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第07話 食料確保と後片付け

「ヘビヘビヘビヘビヘビ〜(何だ、このチビ助共は。大きな魔力を感じたが、ただの人間か)」



 上から見下ろしながら、最初に現れた大蛇頭が喋る。

 フッ、ウチが蛇語を分からないと油断しているな。

 


「そっちこそ何だデカブツ。その無駄に大きな御頭(オツム)の中には筋肉しか詰まってないのか?」


「ちょっとクラムさん!?」



 シーちゃんが慌ててウチに静止の言葉をかける。

 ふふふ、大蛇(おろち)も泣きだすオロチメイクライとか看板でも掲げようかな。

 でも面食らったのは向こうも同じ。

 連中は少し困惑した雰囲気で顔を見合わせた。



「ハーブハブハブハブ(兄貴、コイツ俺たちの言葉を理解してますぜ?)」


「ヘビヘビヘビーヘビ(馬鹿、ハッタリに決まってるだろ)」


「お前らの言葉ぐらい分かってるぞ。エルフ()めんな」



 そう、そしてコイツらはウチらの言葉だって理解してる。

 図体(ずうたい)に比例してそれなりに脳味噌も大きくなってるからだ。

 だからウチの挑発だってちゃんと効くんだよ。


 

「ハブハブハブハ~ブ(エルフですってよ兄貴。魔法が面倒臭い)」


「スネス~ネスネスネスネスネ(近くの町の人間共を食べ尽くす前菜代わりに、コイツら食っちまいましょうよ、兄貴)」


「ヘビヘビヘビヘビヘビーヘビ!(そうだな。よおし、ほざいたな虫ケラ。踏み潰してやるわ!)」


「ハーブハブハブハブ、ハブハーブ(さすがは兄貴! そこにシビれる憧れるゥ!)」



 スパァン!


 ボトッ。


 あ、なんか面倒になってきたから、手に持ってた自前の細剣(レイピア)で真空波を打ちだして一匹の頭を切り飛ばしちゃったよ。

 でもさすがにコイツらは生命力が強かった。

 切り落として頭だけになった奴が、普通に話を続けてるのがちょっとビックリだ。

 


「スネスネスネ?(あれ兄貴たち急に背が高くなった?)」



 残りの二匹は、ウチが仲間の一匹の首を切断した事に気がついてない。

 相変わらず残り二匹で「ヘービッビッ」と笑い合っている。

 その時ようやく頭を切り飛ばした大蛇の胴体がズシーンと地響きを立てて倒れた。

 派手な物音で初めて仲間の一匹がやられたのに気がついたようだった。



「ハブ?」


「ヘビヘビヘビヘビーヘビ(あれヘビ三郎、なんでそんな小さくなってんの?)」



 スパンスパァン!


 ボトボトッ。



「スネスネスネーク(兄貴達も同じ大きさになっちゃった)」


「ヘビー!?(なんだあ!?)」


「ハブハブハブハブ?(ようやくダイエット成功したのか?)」



 器用に頭だけで喋り続ける大蛇の生首。

 やっぱり面倒臭いから、そいつらを無視してシーちゃん達に振り返る。



「コイツらの胴体を血抜きして持って帰ろう。これで町の食料問題も解決だよ、やったね!」


「血抜き……私たち3人だけで!? この大きさのを!?」


「あーそうか、三人だけだとちょっと手間がかかるかあ」



 シーちゃんの指摘に、腕組みして考える。

 でもすぐに答えは出た。

 三人だと手間がかかるなら、人手を増やせば解決するじゃない!



「ギャリソンさん、ちょっとクマキチに乗って町へ戻ってくれない? ギルドに事情を説明して助っ人を沢山呼んできて欲しい」


「なるほど、それが一番確実ですな! しかしクマキチさんは私めを背中に乗せても大丈夫なのですかな?」



 確かにギャリソンさんにとっては、もっともな心配かもね。

 すぐにウチはクマキチに顔を向けて命令した。



「ガウ、ガウガウガウガウガウ(クマキチ、ギャリソンさんを背中に乗せて安全かつ速やかに町へ送り届けろ)」


「ガウガウ!(合点でさあ!)」



 四つ這いになったクマキチは背を低くしてギャリソンさんが乗りやすい姿勢を取る。

 ギャリソンさんは恐る恐るクマキチの背中に登ると、クマキチは「ガウ(行ってきます)」と唸って駆け出した。

 その結構なスピードに「ぬおおおお!?」と叫ぶギャリソンさん。



「ガウガウガウガウ!(ギャリソンさんを落とすなよ!)」


「ガウガウガウ!(了解です姐御!)」


「ふぬおお!」



 ギャリソンさんの叫び声とクマキチの姿が消えたタイミングで、ウチはシーちゃんへ話しかける。

 手に持った剣を大蛇の胴体へ向けながら。



「さ、応援が来るまでウチらだけでも作業進めようか」


「えっ、作業って……?」



 予想外の事を言われたという表情でシーちゃんが返答。

 あー、もしかしてギャリソンさんが戻るまでここで待機と思ってたのかな。

 


