第08話 連れ去ら令嬢シフォンヌ
「え〜、先ほど見習いに登録されたばかりですが、貴方がた二人をD級に昇格させたいと思います」
「わーい!」
「D級……ですか」
「残念ながら、今の冒険者ギルドには飛び級制度は無いのですよ」
冒険者ギルドのカウンターで、昼間と同じように椅子に腰かけながら受付お姉さんの説明を受けているウチら。
さっきの大蛇退治の功績が認められたみたい。
別に大した立ち回りした訳じゃないんだけどな。
「しかしまあ、あの大蛇を倒した功績を考慮する必要がありますから、明日以降にでも簡単な依頼を一、二件ほどこなして頂ければすぐにC級に昇格させて頂きますよ」
「形式上の手順というやつですな」
ギャリソンさんが受付お姉さんのフォロー。
さすがはデキる執事のイケオジ、こういう細かい部分の気遣いが素敵よ。
とか思ってる間に、受付お姉さんがD級用の冒険者証をカウンターの上に置いてくれた。
ってか最初にもらった、装飾の無いネックレスみたいな奴と同じじゃない?
まあ一応、中央に小さな短冊状の金属片がぶら下がってるけど。
……というウチの視線に気が付いたのか、受付お姉さんが冒険者証の説明を追加してくれた。
「はい、そうです。この冒険者証は最初に貴方がたに渡した冒険者証そのものですよ。それにこの装飾の金属片を取り付けただけのものです」
と言いながら、短冊状の金属片を指さす。
あー、やっぱりそうかあ。
「つまり、この付けられている金属片の数が冒険者のランクを示しているのです」
「では、ランクが上がるほどコレが増えていくという事なのですね?」
「そうです。つまりA級冒険者はこの金属片が4つ付いていることになります」
そっか、さっきの鎧を着ていた男の人がウチらを見習いだと一発で見抜いていたのはココの飾りの数を見ていたんだね。
クラム納得。
「それでは貴方たちの活躍を今後ともお祈りいたします……が」
「が?」
受付お姉さんはウチを指差すと怖い表情になった。
思わずちょっとだけのけ反っちゃう。
「クラムさんは、くれぐれも食事の量は加減してください! そもそも今回の依頼の発端は貴女がこの町の食料を食べ尽くした事が原因なのですからね!」
「はいはーい」
「『はい』は一回で!」
「はーい」
*****
あの大蛇退治から一カ月ぐらいは経ったかなぁ。
ウチとシーちゃんは、あの後すぐにC級に昇格。
B級になるのもすぐだね、と息巻いていたけど流石にそれはストップがかけられた。
他の冒険者と人間関係を作ったりギルドの仕事の流れを知って貰いたいからだと説明を受けたっけ。
ギャリソンさんが、上位クラスの価値を保つためだろうって推測してたけど。
人間社会って面倒くさいね。
「よっしゃービュッヘーの町に帰還完了! ギルドへ報告に行こうシーちゃん!」
「ああもう慌てないでくださいまし、クラムさん!」
隊商の護衛依頼をこなして隣町まで送り届けて、さらにそこの町からビュッヘーの町への隊商護衛依頼を追加で受けて帰ってきたウチら。
隣のシーちゃんも、簡素なドレスの上から胸当てを着けて立派なお嬢様冒険者の姿になっている。
そいや受付お姉さんから、そろそろウチ・シーちゃん・ギャリソンさんプラス火熊のクマキチのパーティー名を決めてくれって言われてたっけ。
何が良いかなぁ〜。
「そういえばパーティー名、どうしましょうかクラムさん」
「そだね〜。じゃあこんなのはどう? クラムのこのこシーちゃんちゃ――」
「却下」
「え〜?」
ウチのセリフに被せ気味に否定された。
結構いい名前だと思うんだけどなぁ。
シーちゃんは肘を張りながら腰に手を当て、ウチに顔を突き出しながら抗議する。
「ちゃんと考えてくださいまし! 今後、末長く呼ばれ続ける名前なのですわよ!?」
「ちょっぴりダサいぐらいのが、親しみやすくて良いじゃん。クラムチャウダー・シーちゃんちゃんとか」
「だから却下ですわ! そもそもギャリソンとクマキチさんも入っていませんじゃないですの!」
と、ギャリソンさんとクマキチを指差すシーちゃん。
