【3-4】物好きなヤツ
声の主は、隣国であるキンノラー帝国の侵攻軍指揮官・ヒロイアと名乗った。
過激な独裁国家として知られるキンノラーが、ついに侵攻してきたのか。
“手土産として、我が国が育てた操り人形を一匹連れてきた。ぜひ、可愛がってやってくれたまえ”
ヒロイアがそう言った直後、再び「ドン」という音が聞こえた。
続いて、攻撃を受けたであろう冒険者たちの悲鳴——
「ノカ!」
隣にいるヤキーヌが、私に注意を呼び掛ける。
「僕から離れるなよ」
「は……はい!」
「そんなに心配そうな顔をするな。こんなところで“恋敵”に死なれちゃあ、僕も夢見が悪いんでね」
ドン、ドン……。
ゴーレムが暴れまわる音が、だんだんこちらへと近づいてくる。
そして——私たちが立っている廊下の突き当たりから、ついにゴーレムがその姿を現した。
私の身長の倍はある、巨大な石造りの人形だ。
魔法で操られているのか、両目に輝く緑色の光が、じっとこちらを見つめている。
「フム、さっそくお出ましか」
ノロノロとこちらへ向かってくるゴーレムに向かって、戦闘態勢をとるヤキーヌ。
「まったく。こんな奴に好かれるために、僕の美貌があるわけじゃあないんだけどな——行くぞッ!」
次の瞬間、ヤキーヌは超高速でゴーレムの背後に回り込んだ。
目で追うのも難しいほどのスピードだ。
「こっちだ!」
ヤキーヌは美しい装飾が施された弓を構え、魔力を込めた矢を放つ。
矢は見事にヒットし、ゴーレムは体勢を崩した。
グオォォォォォォ!!
苦しそうなうめき声を上げながら、振り向いて力任せに腕を振り回すゴーレム。
廊下の壁は、いとも簡単に破壊されてしまった。
(なんなのあのパワー……! ヤキーヌは大丈夫!?)
しかし——私の心配をよそに、ヤキーヌは再び高速移動してゴーレムの背後を取っていた。
「遅いな! それでは僕に触れることすらできないぞ?」
ヤキーヌが呪文を詠唱すると、空中に魔法陣が生成される。
「お誘いはありがたいが……お前と遊んでいる時間はないんだ。これで終わりにしよう」
魔法陣は激しく発光し、ゴーレムに向けて強力なエネルギーを放った——
***
砂埃の奥に、ゴーレムの影。
攻撃魔法はゴーレムに直撃し、確実にダメージを与えたように見えた。
「……たっ、倒したんですか? ヤキーヌさん!」
「いや……そうでもないらしい」
ヤキーヌは、口元に笑みを浮かべながら答える。
その表情は余裕のあらわれか、あるいはその逆か——
ガラガラガラガラ……
ヤキーヌが言った通り、ゴーレムは再び立ち上がろうとしていた。
しかもそれだけじゃない。
さっきの攻撃で壊れて散らばった石片が集結して、ダメージを修復し始めたのだ。
「これって……?」
「ああ、どういうわけか自動回復している。特殊な魔法がかけられているのか……?」
ブオッ!!——
修復を終えたゴーレムが突如、砂埃の奥から強烈なパンチを放った。
「ぐはッ!」
ヤキーヌは避けきれず、床に転がる。
「ヤキーヌさんッ!」
「来るな! キミまで攻撃されるぞ!」
「でも……!!」
そうしている間にも、ゴーレムは次の攻撃に移ろうとしていた。
拳を固く握り締め、頭上に振りかぶる。
「危ない!!」
と、言ったときにはもう遅かった。
ゴーレムは不気味な声をあげながら、ヤキーヌに向けて拳を振り下ろした。
***
「ヤキーヌ、お前も物好きなヤツだな。こんなゴーレムをダンスの相手に選んだのか?」
振り下ろされたゴーレムの拳は、ヤキーヌに当たる寸前のところで食い止められていた。
(まさか、この声は——)
両手で攻撃を受け止め、そこに立っていたのは——ワッタだった。