表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/28

【2-12】悪者

【オーナーである“シイ氏”は、当店舗の売上金を不正に流用している】



店頭に貼り出されていたのは、新オーナーを告発する文章だった。


「おいおい本当か?」

「すぐに報告だ!」

「俺は前から怪しいと思っていたんだ」


集まった野次馬たちは口々に意見を出し合い、店の前は騒然となっていた。


「みなさん、落ち着いてください! 従業員はすみやかに店内へ。話し合いを行います!」


責任者であるヤマニさんは大声で呼びかけ、私たちを店の中に誘導する。


「どういうことでしょうか? 卵の告発をしようっていうタイミングで……?」


「ああ、偶然にしては出来すぎてるな。ひとまず会議に参加して、様子を窺うしかないだろう」


冷静な判断をするポトモ。

たしかに彼の言う通り、偶然と言い切るには怪しいタイミングだ。私たち4人はモヤモヤした疑問を抱えたまま、ヤマニさんに従って店内へと入って行った。



***



「大変なことになりました……! みなさん、告発文を貼り出した者に心当たりはありますか?」


ヤマニさんの問いかけに、店内の空気がピンと張り詰める。

調理場に集められた私たちは視線を泳がせ、“犯人”は名乗り出るのを待った——だけど、当然手を挙げる人なんか現れっこない。

オーナーのシイさんは不機嫌そうな表情を崩さず、まったく口を開く様子もなかった。


「……ウチに恨みを持ってるやつの仕業か?」


この状況に痺れを切らしたのか、従業員からぽつり、ぽつりと声が上がり始めた。


「そうだ、きっとライバル店の仕業だ」

「そもそもオーナー、あんた本当に金を使い込んでいるのか?」

「しっかり説明してもらわないと困る!」

「あんたのことは前から怪しいと思ってたんだ!」


告発に対する怒り——あるいは将来への不安からか、従業員たちの不満の声は堰を切ったように膨らんでいく。


「もし告発文の内容が本当なら、坊ちゃんの進退も……」


ガヤガヤと騒がしくなる店内で、ヤマニさんはそう呟いた。



***



「本当にそう思うか?」


騒然とする店内に鋭く響き渡ったのは、ポトモの声だった。


「……ポトモさん、どういうことですか?」


ヤマニさんはすかさず、その声に反応する。


「本当に、店を潰そうとしている人間の仕業だと思うのか? と聞いているんだ。その考え方が“逆”だとしたら……どうだ?」


「いったい……どういう意味でしょう?」


「つまり……邪魔者のオーナーを追い出して、店をさらに拡大させようと目論んでいるヤツがいるんじゃないか? ってことだ。オーナーはそいつの計算通り、悪者に仕立て上げられた」


「それはあり得ませんよ! 店は拡大せず、この場所だけで細々と続けていく……というのが、先代の意向ですから」


誰よりもお店のことを知っているヤマニさんが、ポトモに反論した。

先代はこの街で生まれ育ち、この街を愛していた——だからこそ、この街に恩返しをしたい。この街に根を張って、ささやかなお菓子店を続けたい。

店で働いていれば、誰でも耳にしているはずの話だ。

だけどポトモはなお、話を止めることはなかった。


「常連客の知り合いが、事業開発を手掛けているらしいんだが……開発計画のひとつに、この店舗が挙がっているんだと。給仕係をやっていると、そういうウワサはひっきりなしに入ってくるんだよ」


「そ……そんなの、根も葉もないウワサですよ」


大粒の汗をハンカチで拭いながら、ヤマニさんが言い返す。


「まぁ落ち着いてくれヤマニさん。たしかに、アンタが焦るのはわかる。仮にオーナーが降ろされたとして……次にこの店で主導権を握り、好き放題できるのは誰か——少し考えれば、わかることだからな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