【4-3】新たな武器
大蛇はその長大な身体をしならせ、私たちに襲い掛かってきた。
「避けろ! ノカ!」
間一髪のところで、咬みつき攻撃をかわす。
シャアァァァァ……
鋭い牙から毒液を滴らせながら、大蛇は尚も私たちを睨みつけていた。
「ポトモさん! 大丈夫ですか⁉」
「ああ、なんとかな」
そう答えるポトモの腕には、小さなウサギがしっかりと抱きかかえられていた。
「よかった! 早く逃げましょう!」
私は大蛇に背を向け、さっさと森を出ようとした。
……だけど、なぜかポトモは一向にその場を動こうとしない。
「何してるんですか、ポトモさん! 早くっ……!」
「……闘うぞ」
「……へ?」
「コイツと闘って、倒すと言ってるんだ。何か問題が?」
「ありまくりですよ! 大人しく逃げましょう、なんでわざわざ闘うんですか!」
「簡単な話だ……俺はコイツにムカついた」
「簡単な話ですけど、理解できません!」
***
ポトモは腰を低く落とし、大蛇の攻撃に備える。
どうやら、本気で闘うつもりみたいだ。
「心配するな……俺だって、遊びで冒険者をやっているワケじゃない」
それはわかるんだけど、だからって無理に勝負することないでしょ……って突っ込んでやりたかったんだけど、まぁポトモのことだ。
一度言い出したら、たぶん止めてもムダだろう。
「ウサギの手当てもあるからな。一撃で決めるぞ」
ポトモはそう言うと、腕を前に出して呪文を唱え始めた。
鋭い睨みをきかせ、次の攻撃に移ろうとする大蛇。
ポトモの不得意な攻撃魔法で、このバカデカい蛇を倒せるとは……正直まったく思えない。
情けない話だけど、今の私にできることと言ったら、応援することくらいしかなかった。
呪文の詠唱が終わるタイミングに合わせて、私は力の限り叫んだ。
「いけ、ポトモさん! ぶっ飛ばせ!」
次の瞬間——ポトモの手のひらから、大蛇に向かって巨大な火柱が噴き出した。
***
——炎の呪文に焼かれた大蛇は、煙を上げながらその場に倒れた。
(……いや、いけるんかい!!!)
と、思わずにはいられなかった。
私が言うのもなんだけど……今のってさ、絶対に上手くいかない流れじゃなかった……?
ウチのポトモさん、見たことないくらい強力な魔法出したんですけど?
こんなのできるんだったら、早く言っといて欲しかったんですけど?
そんなことを思いつつ、私はポトモの方に視線を移す。
ポトモは……私の何倍も驚いた顔で目をぱちくりさせていた。
(……ほんで、アンタも驚くんかい!)
じゃあ今のなに?
いったいどうなってるの……?
***
「……強化魔法、ですか?」
大蛇を倒したあと、ポトモは冷静に分析をはじめた。
「ああ。単体での攻撃力はないが、別の動きと合わさることで、その効果を増幅させることができる。対象の身体能力を上げたり、魔力を強化したりな。今のは俺の炎の呪文に、お前の強化魔法が掛け合わされたんだろう」
「でも私、魔法なんか出したつもりはありませんよ?」
「俺の魔法に合わせて、“ぶっ飛ばせ”と叫んだだろう? 恐らくそれが、引き金になったんだ」
うわ、マジか。
だったら、もっとカッコいい言葉にしとけばよかった。
「……じゃあ私、魔法の才能はないけど、強化魔法だったら使えるってことですかね?」
「そうだろうな。強化魔法は、対象に特別な思いを持っているほど、効果が大きいと聞く」
「特別な思い……ですか」
急に出てきたロマンチックな言葉に、一瞬、ドキッとさせられた。
「とにかく、なんとかなってよかった。早くウサギの手当てをしてやろう」
ポトモの回復魔法によって、ウサギの怪我は見事に回復した。
「これでなんとか、一件落着ですね」
「お前も、探してた自分の武器が見つかったんじゃないか?」
「はい! 思ってたのとはちょっと違ったけど……これで少しは、戦闘でも役に立てそうです」
「フン……よかったな」
その言葉に同意するように、ウサギはポトモに身体を擦り付ける。
一連の出来事で、すっかり懐いてしまったみたいだ。
「そうだな、お前もよく頑張った。もう無茶はするなよ」
ポトモはそう言うと、くしゃっとした笑顔でウサギの頭を撫でた。
(この人、こんな顔で笑うんだ——)
いつもは、クールでぶっきらぼうなポトモ。
初めて見る表情だった。
人の能力を上げることができる、強化魔法——
ずっと応援してたパーティに加入した自分にとって、なんだかぴったりの武器に思えた。
***
その日、家に帰ると、手紙が届いていた。王宮からの手紙だ。
今回は「舞踏会への招待状」みたいな、楽しいお誘いではなかった。
先日、王国に攻め入ってきた帝国軍の調査を、本格的に進めるということらしい。
手紙の最後には、こう書いてあった。
“尚、このたび派遣する遠征軍には、君たちのパーティにもぜひ参加してもらいたい”