人語が分からないクマキチは小首を傾げ、ギャリソンさんは「別にお気になさらず」と遠慮している。
「そういうシーちゃんは、どんな名前が良いのさ?」
「……え? あー、う、うーんと。そ、そうだわギャリソンはどんなのが良いと思う?」
と、ウチがシーちゃんに話を振るとギャリソンさんに丸投げした。
シーちゃんズルい。
その話を投げられたギャリソンさんは「ふむ」と顎に手を当てて考える。
「そうですな。お二方の勇猛果敢ぶりから、『嵐の乙女』とか『花吹雪』などとかは?」
「よろしいですわね! ではパーティー名は『花吹雪」でいきましょう!」
「えー? なんか面白味が無いなあ」
そんなウチの言葉を聞いた様子もなくギルドの建物に入って行くシーちゃん。
うーむ、最近ときどきベースを持っていかれる場合があるなぁ。
「シフォンヌお嬢様も多少はクラム嬢との付き合い方が飲み込めてきたようですな」
少し悪戯っぽい表情でウチにそう語りかけるギャリソンさん。
なんだか複雑な気分でウチは頭をポリポリ掻いた。
一応、受付お姉さんにウチが考えたのも言ってみたけど、ギャリソンさんの案に即決された。
「では貴方たちのパーティーは、これからは『花吹雪』という事で」
これ以上は無いぐらいの素敵な笑顔をウチに向けて、受付お姉さんはパーティー名を登録。
もちろん依頼の報酬はしっかり払ってもらったよ。
*****
「もしかして貴女はシフォンヌ・ベーグル・ターテロール様ではありませんか?」
ある日の冒険者ギルドからの帰り道に、突然そう声をかけられた。
ウチらのパーティー『花吹雪』の名前も、それなりにビュッヘーの町に定着してきた頃だ。
ちょうどウチがギャリソンさんに話しかけて、露天の品を二人で覗き込んだタイミングだった。
「あら、どちら様かしら?」
「……うむ、確かにあの婚約破棄の夜会で見た顔だ。連れて行け」
「は? ちょっと、何ですの貴方たちは!?」
それがウチら二人が振り返った時に聞こえたセリフ。
目に飛び込んできたのは、シーちゃんを箱型の馬車へと放り込もうとしているガラの悪そうな男の人たち。
口元を押さえられ抱きかかえられるように中へ運び込まれていた。
「ねえ、あれシーちゃんのお知り合い?」
「そんな訳ありません! あれは恐らくホン・オフェー伯爵の手の者です!」
珍しくギャリソンさんが慌てたようにウチに言った。
そういえばあの男達の中に、ちょっと立派そうな鎧を着けた人間が居たっけ。
まぁでもウチにとっては初めて聞く名前だから、首を傾げてギャリソンさんに質問続行。
「……で、そのホノヘーってのは誰なの?」
「ホン・オフェー伯爵はシフォンヌお嬢様の元婚約者ですよ! こうしちゃいられません、早く追いかけないと!」
そう言って、焦って走り出そうとするギャリソンさん。
ウチはその襟首をむんずと掴んで引き止める。
「お離しくださいクラム嬢! こうしている間にシフォンヌお嬢様が!」
「大丈夫だよ〜。クマキチはこう見えて鼻が効くから、すぐに追跡出来るよ」
自信満々に言ったウチのセリフに、クマキチも「ガウ!」と片手をあげて合わせる。
でもギャリソンさんの心配は止まらないようだ。
「しかし臭いを嗅いで追跡となるとスピードは遅くなるでしょう!? その間に伯爵の領地に逃げ込まれたら……」
「だから大丈夫だって。シーちゃんの聴覚とウチの耳を魔法で繋げてるから、シーちゃんが聞いてる音はこっちでも聞こえてるよ」
そうギャリソンさんに言ってブイサイン。
やったぜ父ちゃん明日はホームランだ(何となくのノリで言ってみた)!
「いまどこかの建物の中に入ったみたいだね、たぶんこの町の。反響音から、空き倉庫じゃないかな?」
ウチのセリフに呆気に取られたような顔をしているギャリソンさん。
彼の表情に、少し得意な気分でウチは続けて言った。
「まだこの町から出るまで時間があるみたいだし、焦らすクマキチに臭いを追っかけてもらおうよ」
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