【2-13】次の一手
「アンタが仕組んだんだろ? ヤマニさん」
ポトモは真っ直ぐに目を見ながら、ヤマニさんを問い詰める。
従業員たちの表情は、明らかに困惑していた。
誰よりも店を愛し、尽くしてきた優しい責任者が、裏で糸を引いていたなんて考えられない——そんな表情だった。
「俺からもひとついいか?」
声を上げたのは、ダークリだ。
「昨日、ある頼みがあって倉庫を覗かせてもらったんだが——」
ダークリはちらりと料理長の方を見て、話を続ける。
「倉庫には、ケーキの材料であるはずの“ドラゴンの卵”が見当たらなかった。代わりに見つけたのが、質の悪いニセモノだ。ニセモノの箱にはヤマニさん……あんたのサインがあったよ。事業拡大に向けて、経費削減ってハラだったんじゃねえか?」
「そっ、それは……!」
「そちらの“シイ坊ちゃん”は好きに遊ばせておいて……あんたはその間に好き勝手店を動かしてたわけだ。それに関しては、“付き人”のワッタが詳しいだろう」
全員の視線が、沈黙を守っていたワッタに注がれた。
「“シイ坊ちゃん”はたしかに、毎日飲み歩き、店のことには一切関与していませんでした。しかしこの方が店を悪く言っているところを、私は一度も見たことがありません。これは私の勝手な予想ですが——先代は坊ちゃんにとって、憧れだったのではないですか?」
問いかけられたシイさんは依然として、何も語ろうとはしなかった。
ワッタが話を続ける。
「しかしその憧れが、いつしかプレッシャーに変わっていった。自分がこの店を継げるのだろうか……そんな不安から生活は荒れ、そこに目を付けたのがヤマニさん、あなたです。“店のことは私がやるから、坊ちゃんは好きに遊んでください” ——甘い言葉で、二代目をそそのかしたのでしょう。違いますか? 」
「くっ……」
問い詰められたヤマニさんは、返す言葉を持っていなかった。
その沈黙が、すべての答えだった。
***
お菓子店“ウロリン”の卵を巡る騒動は無事解決し、ギルドへの報告も済ませた。
料理長をはじめ店のスタッフたちは、私たちが身分を偽って潜入していたことにも理解を示してくれた。
4人の初クエストは大成功——これで、私たちもBランクに一歩近づくことができたわけだ。
私たちは各々、少しだけ休暇を取ろうということになっていたのだが……休暇に入って早々、私は部屋のドアがノックされる音で目を覚ました。
「ノカ、お休みの日にすみません」
そこに立っていたのは、ワッタだった。
「ワッタさん……! どうしたんですか、おひとりで」
「休んでいても退屈なので、思い切ってノカを誘ってみようと思いまして」
「えっ……!」
「せっかくですから、ウロリンへケーキを食べに行きませんか? ほら、その後お店がどうなったのかも気になりますし……」
***
「いらっしゃいませ」
私たちを出迎えてくれたのは、料理長だった。
話を聞いたところ、ヤマニさんはお店を解雇され、代わりに料理長が全体の指揮を執ることになったらしい。
「オーナー! こっち手伝ってください!」
「新メニューの件、どうなってますか?」
調理場からは慌ただしい声と、それに一生懸命答えるオーナーの姿も見える。
てんやわんやで大変そうだけど、みんな充実した表情だ。
「あの坊ちゃんも心を入れ替えて、忙しく働いてるよ。まったく、いつまで続くんだか」
そうは言いながらも、料理長はどこか嬉しそう。
「せっかくですから、ケーキをいただいてもいいですか?」
「もちろんだ。正真正銘の自信作を振る舞うよ」
***
「……おいしい!」
改めて食べた本物のケーキは、前とは比べ物にならない味だった。
「それにしてもワッタさん……オーナーの件、よく気が付きましたね? ほら、元々はお店のことが大好きだったって話——」
「ああ、それはもちろん、みんなが見つけてくれた証拠のおかげでもありますが……近くで彼を見ていて気付くことも多かったんです。プレッシャーに負けて挫折してしまう辛さは、俺にもよく理解できるから」
「……ワッタさんも、そういうご経験が?」
「いえ、すみません。つまらない話をしてしまいましたね——なんだかノカの前では、ウソがつけません」
ワッタはそう言うと、恥ずかしそうに頭を掻いた。
「とにかく今日は、2人でここに来れてよかった! ポトモやダークリには、内緒ですよ?」
***
さて、次はどんなクエストを受けたものか——
私たち4人は、再びギルドの前に集合していた。
「次は、派手に戦うクエストがいいな!」
「ドラゴンの討伐なんてどうだ?」
「それは気が早いだろ!」
口々に勝手なことを言うワッタたちの声を聞きながら、私はギルドの重い扉を開いた。
「ノカちゃん! 大変だよー!」
聞こえてきたのは、馴染みのある声。
驚いてそちらを見ると、元同僚のリアンちゃんがこちらへ駆け寄ってくるところだった。
「リアンちゃん、そんなに慌ててどうしたの?」
「いいから! これ見て!」
リアンちゃんが差し出してきたのは、見たことがないくらい立派な封筒——宛名には、私たち4人の名前が書いてあった。
「私たち宛ての手紙だ。差出人は——王宮から!?」
手紙はなんと、王宮からの招待状だった。
中身には、こう書いてあった。
”拝啓——あなた方の功績を讃え、王宮にて催される舞踏会へご招待申し上げます”
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