【1-5】knock him out!
次の日出勤すると、ギルド内はいつもと少し違う雰囲気に包まれていた。
忙しく動き回る職員たちに、ピリピリとした緊張感を隠そうともしない勇者たち——今年も、「ランク査定」の期間がはじまったのだ。
ギルドは各パーティの実績を集計し、ランクを付ける。
ランクが上がるほど受けられるクエストの種類やその報酬も増えるから、冒険者たちも常に自分のランクを気にしている。
なかにはギルド職員を取り込んで根回しをするパーティもいた。
さらにこの時期には「特別クエスト」も開放されることになっていて、今年は「カーリン火山にある火竜の巣から、希少な卵を持ち帰る」というものだった。
難しい依頼も多いが、特別クエストは査定にも大きく関わる。
こちらはランクを問わず誰でも受注できるため、毎年ほとんどのパーティがエントリーするのが通例になっていた。
(これが終われば長期休暇だし、頑張るしかないかぁー)
気合いを入れて受付の席に座り、特別クエストの名簿を確認する。
最初に確認するのは、もちろんワッタたちの名前だった。
彼らも毎年特別クエストにはエントリーしていて——まあ結果は出したことはないけど、クエスト受注番号はいつもひと桁台だった。
そういう前のめりなところも、推せる。
(今年こそはミラクルが起きて欲しいけど……って、ウソ!?)
自分の目を疑った。
いつも通り彼らの名前はあった。
それはいいんだけど、問題は「ジョブ欄」だった。
冒険者たちには一応、エントリー時に自分たちのジョブも併せて登録してもらうことになっている。
彼らのジョブ欄には、こう書いてあった。
・ワッタ/剣士
・ポトモ/黒魔道士
・ダークリ/格闘家
衝撃だった。
別にこの編成が悪いってわけじゃない。それどころか、全然良い。
バランス型のワッタが剣で戦って、ポトモが攻撃魔法、そしてマッチョのダークリが近距離攻撃——最初からこうしとくべきだったってほど、収まりがいい編成だった。
これでようやく、それぞれが要領よく能力を発揮できる、バランスのいいチームになるはずだ。
(——でも)
本当は喜んであげるべきなんだと思う。私だって、頭ではわかっている。
(——でも、これじゃあ……)
「ノカちゃん、そのパーティ応援してるの?」
いつの間にか、横からリアンちゃんが覗き込んできていた。
「いっ、いや別に……」
急いで名簿を閉じ、平然を装う。
「なんとなく、見てただけだけど……」
「いつもチンピラに絡まれてる人たちでしょー?」
リアンちゃんは私から名簿を取り上げ、彼らのページをめくる。
「ジョブ編成変えたんだ。絶対この方がいいよね、あのパーティってほら、なんかデコボコだったじゃん?」
「そうだね、私もそう思う……かな」
——ガシャン!!!
こちらに身を乗り出すリアンちゃんの背後から、大きな音が聞こえた。
驚いてそちらを見ると、またしても昨日のチンピラパーティにワッタ、ポトモ、ダークリの3人が絡まれているところだった。
***
「よぉ坊ちゃん、二度と俺たちに顔見せんなって言ったよな?」
テーブルに座る3人を、大所帯のチンピラたちが見下ろす形だ。
リーダーの男が、さらに煽る。
「お前ら、ジョブ編成変えたんだってな? 特にそこのデカいお前……本ばっか読んでないで、ようやくご自慢の筋肉を使う気になったのか。てっきり飾りかと思ってたぜ?」
リーダーの男はそう言うと、ダークリの肩に手を置いた。
「触るな」
ダークリが小さく言う。
「……あ?」
「触るなって言ったんだ」
「テメェ……C級が生意気な口利いてんじゃねえぞ!!」
男はとうとう我慢できず、力任せにダークリを殴りつけた。
ダークリは椅子から転倒し、近くのテーブルに置いてあった酒や食べ物が散らばる。
(なんで——?)
立ちあがろうとするポトモを、ワッタが制する。
こんなヤツらの相手をするな——そんな表情に見えた。
(なんでなの——?)
「どうした? 文句あんなら言ってみろよ。お前もコイツと同じ腰抜けか?」
再びパンチが飛び、今度はポトモが床に転がった。
(おかしいでしょ、なんでこんなヤツらにッ——!!)
「なぁ、優等生。お前がリーダーか? よく教育できてるじゃねえか。こんな腰抜け2匹も育ててよォ」
残ったワッタが、次の標的にされる。
「悔しかったらやり返してみろよ。それとも、怖くて動けねぇか? あァ?」
男はそう言うと、拳をゆっくりと振り上げた——。
「ぶっ飛ばせよワッタ!!!」
気がつくと、そう叫んでいた。