表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/33

第05話 ハイテンション説明お姉さん

「冒険者って言うからには、やっぱり冒険をするの?」


「冒険……まぁ危険を(おか)す仕事が多い職ではありますね」



 ウチの疑問に、丁寧に受け答えしてくれる受付のお姉さん。

 長い髪を後ろでまとめた髪型に、可愛らしくも凛々(りり)しい顔立ちは男の人からの人気も高そうだ。

 私たちの監視役してる兵士さんをチラ見すると案の定、顔が少し赤くなっていた。



「危険を冒す冒険だと、魔王を倒したりだとか」


「なんで緊張関係にも無い魔族の国を、一介の冒険者が滅ぼさないといけないんですか」



 というウチの疑問にも懇切丁寧(こんせつていねい)に否定してくれた受付のお姉さん。

 ついでに周辺諸国の情報まで混ぜてくれている。

 なかなかやりますな、受付嬢さん!

 


「さらわれたどこかの王女を助けたり」


「どこの国もセキュリティしっかりしてて王族が誘拐された話は聞きません」


「前人未踏の山脈の頂上に登って『てっぺん取ったどー!』って叫んだり」


「それは個人の趣味の範疇(はんちゅう)ですね」


「負けが()んだギャンブルで最後の一発逆転を狙って、破産覚悟で生活費含めて全財産つっこむとか」


「それは冒険ではなく単なる火遊びでは?」



 色んなボケネタの話を振っても、眉ひとつ動かさず冷静に切り返してくる受付嬢さん。

 ウチは(あご)まで(したた)り落ちる冷や汗を、手の甲で(ぬぐ)いながら独り()ちる。

 

 

「くっ……出来る! なかなかボケ攻撃でガードを崩せない!」


「なんでボケツッコミ合戦になっていますの!? 冒険者の説明をしてもらうんでしょう!」



 ウチの頭をポコンと叩きながらシーちゃんが(たしな)めてくれた。

 うーん持つべきは冷静(クール)な漫才の相方だね!

 


