第04話 舎弟が新たな扉を開いたようです
「なんだ貴様ら! 魔物を連れて怪しい奴め!」
なんか知らないけど、ビュッヘーの町の兵士さんに囲まれてるウチら。
よく分からないので後ろのシーちゃんへ聞いてみた。
「ねえシーちゃん、人間の町だとこれが歓迎の挨拶なの?」
「そんな訳ないでしょう! 後ろのクマキチさんを怖がっているのですわ!」
シーちゃん絶叫。
なんでそんなに怖がるんだろう、そんなに強くないのにコイツ。
腕を組んで首を傾げるウチ。
「クマキチなんて大して怖くないのにね」
「普通の人間は怖いものなんですのよ!」
「へ~、そういうモンなの?」
そう言って兵士さんの方を向くと、ビクッと後ろに下がる。
ああなるほど。
エルフの里の、男の子連中みたいな反応してるって事か。
とか呑気に考えてたら、兵士の一人がテンパりだした。
「ひ、ひぃぃ」
チクッ。
「あ」
ビビった兵士さんの一人が槍を突き出しすぎて、クマキチに当ててしまった。
すごいヘッピリ腰だったから、とにかくクマキチと距離を取りたい無意識だったんだろうけど。
理由はともかく、これでクマキチが逆上して暴れたら止めないと。
とか考えていたら。
「ガウ〜ん♡」
腹を見せながら仰向けに転がってしまったクマキチ。
……あれ?
なんか鼻息も荒くなって目つきもトロンとしてる。
あ、うーん、もしかして。
「ガウガウガウ。ガウガウガウガウ!(素敵な痛み♡ もっとチクチクして!)」
あ〜あ、恍惚とした目でオシッコまで漏らし始めたよ、コイツ。
さっき大して攻撃してないのにオシッコ漏らしてたの、コレが理由かぁ。
一応、念のためにクマキチに聞いてみた。
「ガウガウガウ?(なにやってんのオマエ?)」
「ガウガウガウガウガウガウ。ガウガウ(先だっての姉御の『教育』でアッシの中の何かが新たに目覚めました。もっと突いてぇ)」
「ガウガウガウ(なに言ってんだオマエ)」
さっきクマキチに上下関係を教え込んだ時に、コイツの新たな性癖を目覚めさせたみたいだ。
隣のシーちゃんも訝しげに聞いてくる。
「ええと、クマキチさんは一体どうしたというのかしら……?」
「なんかねー、コイツ痛い事されると(性的に)興奮するようになったみたい」
「ええええ(汗)」
ああ〜うん、シーちゃんはそう反応するよね。
クラム覚えた!
周りの兵士さんも困惑しながらも少し安心したみたい。
「隊長……。このファイアベアはさほど危険は無いのでは?」
「う……うむ、そうだな。万が一コイツが暴れだしても、この感じだと制圧も容易だろう」
という事で、一応の監視役の兵士さん一人を付ける条件で町へ入る事の許可が下りたのであった。
クマキチは素敵なチクチクが無くなって残念そうな顔してたけど。
仕方ないから地精霊パンチを喰らわせたら、またオシッコ漏らしながら喜び悶えていた。
なんか「(やっぱりクラムの姐御のが一番キくぜ)」とか言ってたけど気にしたら負けだな〜。
あ、そういえばシーちゃんにまだ聞いてなかった事があったっけ。
「そういえばシーちゃんはこの町で何をするの?」
「冒険者ギルドへ行って登録をするのですわ! 白馬の王子様作戦が厳しいなら、まずは食べていかないと」
「大変現実的な判断。このギャリソン感激です、シフォンヌお嬢様」
シーちゃんの返答にギャリソンさんがハンカチを目に当てて涙を拭いていた。
意外と感激屋さんだよね、この執事さん。
まぁそんなこんなで付き添いの兵士さんの先導で、冒険者ギルドってのがある場所へ出発した。
*****
冒険者ギルドへ行く道すがら、道路に出ている露店を見ながら歩く。
食用肉や植物を扱っている店も多かったけど、ウチ的にはアクセサリーや飾りつけ用の花なんかが置いてあるのが物珍しかった。
へ~、へ~、と感心しながら見ていると歩くスピードは自然に落ちる。
その事に気が付いてシーちゃんを見たら、なんだか上機嫌でニコニコこちらを見つめていた。
