことに驚いた。
彼らの活動に、絶対に口は出さないって決めてたはずだった。
それが、推しとの正しい距離感なんだって思う。それは今も変わらない。
でも……でもさ、こんなの悔しすぎる。
涙で顔がくちゃぐちゃだった。
周りはドン引きして静まりかえっている。
公平であるべきギルド職員が、こんなこと言うべきじゃない。
そして何より、推しである3人にこんな姿を見られている——。
明らかに出過ぎた真似だ。
恥ずかしさでどうにかなりそうだった。
ワッタが口を開き、何かを言いかけようとしていた。
(ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 何も言わないで……!)
そう思って目を逸らした瞬間、ギルドのドアが勢いよく開いた。
***
「みんな大変だ! 近くの広場に、ドラゴンが出た!」
入ってきたのは、ひとりの冒険者だった。
息を切らして、命からがら逃げ帰ってきた様子だ。
ギルド内は騒然となった。それもそのはず、こんな街中にドラゴンが飛んでくることなんて、初めての出来事だったのだ。
「珍しいこともあるモンだな! いっちょ狩りに行くか!!」
ランクアップのチャンスだと考えたのか、冒険者たちは我先にと外へ出ていく。ワッタたち3人も同じだった。
私たちギルド職員も、現場を確認するため彼らの後に続いた。
***
ギルド近くの広場では、証言通りドラゴンが暴れ回っていた。
立ち並ぶ店は破壊され、所々で炎があがっている。幸い怪我人はいないみたいだが、これ以上被害が広がる前に、一刻も早く対処しないといけなかった。
「大人しくしやがれ!!」
腕に覚えのある冒険者たちが、次々に攻撃を繰り出す。
——しかし。
剣も魔法も簡単にかわされ、全くダメージを与えることができない。まるで冒険者たちの攻撃が、すべて読まれているみたいだった。
(あれ? なんかおかしい……)
私は強烈な違和感を覚えた。
モンスターの動きにしては、なんと言うか“頭が良すぎる”のだ。
(モンスターの知能が、上がっている……?)
違和感に気づいたのは、私だけじゃないようだった。
近くにいたダークリが、不思議そうに首をかしげているのが見えた。
「ダークリさん! あのドラゴン、なんか……」
こんな状況で、なりふり構ってられない。
私はダークリに駆け寄って、話しかけた。
「うん、ドラゴンの動きにしては賢すぎる……。あんなタイプ、どの図鑑でも見たことないよ」
やっぱり、ダークリも同じ意見だった。
「特別な進化をしたのか、それとも——」
「ダークリさん! ワッタさんとポトモさんを集めてくれませんか?」
私の急な提案に、ダークリがキョトンとした顔でこちらを見る。
私は、構わず続けた。
「“おともだち作戦C”でいきましょう」