あたしの背水の陣
好きな泳ぎかた。
あたしの背泳ぎはまさに背水の陣
クロールでも 平泳ぎでも
バタフライでも駄目なときに
やけになって あおむけに浮かんでみたら
視界いっぱいにひろがった空が見せてくれる景色
ゴールがその果てにあるのかもわからない
水平線のむこうを目指してたころは
いわば背空の陣
空を背負って 空に背いて
その青さとその広さすら
あたしを押し潰そうと あるいは
あたしを水のなかに沈めてやろうと
のしかかってくるように感じてた
だけど 背泳ぎな いまのあたしは背水の陣
ウォーターベッドのような水面に
ゆったりと擁かれたあたしのこと
空は押し潰しそうとも 沈めてやろうともせずに
ただ ただ その青さと広さを
惜しみなくあけわたしてくれる
水平線のむこうのゴールを目指すだけが
あたしの敷くべき陣じゃあないって
老獪な軍師のような思慮で
そっと諭してくれたんだ
だからあたしの背水の陣は
その名に反して穏やかなきもちのもとで敷かれる
もうちょっと このまま あおむけで
空の青さと広さをながめていよう
顔、つけなくていいもん。