【3-3】ライバル
「……もっと知りたいですか? ワッタさんのコスプレ姿のこと」
ちょっと意地悪な気持ちで、私はヤキーヌに問いかけてみる。
「もちろん知りたいさ! しかしキミに聞いたところでッ……! 実物には勝てっこないだろう!」
「……眼鏡」
「……はッ!?」
「ワッタさんは潜入の衣装で、普段はかけない眼鏡をかけていました。ここまで言えば……あとはわかりますね?」
「ぐはぁぁぁッ! 普段とは違う知的な雰囲気……ギャップというわけか! けしからん、実にけしからんぞッ!!」
ヤキーヌは身悶えしながら喜びを表現する。
今にも鼻血を噴き出しそうな興奮具合だ。私の睨んだとおり、メガネは彼の癖にぶっ刺さったみたいである——その気持ちは痛いほどわかるよ、私も。
「それにしても……」
私はここで、さっきから気になっていたことをヤキーヌに聞いてみた。
「ワッタさんとダンスをしたいなら、どうしてさっき、私を誘うような素振りを見せたんですか? あれじゃあ、ワッタさんも勘違いしてしまうのでは?」
「否、むしろそれが狙いだよ」
ヤキーヌは少し落ち着きを取り戻して、質問に答える。
「そうすることで、ワッタは自分の中の本当の気持ちに気付いてくれるんじゃないかと思ったんだ」
「……本当の気持ち、ですか?」
「僕がキミを誘ったとき、ワッタは胸がザワザワするのを感じたはずさ。そして気付くんだ。“そうか、俺はヤキーヌが他の人に取られるのが嫌なんだ”ってね! どうだ、いい作戦だろう?」
見たところ、ヤキーヌが冗談を言っている様子はなかった。
あぁ……なるほど——
私はここで、自分の認識が間違っていたことに気付いた。
この人、私が思っているよりホンモノだ。
「……それもいい作戦だと思いますけど、やっぱり直接誘ったほうが伝わると思いますよ? ほら、あの人、けっこう鈍いところあるから」
「それができるなら、最初からそうしているさ! しかし、それができないのが恋心ってものだろうッ……!」
そう言われると、たしかにその通りだ。
となると、どうしたものか……。
「では私も協力しますから、もっと確実な作戦を考えましょう! まだ舞踏会までは少し時間があります!」
「フム……それは有難いのだがキミ、どうしてそんなに協力的なんだ? 見たところ、キミだって僕の立派なライバルだろう? 違うか?」
ヤキーヌの直球すぎる質問に、私はギクリとする。
隠してたつもりではあるけど、やっぱり同じ人種にはバレてしまうものなのか。
そりゃ私だって、推しが誰かに“取られて”しまうのは複雑だ。
だけどワッタが私と踊りたいなんて考えてるわけないし、それに——
「それは、そうかもしれません。だけど……今はヤキーヌさんのことを応援したいんです」
これは、ある意味では本心だった。
だけどその裏側には、私の内なる“企み”がある。
目の前にいる美しいエルフ・ヤキーヌと、推しのひとりであるワッタのペアダンス……つまり、カップリング。
そんなのもう——控えめに言って、たまらんのである。
何としてでも絶対に見たいカプであることは、もはや疑いようがなかった。
「変な話に聞こえるかもしれませんけど、そういう“需要”もあるってことです! わかりますか?」
「わからんな。不可思議な娘だ」
「わからなくてもいいです! とにかく、急いで作戦を立てましょう!」
***
——ドン!
ヤキーヌと話をしていると、突然大きな音が聞こえた。
何かが崩れる音……たぶん、そんなに遠くない。この王宮の中で何かが起こったんだ。
危険を察知したのか、咄嗟に身構えるヤキーヌ。
さっきまでとは打って変わって、その目には戦士としての鋭い光が戻っていた。
次の瞬間、何者かの声が城中に響き渡った。
拡声呪文だ。
“冒険者諸君! お楽しみのところすまないが……しばらくの間、この城は我々「キンノラー帝国」が占拠させてもらう。まァ心配するな……今日のところは、ほんのご挨拶だよ”