表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/28

【4-3】新たな武器

大蛇はその長大な身体をしならせ、私たちに襲い掛かってきた。


「避けろ! ノカ!」


間一髪のところで、咬みつき攻撃をかわす。


シャアァァァァ……


鋭い牙から毒液を滴らせながら、大蛇は尚も私たちを睨みつけていた。


「ポトモさん! 大丈夫ですか⁉」


「ああ、なんとかな」


そう答えるポトモの腕には、小さなウサギがしっかりと抱きかかえられていた。


「よかった! 早く逃げましょう!」


私は大蛇に背を向け、さっさと森を出ようとした。

……だけど、なぜかポトモは一向にその場を動こうとしない。


「何してるんですか、ポトモさん! 早くっ……!」


「……闘うぞ」


「……へ?」


「コイツと闘って、倒すと言ってるんだ。何か問題が?」


「ありまくりですよ! 大人しく逃げましょう、なんでわざわざ闘うんですか!」


「簡単な話だ……俺はコイツにムカついた」


「簡単な話ですけど、理解できません!」



***



ポトモは腰を低く落とし、大蛇の攻撃に備える。

どうやら、本気で闘うつもりみたいだ。


「心配するな……俺だって、遊びで冒険者をやっているワケじゃない」


それはわかるんだけど、だからって無理に勝負することないでしょ……って突っ込んでやりたかったんだけど、まぁポトモのことだ。

一度言い出したら、たぶん止めてもムダだろう。


「ウサギの手当てもあるからな。一撃で決めるぞ」


ポトモはそう言うと、腕を前に出して呪文を唱え始めた。


鋭い睨みをきかせ、次の攻撃に移ろうとする大蛇。

ポトモの不得意な攻撃魔法で、このバカデカい蛇を倒せるとは……正直まったく思えない。


情けない話だけど、今の私にできることと言ったら、応援することくらいしかなかった。

呪文の詠唱が終わるタイミングに合わせて、私は力の限り叫んだ。



「いけ、ポトモさん! ぶっ飛ばせ!」



次の瞬間——ポトモの手のひらから、大蛇に向かって巨大な火柱が噴き出した。



***



——炎の呪文に焼かれた大蛇は、煙を上げながらその場に倒れた。



(……いや、いけるんかい!!!)



と、思わずにはいられなかった。


私が言うのもなんだけど……今のってさ、絶対に上手くいかない流れじゃなかった……?

ウチのポトモさん、見たことないくらい強力な魔法出したんですけど?

こんなのできるんだったら、早く言っといて欲しかったんですけど?


そんなことを思いつつ、私はポトモの方に視線を移す。

ポトモは……私の何倍も驚いた顔で目をぱちくりさせていた。


(……ほんで、アンタも驚くんかい!)


じゃあ今のなに?

いったいどうなってるの……?



***



「……強化魔法、ですか?」


大蛇を倒したあと、ポトモは冷静に分析をはじめた。


「ああ。単体での攻撃力はないが、別の動きと合わさることで、その効果を増幅させることができる。対象の身体能力を上げたり、魔力を強化したりな。今のは俺の炎の呪文に、お前の強化魔法が掛け合わされたんだろう」


「でも私、魔法なんか出したつもりはありませんよ?」


「俺の魔法に合わせて、“ぶっ飛ばせ”と叫んだだろう? 恐らくそれが、引き金になったんだ」


うわ、マジか。

だったら、もっとカッコいい言葉にしとけばよかった。


「……じゃあ私、魔法の才能はないけど、強化魔法だったら使えるってことですかね?」


「そうだろうな。強化魔法は、対象に特別な思いを持っているほど、効果が大きいと聞く」


「特別な思い……ですか」


急に出てきたロマンチックな言葉に、一瞬、ドキッとさせられた。


「とにかく、なんとかなってよかった。早くウサギの手当てをしてやろう」





ポトモの回復魔法によって、ウサギの怪我は見事に回復した。


「これでなんとか、一件落着ですね」


「お前も、探してた自分の武器が見つかったんじゃないか?」


「はい! 思ってたのとはちょっと違ったけど……これで少しは、戦闘でも役に立てそうです」


「フン……よかったな」


その言葉に同意するように、ウサギはポトモに身体を擦り付ける。

一連の出来事で、すっかり懐いてしまったみたいだ。


「そうだな、お前もよく頑張った。もう無茶はするなよ」


ポトモはそう言うと、くしゃっとした笑顔でウサギの頭を撫でた。


(この人、こんな顔で笑うんだ——)


いつもは、クールでぶっきらぼうなポトモ。

初めて見る表情だった。





人の能力を上げることができる、強化魔法——

ずっと応援してたパーティに加入した自分にとって、なんだかぴったりの武器に思えた。



***



その日、家に帰ると、手紙が届いていた。王宮からの手紙だ。


今回は「舞踏会への招待状」みたいな、楽しいお誘いではなかった。

先日、王国に攻め入ってきた帝国軍の調査を、本格的に進めるということらしい。

手紙の最後には、こう書いてあった。



“尚、このたび派遣する遠征軍には、君たちのパーティにもぜひ参加してもらいたい”

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