そして町中の人たちは、ウチらの後ろを歩くクマキチをおっかなびっくり見つめている。
町中を歩く人々の中に少なくない数の、背は低いけど恰幅の良いドワーフや耳の生えた獣人が混じっているのがウチには逆に新鮮だ。
そんなこんなで監視役の兵士さんが案内してくれたのは、石畳が敷き詰められたメインの通りの先にある広場に面した石造りの建物。
周りのと比べても、割とそこそこ大きい。
どうやらここが目的地の冒険者ギルドらしいね。
お目付け役の兵士さんが建物の扉を開けると、そのまま自分が先に入っていった。
入り際に「先ほど伝令があった冒険者希望の者を連れてきました」と言っていたので、ウチらが露店を眺めながらのんびりしてる間に別の誰かが連絡してくれてたみたいだ。
入った先はちょっとした広間になっていて、いくつかのテーブルが置かれていてその奥に受付カウンターらしき場所がある。
広間にたむろしている武器を携えた冒険者らしい何人かの視線を集めながら、兵士さんはまっすぐ奥へ進む。
カウンターの奥に座る女性に一礼すると、彼女へ紹介するようにウチらの方へ腕を伸ばした。
「よ、ようこそ冒険者ギルドへ。こ、ここへ来られたという事は新規登録をご希望でしょうか?」
受付役に見える女の人が、顔を引きつらせながらウチら二人に話しかけてくる。
必死に笑顔を作っているけど、目は全然笑ってないよお姉さん。
受付の女の人は貼り付けたような笑顔のまま、怯えた視線をウチらの後ろへチラチラ送っている。
「ガウ?」
当の視線を送られた相手であるクマキチは「俺なんかやっちゃいました?」みたいな表情。
まぁお姉さんだけじゃなく、この受付広間にいる人みんなが同じ引きつった表情でクマキチを見てるけど。
さっきシーちゃんが言った通り、普通はクマキチのようなファイアベアを怖がるものらしい。
「大丈夫だよ〜。コイツはウチらの舎弟みたいなモンだし」
二ヘラ〜と笑いながら、受付嬢さんにそう説明する。
受付の女の人は困惑した顔で「はあ……」とだけ答えた。
そんな受付の人へ、シーちゃんが少しドヤった顔で話しかける。
「そんな事よりも冒険者の登録ですわ! こちらの方はエルフで最近人里へ出てこられたんですの。説明して頂けます!?」
「エルフ!? ……あ本当、耳が長い。後ろのファイアベアに気を取られて分かりませんでした」
ウチをようやくじっくりと見て、はじめて気がついた受付さん。
それでもクマキチへ視線を送りながらビクビクしてるので、可哀想だからクマキチへ命令した。
「ガウガウガウ。ガウ!(よしクマキチ、お座り!)」
サッと床にお尻を付けて座るクマキチ。
そして後足を持ち上げておっ広げると股間を受付嬢へと晒した。
「ガウ、ガウガウ(バカ、それは挑発用だって言っただろ)」
「ガウガウガウ。ガウガウガウガウ(すまねえ姐さん。間違ったアッシを罰してくだせえ)」
コイツ……わざと間違えたな。
でもとりあえずこの場を収めないと話が先に進まないから仕方が無い。
思い切りガツンとクマキチの股間を蹴りつけてやったら、「ガフン♡」とひと言放って気絶。
もちろんその顔は、幸せそうな表情で白目を剥いていた。
なんか腹立つ。
「さてと、これで落ち着いてお話できる?」
「あ、ありがとうございます」
ウチの言葉にそう返事してくれた受付嬢さん。
咳払いをひとつして気持ちを切り替えたようで、表情が一気に引き締まった。
「新規の冒険者登録という事ですが、どこからご説明いたしましょうか?」
さっきまでの怯えた態度はどこへやら、凛々しい顔でこちらへ話を振ってきた。
だけどね〜、ウチにはまだまだ聞きたいことがあるのだ。
頭をポリポリ掻きながら、その疑問を口にする。
「ん〜……そもそも冒険者ってなに?」
「「そこからですの!?」」
受付嬢さんとシーちゃんが声を揃えてツッコんできた。
お読みくださりありがとうございます。
よければブクマ・評価・感想お願いします。
作者のモチベが爆上がりします!