「もちろん血抜き作業だよ。大丈夫、シーちゃんでも皮()きぐらいは出来るよ」


「えっえっ皮剥きって、クラムさん……!?」


「もちろんこのデカい蛇の胴体の皮だよ」



 シーちゃんに説明したけど、どうも彼女の求めていた答えとは違っていたみたい。

 青い顔をしてシーちゃんがウチの言葉に被せるように続ける。

 


「いえそうではなく、血抜きで皮を剥くって事は、血が……」


「ん? 当然出てくるよ〜、皮と身の間から。大丈夫、残りの胴体二つはウチが魔法で冷やして腐らないようにしておくから」


「そういう問題ではありませんわクラムさん! その血って作業してるこちらにも……」


「当然かかるね〜」



 シーちゃんは「ひぃ」と小さく叫んだ。

 なんでだろ、これも必要な作業なのにね。



「さ、頑張ろう。早く血を抜いていかないと肉が傷むよ」


「ううう。なんか皮がヌメッっとした感じに光ってて気持ち悪いですわ」


「じゃあ最初は皮に切れ込みを入れるところから慣れよう。これも冒険の醍醐味だよ!」


「いやああ、服が汚れてしまいますわ! 許してくださいましいい(泣)!」



 しばらく泣き喚いていたけれど、すぐに決意の表情で服を脱ぎ、下着姿になったシーちゃん。

 うんうん、なんだかんだで早めに腹を決める所が好きだよ。

 でも下着姿だと胸の大きさがよく分かるなぁ。

 やっぱりちょっと嫉妬しちゃうぜぃ。



「もうどうにでもなれ! ですわ! 血だろうが蛇皮だろうがやってやろうじゃないですの!!」


「おお〜。ぱちぱちぱち!」



*****



「ただいま帰りましたシフォンヌお嬢様。って、どうされました!?」



 クマキチの背中に乗ったギャリソンさんが帰ってきた。

 その目にいの一番に入ったのは、全身血みどろで体育座りをしている虚ろな瞳のシーちゃんの姿だったはずだ。

 下着姿で血まみれのシーちゃんは、さっきからずっと一人でボソボソと呟いている。



「私、身体が汚れてしまった……。ううう」


「こらこらシーちゃん。男が喜ぶタイプのエロ物語のヒロインみたいなセリフを言わないの」



 そんなやり取りをしているウチらの元へ、ギャリソンさんの後ろからゾロゾロと沢山の人間が姿を見せ始めた。

 武骨な鎧を着ている人、料理用の包丁を持ってる人、荷車(リヤカー)を馬で引いている人。

 その最初にギャリソンさんの後ろから現れた男の人間さんは、ここの光景を見てビックリした顔になる。



「こ、こいつら三匹、もしかしてあんた達三人で片付けたのか!?」


「そだよ〜」


「スゲエなアンタ達!」


「大したことないって」


「いやいや、冒険者証みる限り見習いなんだろ? すぐAランクに駆け上がりそうだぜ」


 

 そう言ってくれた、鎧に身を固めた男の人の後ろでさっそく大蛇の解体作業が始まっていた。

 長すぎる胴体をある程度で輪切りにしてから皮を剝いたりしていて、頭良いなとか思ったり。

 んで、その作業をしている人々の横にさっき切り飛ばした大蛇の頭が三つ転がっている。

 ロープで縛ってひとつに(まと)めてるけど。



「ヘビ! ヘビヘビヘビヘビヘービ!(覚えてろ! 隣村の人間みたいにお前らみんな食い殺してやる!)」


「スネスーネ!(竜族王に俺はなる!)」


「ハブハブハブハブ(兄ちゃん旨そうなエエ身体しとるやんけ)」



 約一匹、お姉ちゃんに迫るスケベオヤジみたいなセリフ言ってるのがいるな。

 とか考えてると、今度はコックコートを着てエプロンを付けたオジサンがやってきた。

 大蛇の頭を指さしながら、ウチらに尋ねてくる。



「なあ、あそこの蛇の頭も貰って帰っても良いかい?」


「良いけど、どうするの?」



 ウチの疑問に、ギャリソンさんが答えてくれた。

 さっきクマキチから降りるのに苦労してたのに、行動が早いね。



「蛇の脳は、一部の美食家貴族に珍味として有難がられているのですよ」


「へ~」



 そんなこちらの会話が、蛇頭たちに聞こえない訳がなく。

 ビクッと頭を震わせるとウチら二人へ視線を向けた。



「へ、ヘビ!?」


「ハブハブハブハーブ!(な、なんて酷い事を考えやがる!)」


「スネスネスネ!(この人でなし!)」



 わめく大蛇頭を気にも留めずに、コックコート姿の人や冒険者っぽい姿の人が数人がかりでその蛇頭をリヤカーへ運んで行く。

 ああ、()に恐ろしきは人間の食欲。

 リヤカーに乗せられた巨大な頭は口汚くわめきながら、馬に引かれて去っていった。



「魔物の頭まで食料にしようだなんて、人間が一番怖いね」


「クラムさんにだけは言われたくありませんわ……」



 相変わらず虚ろな瞳のまま、顔をこちらへ向けたシーちゃんの言葉が耳に入った。

 ふーんだ、聞こえないもーん。

お読みくださりありがとうございます。

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