【1-2】キノコ狩り
ひっそりと彼らを推すようになったきっかけは、私がこのギルドに就職した2年前に遡る。
当時まだ研修期間だった私は、燻っていた(それは今もだけど)彼らの「アドバイザー」を任されることになった。
伸び悩むパーティにギルド側から声をかけ、一定期間アドバイスを行うという制度があるのだ。
新人の私に任せるなら、これくらいの弱小パーティがちょうどいい……ってことだったのだろう。
とはいえこのアドバイザー制度は形式的なもので、冒険者側も「大きなお世話だ」と相手にしないことが多い。それは、彼らも同じだった。
***
アドバイザーに就任して最初の面談。
ギルド内の小さな会議室に現れた彼らは、明らかに不機嫌そうだった。
私だってその気持ちは理解できる。戦場に出た経験もない、ただのギルド職員に色々意見されるなんて、腹が立って当然だろう。
その上、彼らは3年目のパーティだ。私と同じ新人ならまだしも、それなりに経験を積んだ上であれこれ言われるのは、嫌に決まってる。
「こちらへお座りください」
緊張しつつも席へ案内すると、彼らはドカッと腰を下ろした。
向こうのメンバーは3人。一般的なパーティからすると、人数は少ない方だ。
「えー……今日はよろしくお願いします。ワッタと申します」
真ん中に座った男性が、気まずそうに口を開いた。
短く刈り揃えられた金色の髪に、冒険者らしくがっしりとした体型。腰元には立派な剣が光り、誠実そうな、整った目鼻立ちが印象的だった。
どうやら彼——ワッタが、このパーティのまとめ役をしているらしい。
「よろしくお願いします。アドバイザーのノカです。まだまだ研修期間中の新人ですが、何卒……」
「フン、こんな小娘に何が分かると言うんだ」
口を挟んできたのは、ワッタの右隣に座る男だ。
「おいポトモ! そういう口の利き方はやめろ!」
ポトモ、と呼ばれたその男は、口をへの字に曲げてそっぽを向いてしまった。
足を組み、不機嫌さを隠そうともしないポトモ。綺麗に束ねられた長い髪が、彼の神経質そうな表情をより際立てていた。
「すみません、コイツいっつもこんな感じで」
ワッタが常識人らしく謝る。
「いえ、お気持ちはわかります。経験のない私から何か言われても、困っちゃいますよね……」
「それで……こっちに座ってるのが、ダークリです」
次にワッタが示した先に座っていたのは、無造作に髪を伸ばした大柄の男だった。
「よろしく」
言葉少なに挨拶をするダークリの鍛え上げられた肉体は、そんじょそこらの冒険者たちに引けをとらない——いやそれどころか、かなり上位の強靭さを持っているようにも見えた。
(ちょっと待って……全員それなりの強キャラ感があるのに、なんでこの人たちは万年Cランクなの?)
新人の私から見ても、彼らは単純に強そうに見えた。
(ギルド側に嫌われてる……?)
冒険者たちのランクを決めるのはギルドの上層部なので、可能性としてはゼロではない。
(それとも、めちゃくちゃ仲が悪いとか……?)
これまでの雰囲気を見ていると、それもあり得そうだ。
でも、事前に先輩から聞いた情報では、彼らはこう見えて小さいころからの幼馴染らしい。だとすると信頼関係はあるだろうから、不仲の線はナシか……。
そうやってあれこれ考えていた私の疑問は、すぐに解消されることになった。
***
「では、手始めに過去のクエスト内容を振り返ってみましょうか」
話を進めようとする私の問いかけに、ワッタが答える。
「お恥ずかしい話ですが、俺たちのクエストはどうも失敗続きでして……」
「おいおい、ずいぶん他人事みたいな言い方じゃないか。この間の“キノコ狩り”なんて、お前のせいで失敗したようなモンじゃないか?」
ポトモが口を挟み、ダークリも同意するように首を縦に振った。
手元の資料を確認してみると、ポトモが言う“キノコ狩り”らしいクエスト記録が残っていた。
街の薬草屋が依頼した採集クエスト——キノコの形をしたモンスター「ヒカリダケ」を討伐し、持ち帰るというものだ。ヒカリダケの胞子には滋養強壮の効果があり、回復薬などに広く使われている。
逃げ足は速いが、戦闘能力はゼロ。
正直言って、かなり簡単な部類のクエストだった。
「ポトモ! その話は……今はいいじゃないか」
ワッタは何か言われたくないことがあるのか、顔を真っ赤にして下を向いてしまった。
「せっかくだからアンタに話してやるよ。コイツがどれだけ足を引っ張ったのかを……」
ポトモはニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべる。
「まず当日の朝、ダークリとコイツの家に迎えに行ったんだ」
(わざわざ迎えに行ってあげるのか……)
そんな私の感想はよそに、ポトモは“キノコ狩り”の様子を話し始めた。