【3-2】告白
王宮の控え室。
衣装はすべて事前に用意してあり、それぞれ担当の使用人が着替えからメイクまで面倒を見てくれた。
(パートナーを誘わなければ……)
ワッタは着替えが済むと、急いで男性用の控え室を飛び出した。早く彼女を誘い出さなければ、誰かに声をかけられてしまうかもしれない。
日はすっかり落ちかけ、城から見える街の家々には、少しずつ明かりが灯り始めていた。
(ノカ——)
廊下を進み、女性用の控え室へと向かう曲がり角で、ワッタはノカの姿を見つけた。慌てて声をかけようとしたが——ワッタは次の瞬間、素早く身を隠した。
ノカのもとに、ある人影が近づいているのが見えたのだ。
すらりとした、長身のシルエット。耳は尖り、外から吹き込む風に長い髪がなびいていた。
(そうだよな、俺が声をかけたところで……)
ワッタはそう呟くと、来た道をひとりで引き返した。
***
「やぁお嬢さん、まだ名前を聞いていなかったね?」
「ひゃぁッ!!」
控え室を出て急に声をかけられた私は、思わず飛び上がって変な声を出してしまった。
目の前には長身のエルフ——ヤキーヌがいた。
「さ、先ほどの……私はノカと申します」
「ノカか、いい名前だ。キミはワッタのところで、マネージャーをやっているんだってね?」
「ええ、まだまだ新人ですが……」
「例のお菓子店には、わざわざ変装をして潜り込んだのか?」
ヤキーヌはククク、と笑いながら、私の目を覗き込んでくる。
上から目線のナルシスト……なんだけど、まあ正直、それも頷けるくらい美しいエルフだ。
私の頭の中には、先ほど彼が言っていた“僕のダンスの相手をお願いしたい”という言葉が反響していた。
この人、本気で私のこと誘おうとしてる?
——いや、まさかね。
「ご苦労なことだな。ワッタは、何を担当していたんだ?」
「ワッタさんは、オーナーの付き人役を」
「ハッハッハッハ! それは傑作だな! あの不器用な男が真面目な付き人役か。ノカ、はっきり言おう。そんな珍妙な場面に出くわしたキミはとても……」
ヤキーヌは長い髪をかき上げて、こう続けた。
「とても……羨ましいんだが?」
***
ワッタが肩を落として控え室に戻ると、そこにはポトモとダークリの姿があった。
「よぉお前ら、ダンスの相手は見つかったのか?」
からかい半分で、そう問いかける。
「見つかってたら、こんなところに2人でいねぇよ」
「そういうお前はどうなんだ?」
「俺もまだだよ」
ため息をつきながら、ワッタは2人の近くに腰を下ろす。
「……じゃあ俺は、ちょっくら行ってくるかな」
ダークリはそう言うと、椅子から立ち上がり部屋から出て行こうとした。
「どこに行く? パートナー探しか?」
ポトモがすかさず問い詰める。
「い、いやぁ……城の探索だよ。まあついでに相手が見つかれば、ラッキーだけどな」
ポリポリと頬を掻きながら答えるダークリ。ノープランを装ってはいるが、実際には明確な狙いがあるのは明らかだった。
「では、俺も散策してこよう」
あとを追うように、ポトモも慌てて椅子から立ち上がる。
「ポトモ、そう言いながらお前……実はノカを誘おうとしてるんじゃないのか?」
「フン、くだらん。まあ見かけたら、声くらいかけてやらんでもないがな」
一瞬、互いの目を見つめ合うポトモとダークリ。
けん制し合うような間が少し流れたあと、2人は競うようにして部屋を出て行った。
(もう遅いよ。彼女の相手は予約済みだ)
2人の背中を見送りながら、ワッタは心の中でそう呟いた。
***
「羨ましいって……どういうことですか?」
ヤキーヌが口にした意外な言葉に、私は思わず質問を返した。
「そのままの意味だよ、ノカ! 愛しのワッタのコスプレ姿を拝むことができたなんてッ……! キミはなんて幸運の持ち主なんだ!!」
愛しの……ワッタ?
この人は何を言ってるんだ?
仲悪いんじゃなかったの?
「僕たちは古い付き合いでね……彼はずっと、僕の憧れだ。なのに僕は……彼の前だと強がって、ついツンツンした態度を取ってしまうのさ! ああッ! 愛とはなんと苦しいものか! ——僕は今宵、ワッタと踊りたいッ!!」
髪を振り乱し、(なぜか私に)愛の告白をするヤキーヌ。
「あっ、ああ……そういうことだったんですね」
と答えながら私は、心の中でニヤリと笑った。
これはなんだか……興味深い流れになってきましたぞ?