【3-6】まさかそんなこと
私たち4人は、急いで王の間へと向かった。
回復魔法で力を使い果たしてしまったポトモは、ぐったりとダークリの肩に担がれている。
「アビネリア王!」
ワッタが部屋の扉を開けると、そこにはもう敵の姿はなかった。
王と、傷を負った冒険者たち——誰もが情報を求め、この部屋に集まってきている様子だ。
「皆の者、すまなかったの。ゴーレムを倒してくれたのはワッタ、君たちじゃな? お手柄じゃった」
「身に余るお言葉です……それで、帝国軍は?」
「すでに引き上げたあとじゃよ。問題は、奴らがどうやってこの国へ入ってきたのか……」
「我が国には、強力な結界魔法が張られているのでは?」
「その通りじゃ。そこらの黒魔法でも破れない結界での。ただし……結界の内側から破られたとすると、話は別じゃがな」
結界の内側から……?
つまり、スパイがいるっていうこと?
ぐったりとうなだれているポトモの表情が一瞬、ピクリと反応した——ように見えた。
「……王は、どうお考えですか?」
「わからん。詳しく調べてみらんことにはの。近々、小規模な遠征軍を結成して帝国の調査を行うとしよう……こういうことは、あまりしたくなかったのじゃがな」
***
「キミたち、さっきはその……弱小パーティにしては、よく健闘したな」
そう言いながら近づいてきたのは、ヤキーヌたちのパーティだ。
エルフのヤキーヌと、オオカミ頭のモヤト、か弱い女の子バーバ。
ヤキーヌは相変わらず、ワッタを前にすると素直にはなれないらしい。
「褒めてくれてるのか? お前にしては珍しいじゃないか、ヤキーヌ」
「……同じ冒険者として、敬意を表したまでだ」
「わかってるよ」
ワッタは、ヤキーヌの肩を抱きながら言う。
「お前が時間を稼いでくれたおかげで、俺たちも間に合ったんだ。感謝してるよ」
「よっ……寄るな! 気持ち悪い!!」
ヤキーヌは顔を真っ赤にして、ワッタを遠ざける。
こんなにあからさまなのに、ワッタは何も気づかないんだろうか?
「ハハハ、そんなに照れなくてもいいじゃないか。俺なりの敬意さ」
カラッと笑うワッタ。
あ、この人マジで何も気づいてないわ。罪な男。
***
「イチャイチャしてんじゃねえよ! 行くぞヤキーヌ!」
引き上げようとするのは、オオカミ頭のモヤトだ。
「この度は……お世話になりましたです……」
隣にいるバーバは、聞き取るのがやっとの小さい声で感謝を述べる。
「困ったときはお互い様だよ。またな」
笑顔で返事をするダークリ。
「キミたちの絆、見せてもらったよ。キミは手強いライバルになりそうだ。また会おう」
去り際にヤキーヌが、私の耳元で言った。
私は力強く、こう返す。
「はいっ! 望むところです!」
***
「皆の者! 舞踏会は中止になってしまったが……ささやかながら食事を用意した。ぜひとも、英気を養っていってくれ!」
王のひと言を合図に、テーブルとたくさんの食事が部屋に運ばれてきた。
「私たちもいただきましょうか!」
さっそく4人で、テーブルにつく。
「お菓子店の件といい今回といい、ここ最近、色々なことがありますね」
「ああ、俺たちも成長できてる気がするぜ。ウチの敏腕マネージャーが、運を呼び込んでくれてるんだろうな?」
「いえ、恐縮です……」
私もパーティの一員として、もっと力を付けないと。
改めて、気が引き締まる思いだった。
「おいポトモ! いつまでもへばってないで、お前もちゃんと食え!」
そう言うとダークリは、ポトモの口に無理やり食べ物を突っ込もうとする。
「や……やめろ……」
ポトモはまだ体力が戻らないのか、力無く抵抗している。
普段はあまり見られない光景だ。
「いいぞダークリ! もっと食わせてやれ!」
と、囃し立てるワッタ。
いつも通りの会話と、みんなの笑い声。
私の大好きな空間だ。
「……それにしても、遠征軍にはどんな人が選ばれるんですかね?」
私は気になっていたことも聞いてみる。
「今回の活躍のおかげで、俺たちが選ばれるかもしれませんよ?」
ハハハ、と笑いながら軽口を飛ばすワッタ。
「まさか! そんなことあるわけないじゃないですか」
——と言いながら私は、背後に視線を感じた。
食事をする冒険者たちの奥、遠くの王座から私たちを見つめるアビネリア王……。
何か言いたげな表情だ。
……え??
まさか、そんなことあるわけない……よね?
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