【2-3】え、ウチですか!?
3人の扮装姿は、文句なしに似合っていた。
さすが、プロが見繕ってくれただけのことはある。私もマネージャーとして、大満足の仕上がりだ。
(思った通りン。着せ替え甲斐のある殿方たちでございますねン)
店主が私にボソッと耳打ちをする。
(ええ、とても素敵です! 普段のみなさんとはギャップがあって、なんというか……)
(たまらないでしょン?)
(はいっ!)
私は首をブンブン振ってうなずく。
(あなたの衣装にも少し手を入れて、可愛らしく仕上げておきましたからン)
(そうなんですか? 私なんかが……すみません)
(そんなに謙遜しないでン。ほら、彼らの反応を見てると、大成功だと思いませんかン?)
そう言われて、ワッタたちの表情をさりげなく観察してみる。
(特に変わったところはないように見えるんですけど……)
(あらン。あなた、すごく賢い人かと思ったけど……意外とウブなところもおありなのねン)
(は、はあ……)
店主の言っていることはよくわからなかったけど、とにかくこれで衣装は揃った。
「ありがとうございました!」
私たちはお礼を言って、衣服店をあとにした。
***
「みなさん、いい買い物ができましたね!」
これからしばらく、メンバーのコスプレを拝めるなんて夢みたいだ。
しかも、同じお菓子店で働けるなんて……。
「おう! 景気づけに、このまま決起集会でもやるか!」
ダークリが、私の背中をドン、と叩いて言う。
「決起集会、ですか?」
「それは名案だな、ダークリ! ノカも加入したことだし、親睦を深めるためにもパーッとやろうじゃないか!」
「ああ、悪くないな」
ワッタとポトモも、意外と乗り気なようだ。
「ですが、これから潜入ってときに外で派手には動けませんよね……場所はどうしましょう?」
私がそう聞くと、一同は少し立ち止まって思案顔になる。
「だったら——」
やや間があったあと、ワッタが信じられないことを口にした。
「ノカの家はどうですか?」
「いやいやいやいや! 急に言われてもほら、片付けもできてないし」
「片付けも手伝いますし、イヤだったら外で待ちますから!」
「そんな問題じゃなくて! 私も心の準備ってものが……」
「“仲間”が家に来るのに、心の準備もなにもないだろう?」
「うっ……」
「ダッハッハ! ノカ、こうなったらもう大人しく受け入れるしかねえな!」
待ってよ、さすがにヤバいって。
これもう、どうやっても逃げられないやつじゃん。
***
「合図するまで、絶対に入らないでください! 絶対ですよ!!!」
街のはずれにある、小さな家。
決して豪華ではないけど、ひとりだとちょっと寂しい我が家。
両親が遺してくれた、大切な家だ。
「俺たちはいつまででも待ちますよ!」
ワッタたちを外に残して、とりあえず片付けの時間は確保できたけど……この限られた時間でできることは多くない。
脱ぎっぱなしにしていた服、テーブルに置かれたままの食器、畳まれていない寝具。
目に付いたものは片っ端から、超スピードで片づけて行った。
そして何より忘れちゃいけないのが——ワッタたちの冒険譚を勝手に書き連ねた、秘密の創作ノートだ。
昨日の夜に書き終えて、そのまま机の上に出しっぱなしになっていた。
こんなの、絶対に見られるわけにいかないっ……!
いつもよりもさらに奥深く、引き出しのなかにノートを押し込んだ。
***
「あの……準備、できました」
そっとドアを開けて、外で待っていたメンバーに呼びかける。
「ありがとう! それでは、お邪魔します!」
ワッタを先頭に、ぞろぞろと部屋に入ってくる一同。
最低限は片づけたとはいえ、やっぱり緊張はしてしまう。
「すごい! 綺麗にしてありますね」
「いえ、そんな……汚いですけど、適当に座ってください」
「……ノカ、あれはなんだ?」
何かに気付いた様子のポトモが、壁を指さす。
……マズい。
その壁に飾ってあるのは、額に入れて飾ってある『週刊ブレイブ』——今まさにこの部屋にいる3人が、インタビューに答えている号だ。
背中に、ツーっと冷たい汗がつたう。
「おお、週刊ブレイブじゃねえか!」
「しかもこれ、俺たちがインタビューを受けた号ですよね?」
「あっ、はい……そうですね……」
これまで生きてきたなかで一番、頭を回転させた。
キュルキュルキュル……という音が、外に聞こえてもおかしくないほどにだ。
「それは……ほら、パーティに加入するにあたって、みなさんのことを勉強しておこうと思いまして!」
苦しい言い訳なのはわかっている。
案の定、ポトモが反論をしようと意地悪な表情で口を開きかけているのが見えた。
そうはさせない、攻撃は最大の防御だ……!
「そ、それよりみなさん! お腹空いてますよね? さっそくご飯を作っちゃいましょう!」
「あ、ああ……それもそうだな」
まったく。開始早々、波乱の予感しかない決起集会だ。
市場通りで買ってきた食材を広げながら、私は小さくため息をついた。