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【2-6】それぞれの仕事

店が開いてからの忙しさは、それまでの仕込み作業とは比べ物にならなかった。

開店前から店の前には行列ができていて、目当てのお菓子に向けて、どっと人が押し寄せる。


私とダークリは、調理場で簡単な盛り付けや洗い物を担当していた。

いきなり調理を任されることなんて、もちろんない——っていうかもし任されたとして、お菓子を作った経験なんてほとんどない私はパニックになるだけだろう。


「さすが人気店だな、目が回りそうだ」


ギロリと睨みを効かせる料理長の目を盗んで、ダークリと小声で会話をする。


「私たちでこの忙しさですから、調理担当はもっと大変でしょうね……!」


「そうかァ? 俺はお菓子作ってた方が、何倍も楽しそうだと思うけどな」


「ダークリさん、普段お菓子作りなんてするんですか?


「ああ、勉強の気分転換にちょうどいいんだよ!」


(ダークリのお菓子、きっと美味しいんだろうな)


この人がかわいいケーキを作ってるところを想像するだけで、勝手に顔がにやけてしまう。


「ノカ、そういうお前はお菓子作りしないのか?」


「私は……ほとんど経験ないです」


あいまいな返事で誤魔化してしまったけど、私がお菓子を作るのは、年に3回だけと決まっている。

ワッタ、ポトモ、ダークリの誕生日だ。

頑張ってケーキを焼いて、“HAPPY BIRTHDAY!”なんて飾りつけたりして——結局食べるのは自分ひとりなんだけど、彼らのために、彼らのことを考えながらお菓子を作ったということが大事なのだ。


っていうかそうだ、今年からは仲間なんだから、みんなの誕生日ケーキを堂々と作ってもいいってこと——?



***



「お疲れ様です、材料をお届けにあがりました〜」


調理場の裏口から、声がした。

大量の木箱を抱えた男性——お菓子の材料の配達だ。

箱の中には、ケーキに使用するであろう卵も見えた。


(あの卵さえ調べられれば——!)


「毎度ご苦労」


料理長が荷物を受け取り、倉庫の方へ消えていく。倉庫を管理しているのは料理長だけなので、私たちのような下っ端が勝手に入って調べることはまず不可能だろう。


「ノカ、あれが問題の卵だな」


「はい、なんとかして調べる方法を考えないとですね」



***



ダークリと作戦会議をしていると、飲食スペースの方から大きな声が聞こえた。

といってもトラブルではないようで、むしろ何かを喜ぶような、黄色い歓声だ。


「何の声でしょうか?」


気になってキッチンから覗いてみると、そこにはポトモの姿があった。



「お兄さん、私のお紅茶も注いでくださいな」

「こちらのお菓子、もうひとついただこうかしら!」

「お兄さんのオススメも教えてくださらない?」



ケーキを食べにきた3人組のマダムに、ポトモが捕まっているところだった。

あのビジュで、しかも給仕係の綺麗な格好までしてるんだもん。

そりゃ、奥様方がほっとくワケないよな。


「そっ、そうですね……当店のオススメは——」


ポトモはあまりの恥ずかしさに顔を赤らめていたが、クエスト遂行のためになんとか耐えている様子だった。




「ククク、こりゃ傑作だな……」


隣で見ていたダークリが、うれしそうに笑う。



***



「お前ら、なにを覗いてやがる!」


ようやく解放されたポトモが、調理場から見守っていた私たちのところ詰め寄ってきた。


「そう怒るなよポトモ、ずいぶん楽しそうだったじゃねえか?」


「そうですよ! さっそく人気店員さんの仲間入りです」


「嘘を言うな——だったら、そのにやけ顔はなんだ?」


「そ、それはだなァ……ほら、お前のモテモテっぷりが羨ましくて……プッ!!」


「笑ってるじゃねえか!」


ダークリが我慢できず吹き出し、ポトモが不機嫌になる。

この2人、割とイチャイチャしててくれるから助かるんだよな。


そんな(私にとっては)お楽しみもありつつ、慌ただしい初日は過ぎていった——



***



「あの二代目オーナー、思ったよりもひどいな」


営業後の作戦会議。

それぞれが掴んだ情報を交換するなかで、1日中オーナーに付きっきりだったワッタがそう言った。



「正直、軽い気持ちで受けたクエストだったが……事態は俺たちの想像よりも深刻かもしれない」

少しずつ読んでくださる方が増えており、大変励みになっています≋

もしよろしければ、評価やブックマークなどいただけると嬉しいです≋

引き続き、楽しんでいただけるよう頑張ります≋

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