【3-1】王宮からの招待状!?
「俺たちの“功績”って……お菓子店の件ってことか?」
指定された通り王宮へと向かう道中、ワッタが不安そうな声を漏らす。
「そのようだな」
「だいたい舞踏会って言ったって、俺たちは礼服も何も持ってねえぞ?」
ポトモやダークリも、半信半疑の様子だった。
もちろん、それは私も同じだ。
「着きました……ここが正門ですね」
頑丈な城壁に囲まれた王宮、その正門では屈強な衛兵が目を光らせていた。門の奥には、美しく刈り揃えられた広大な庭園が見える。
「ワッタ様ご一行ですね。お待ちしておりました」
その迫力に圧倒される私たちのもとへ、小柄な老ゴブリンが現れた。
長く尖った耳、大きな鼻、深く刻まれた皺——綺麗な衣装に身を包んだ彼は、こちらに深々と頭を下げる。
「あの、私たち招待状をいただいて来たんですが……」
恐る恐る尋ねると、ゴブリンはにこやかな表情を作った。
「ええ、アビネリア王から伺っております。なにしろ王は、例のお菓子店のケーキに目がないものでしてね。皆さまにはぜひ直接お礼がしたい、と」
「なるほど、そういうことでしたか」
「申し遅れました。私は王宮の使用人を務めます、クニキと申します。では早速、王の間へご案内しましょう」
***
「おぉ、よく来たの」
王座に腰掛けるアビネリア王は、私たちの訪問を喜んでくれた。
私はもちろん、ワッタやポトモ、ダークリも、こうして王と直接話をするのは初めてのことだ。
「あの店のケーキじゃが、君たちが食品の偽装を見破ってくれたらしいな。ご苦労じゃった。まァ、ワシはバカ舌ゆえ、偽装などちっとも気づいておらんかったがの。ホッホッホッ……」
なんか、意外と気さくなお爺ちゃんだな。
そう思ったのはたぶん、私だけじゃないはずだ。
「王、そろそろ舞踏会の話を」
「おお、そうじゃった」
クニキさんが助け舟を出してくれて、ようやく話が本題へと移る。
「今夜、城で舞踏会を開催しようと思っておっての。君たちの他にも、優秀なパーティを何組か招待させてもらった」
「しかし陛下……恐れながら、私どもはそういった作法を心得ておらず……」
ポトモが、私たちを代表して王に問いかけてくれた。
っていうかポトモって、そんな言葉づかいもできるんだ。かっこよ。
「なァに、そう固くならんでも良い。君たちは自由に交流をしてくれたら、それでいいんじゃ。ただし……」
「ただし?」
「ダンスのパートナーは、自分で射止める必要があるぞ? 気になる相手がいるなら、早いうちに声をかけておくことじゃな」
「な、なるほど……かしこまりました」
「ホッホッホッ……みんな不安そうじゃの。しかしライバルは待ってくれんぞ? ほれ、そろそろ他のパーティも到着するころじゃ」
王がそう言った瞬間、私たちの隣に魔法陣が出現した。
魔法陣は強い光を放ち——そこに3つのシルエットが現れる。瞬間移動の呪文だ。
「アビネリア王、この度はお招きいただき、至極感謝いたすッ!!」
魔法陣の真ん中に陣取っている長身の男性エルフが、力強い声で挨拶を口にした。
尖った耳に金色の長い髪がかかり、透き通るような青い目は、真っ直ぐに王を見つめている。
「おいヤキーヌ! おめェの魔法はいつも派手なんだよ!」
文句を言うのは、その横にいる獣人の男性だ。
片目には大きな傷があり、荒々しい雰囲気をまとっている。
「不満か? モヤト。お前にも似合っていたがな」
「そういう問題じゃねェよ! バーバを見てみろ!」
モヤト、と呼ばれた獣人が指差した先には、小柄な女の子の姿があった。
「うぅ、気持ち悪い……」
テレポートに酔ったのか、女の子目を回してその場にへたりこんでいる。
***
「フム……?」
エルフのヤキーヌが、こちらの姿に気づいたようだった。
優雅な足取りで近づいて来て、ワッタに声をかける。
「ワッタじゃないか。キミがここに招待されているなんて……驚いたよ」
「意外で悪かったな、ヤキーヌ。今日はせいぜいよろしく頼むぜ」
まあ……あんまり仲が良さそうには見えないけど、とりあえず2人は知り合いらしい。
「お前のところのオオカミ頭も、元気そうだな?」
「口が悪いぞ、ワッタ。モヤトもバーバも、僕の大切な仲間だ。そう言うキミの仲間だって……ん?」
私の姿を見つけたヤキーヌが、怪訝そうな表情を浮かべる。
少し首を傾げると、そのまま腰を落とし、こちらに顔を近づけながら囁きかけてきた。
「やぁ可愛いお嬢さん、新入りかい? 大変なパーティに拾われてしまったようだね」
「いや、あのッ……その……」
甘い香水の香りが、ふわりと漂ってくる。
何も考えられなくなるような、刺激的なにおいだ。
真っ直ぐに私を見つめるヤキーヌの青い両目に、不覚にも吸い込まれそうに——
「ウチの優秀なマネージャーに手を出さないでくれるか? ヤキーヌ」
ワッタの声で、はっと我に帰った。
(私としたことが、推したちの前で……危ないところだった!)
ヤキーヌは依然として私の方を見ながら、ワッタに問いかけた。
「こんなに素敵なお嬢さんをどこで捕まえて来たんだ? ぜひ彼女には、僕のダンスの相手をお願いしたいな」
——「静粛に!」
アビネリア王の声が、部屋全体に響き渡る。
気がつけば、私たちだけでなく他のパーティも続々と集合していた。
「人数も揃ってきたようじゃな。それでは各自準備を整え、日没までにパートナーを見つけておくことじゃ!」