「冷静なツッコミありがとうシーちゃん!」


「なんか頭の中で失礼な事を考えてそうな表情ですわね」


「ありゃ凄い。そんな事までシーちゃんは分かるんだ」


「この短い間でもすぐに理解できるぐらい、クラムさんが分かりやす過ぎるんですのよ!?」


「ウチのことそんなに観察してくれてるんだ、ありがとう」


「と、当然ですわ」



 いつものように顔を赤くして(うつむ)くシーちゃん。

 受付のお姉さんは、ナゼか口元に手を当てて「あらあらうふふ」と笑ってる。

 今まで黙って様子を見守ってくれていたギャリソンさんがシーちゃんに耳打ち。



「シフォンヌお嬢様、冒険者の説明をこの方からクラム嬢に聞かせて差し上げないと」


「あっ」



 一言そう声をあげると咳払いして受付嬢さんへ向き直るシーちゃん。

 受付嬢さんはクマキチを見ていた怯えもさっきの凛々しさも何処へやら、ニコニコ顔になって説明を再開してくれた。



「うふふ、では改めて説明をさせていただきますね」


「あ、はいよろしくお願いします」



 ついうっかりボケ攻撃をかましてしまったけど、そろそろ真面目に聞かないといけないよね。

 ウチが冒険者って職業のことをよく知らないからこそ受付嬢さんが説明してくれるんだし。

 ギャリソンさんが近くのテーブルから持ってきた、受付嬢さんの前に置いてくれた椅子二つに腰掛けるウチとシーちゃん。



「ええと現在で冒険者というのは、ギルドに寄せられた依頼を請け負って報酬をもらう人たちのことを指します」


「あれ、なんか言葉のイメージと違うなあ?」


「それはもう仕方ありません、食い詰め者の最後の仕事という面もありますので。せめて世間体(せけんてい)だけでも誇りを持って頂こうという計らいも否定しません」


「それってつまり雑用……」



 そうウチが言いかけた時、受付嬢のお姉さんが怖い顔になって釘を刺してきた。

 いつの間にか眼鏡をかけて、それを片手で位置を直しながらもう片方の手でこちらを指さす。

 眼鏡がキランと光った。



「シャラップ! それ以上はダメです! いいですか、これは冒険なのです!」


「あっ、はい」


「小さな依頼から大きな依頼まで、危険を伴う仕事をこなして報酬をもらう。国の経済を動かす力だ冒険者ギルド!」



 なんだか相方を見つけて二人組で歌って天気予報でもしそうな勢いで叫ぶ受付お姉さん。

 その迫力に気圧(けお)されたのもあって、ウチは素直にうなずく。



「はぁはぁはぁ、冒険者というものが少しは分かっていただけましたか?」


「た、たぶん」



 急に叫んだせいもあって、荒い呼吸になってウチに詰め寄る受付お姉さん。

 横目でちらりと兵士さんを見ると、百年の恋も()めた顔をしていた。

 う~ん、ちょっと同情する。



「まぁしかし、雑用……ゴホン、簡単な冒険の依頼ばかりではなく、血湧き肉躍る荒事の依頼も我々冒険者ギルドが請け負っているのも事実」



 言いながら、何処かから車輪の足付き黒板を引っ張り出す受付お姉さん。

 そしてウチらに背を向けて、備え付けのチョークで黒板に何かを書き始める。

 カツカツと音を鳴らしながらの筆記と並行して、口での説明は継続。器用だね。



「そして冒険者といってもピンからキリまで! 上を見たらそれこそ先ほどエルフの方が言われていたような、英雄級の冒険者も存在しているのも現実です!」



 そこまで言ってウチらへ振り返ると、黒板にチョークをガンと叩きつけるお姉さん。

 黒板には四つに輪切りにされた三角形が描かれている。

 叩きつけられたチョークがボキリと折れて床に落ちた。



「床に散らばったゴミ、あとで掃除しといてね」



 通りがかった受付お姉さんの上司っぽい人が、そう言葉をかけて向こうへ行く。

 お姉さんは高速でその人へ向かって頭をペコペコ下げていた。

 組織人は大変だ。



「っえ~オホン……。まずは一般的な冒険者のランクは大別して四つあると思ってください。それぞれ上からABCDに分かれていて、実力が認められていけばランクがDからAへと次第に上がっていきます」



 と言いながら、輪切り三角形の下から順番にDCBAと書き込んでいく。

 そして続けて、三角形の上に大きくSと書き込むと説明を続けた。



「ちなみに英雄級の冒険者には特別にS級が付与されますが、それこそ国難レベルの困難を救った功績がある人物にのみへの栄誉称号なので例外です。過去にも、世界滅亡を企んでた数代前の魔王を倒した勇者様ぐらいにしか与えられておりません」

 

「それでは私たちは登録したてなので、D級から開始という事ですね」


「残念ながら、違います」


「えっ!?」



 シーちゃんのセリフを速攻否定した受付お姉さん。

 今度は三角形の下に「見習い」と書き加える。

 そして黒板へ手の平をバンと叩きつけた。



「まず貴女たちには冒険者見習いから始めてもらいます! 地道な薬草採取やドブ掃除を数こなしてギルドに認められてはじめて冒険者と認められるようになるのです!」


「ブラック企業のやりがい搾取ぅ~う」


「黙りなさい! 地道で単調な作業をこなせずして、何を大きな事業ができようか! 世界は誰かの地道な仕事で出来ている! 来たれ若人(わこうど)!」



 (こぶし)を振り上げて力説絶叫する受付お姉さん。

 周りの冒険者さんは、一瞬チラリとみるだけで素知らぬ顔。

 そっかー、これは割とよくある光景なのかー。



「はい、毎度大きな声での説明ご苦労さん。じゃあ床を掃除した後はこの二人の冒険者登録をしようか?」



 さっきの上司っぽい人がホウキとチリトリを持って、受付お姉さんの隣に立ってそう言う。

 お姉さんは真っ赤な顔で「すみません」と言いつつ自分でチリトリとホウキを持って、かがんで床掃除。

 監視役の兵士さんは握り拳を胸の前に持っていって、「俺は彼女の全てを受け入れる……!」と呟いていた。

 頑張れ、若者!




 


「……はい、それでは登録完了です。えーっと、基本的に依頼はあそこの掲示板に貼りだされているのですが、早い者勝ちです。良い依頼を受けたいなら早朝に来るのが鉄則ですよ」


「えー! じゃあ今からだと依頼はもう無いの!?」



 登録書類を作成した後で、その書類の束をトントンと揃えながら説明を続ける受付お姉さん。

 それを聞いたウチの反応にも、動じずチッチッっと人差し指を立てて左右に振る。

 

 

「見習い向けの依頼はカウンターで常時受け付けていますので、大丈夫ですよ。と言っても、今からだと近くの草原での薬草採取ぐらいしか出来ませんけどね」



 *****



「やっと登録終わったー! でも依頼を受けなくても良かったの?」


「あの受付嬢が言っていた通り、今からでは大したことは出来ませんわ。もうお昼も過ぎておりますしね」


「賢明な判断です、シフォンヌお嬢様」


「あ、それじゃあさ、お昼ご飯食べようよ。ウチもうお(なか)ペコペコだよ」


「それはよろしい考えですわね。では今回のランチは特別に(わたくし)(おご)って差し上げますわ」



 ニッコリ爽やか笑顔で言ってくれるシーちゃん。


 だけどこれが地獄の始まりだった。

 と、後でシーちゃんに聞かされた。

お読みくださりありがとうございます。

よければブクマ・評価・感想お願いします。

作者のモチベが爆上がりします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