第03話 子分が出来たよ、やったね!
「んーと、シーちゃんは魔法が見たいんだったよね」
「……ええ」
「それじゃ今からやるねー」
そう言って腕まくりすると、右腕をぐるぐる回す。
そのまま腰に下げた皮袋に入れてある四種の精霊スライムを頭で念じて呼び出す。
よし、まずは炎から行ってみようか。
ウチは呼び出した炎の精霊スライムのアブサントをその右腕に纏わり付かせた。
「それじゃまずは炎の魔法いっくよー! うりゃっ!」
どごーん!
地面に拳を叩き込んだら、直径3メートルぐらいのクレーターができた。
シーちゃんとギャリソンさんは口をあんぐり開けたまま固まっている。
二人の目の前で手をヒラヒラ振ると、ようやく気が付いて表情が戻った。
「ま、魔法って呪文とか唱えながら杖を振ったりするものだと思ってましたけど……」
「杖はともかく、普通は呪文唱えるね〜。ウチはこの精霊スライムを連れてるから、呪文無しに魔法を使えるんだ」
再び歯を見せながら、ニッコリ笑顔でブイサイン。
だけどシーちゃんは頭を抱えて唸った。
「私の魔法のイメージが……」
そんなシーちゃんを尻目にウチは次の魔法を披露する。
次は水の精霊さんが良いかな。
よし来いジョーゼンミ=ズノゴトシ!
「次は水の魔法ね!」
どごーん!
別の場所に作ったクレーターを見て、シーちゃんとギャリソンさんが首を傾げた。
ん? どしたんだろ。
「次は土魔法だよ〜!」
どごーん!
首を傾げた二人の表情が強張った。
まぁ良いか。
「今度は風魔法!」
どごーん!
二人の表情が理解出来ないモノを見るやつに変わった。
魔法を見慣れてないと、何やってるか分からないかもねぇ。
「最後は全部の属性を混ぜた最強魔法!」
どごーん!
「全部同じパンチじゃないですの!!」
シーちゃんが良く分からない感想を言い出した。
人間って魔法が使えないって聞くからな〜。
「違うよー! これだから魔法の素人はダメなんだよ。もっと地面の穴を良く見て!」
そう言って魔法で空けた地面の穴を指差す。
まず最初のやつ。
「ほらコレは炎の魔法で殴ったから、土が溶けてガラス状になってるでしょ」
二人とも腕組みしながら顎に手を当てて、訝しげな顔。
そんなに難しい事言ってないのになぁ。
まぁいいや、次いこ次。
「この水魔法で殴った穴は、飛び散った水分が凍りついて表面に氷が張り付いてるし」
「土魔法なんかはほら、砂が混ざって結晶化してダイヤモンド状にツルツルしてる」
「風魔法は圧縮空気で押さえつけたところが固まってるでしょ?」
「最後の最強魔法は、土を原子分解して消滅させてるから、穴の表面が金属みたいにツルンとしてるし」
ウチの説明を聞いてる間にだんだんと頭を抱えていたシーちゃん。
ついに顔を空に向けて絶叫した。
「全部穴の表面がツルツルすべすべでやっぱり違いが分かりませんわ!!」
「ちなみに全部の属性を混ぜた最強魔法だけは必殺技みたいだから名前を付けてるんだ。その名もメドロー……」
「あーっ! もうそんな事はどうでも良いですわ!!」
こりゃ簡単には理解出来なさそうだね。
折を見てチマチマ教えてあげるとしよう。
とりあえず笑って誤魔化しちゃお。
「にへへ。んじゃ教え方を考え直してまた教えてあげるよ」
「あ……う……。え、ええ。そ、その時は宜しくお願いするわ、クラムさ……ん……」
また顔を赤くして、俯きながらそう言ったシーちゃん。
もっと大きな声で言わないとダメだよ、ウチは耳が長いから聞こえたけど。
その時、近くの薮の中からガサガサ音がして火熊が現れた。
羆じゃないよ火熊だよ。
ファイヤベアは、無駄にデカい巨体でウチ達を確認すると上半身を起こして立ち上がり、両手をバンザイして威嚇の吠え声をあげる。
この辺に棲んでるヤツだとウチの顔を知らない個体だろうから、調子乗ってるな〜。
「お嬢様、危険です下がって下さい!」
ギャリソンさんがシーちゃんを庇うように前に出る。
そのシーちゃんは、真っ青な顔してフリーズしていた。
あー、初めて見ると案外そんな反応するのかもね。
まぁでもファイヤベアなんてそんなに強い魔物じゃないし、ギャリソンさんだけでも余裕でしょ。
と思ったら、ファイヤベアの腕のひと振りでギャリソンさんが吹っ飛ばされた。
あれえ?
シーちゃんも例の速い突きでファイヤベアの腕を攻撃していたけど、傷が浅いせいで余計に逆上させてしまっている。
あれれえ!?
ウチは昔、近所の男の子を数人連れてエルフの里周辺の森の中を探索してた時の事を思い出した。
そういえばあん時も男の子連中は、ファイヤベアを見て腰抜かしてたっけ。
シーちゃんとギャリソンさんもそんな感じになってるのかも。
とか考えながら、ウチは土精霊スライムのリ=モンチェッロを呼び出す。
「そりゃ」
バッコーンッ!
その土の精霊で、地面の真下から土を固めて作った拳骨を飛び出させて殴りつけた。
調子こいてるファイヤベアの顎を。
殴った衝撃は狙い違わず顎から脳天へ通り抜け、ファイヤベアをのけ反らせて失神させた上に昏倒も追加。
ズズゥーン!
白目を剥いてひっくり返ったファイヤベア。
熊の胸に足を乗せて、水の精霊スライムで作った水をぶっ掛けて目を覚まさせる。
起きてすぐに牙を剥き出して威嚇してきたファイヤベアを、ギロリと睨みつけて一瞬で怯えの目に変わらせた。
「ガウガウガウ?(まだやるかい?)」
「ガウガウガウ。ガウガウガウガウ(降伏します。許して下さい)」
エルフの里の周辺で火熊相手に「遊んで」いた時に覚えた熊語で話しかけると、素直に負けを認めてくる。
何か水音がしたのでそちらを見ると、このファイヤベアがオシッコを漏らしていた。
そんなに怖がらせたつもりは無いんだけどなぁ。
「凄いですなクラム嬢! あんな離れた場所から一撃でファイヤベアを倒すとは!」
「最初から、いま出した魔法を見せて下されば良かったですのに!」
シーちゃんとギャリソンさんが駆け寄って口々に話す。
そんな大した事してないと思うけど。
そしたら今度は踏んづけてる足の下から声が。
「ガウガウガウ(ちょっと姐さん良いですか)」
「ガウ?(どうした?)」
「ガウガウガウガウ(アッシを舎弟にしてくだせえ)」
ほう、なかなか殊勝な心がけのファイヤベアだ。
魔物とはいえ獣だけあって、思考回路はかなり単純だしね。
弱肉強食、強い者こそが正義。
さっきウチはコイツより強いのを証明したからねえ。
「クラムさん、もしかしてその熊と会話しているのですか?」
シーちゃんがびっくりしたように聞いてきた。
この子、慣れてくると結構色んな表情を見せてくれるな〜。
ちょっと可愛いかも。
「そだよ〜。なんかこいつ、ウチの子分になりたいってさ」
「えええ!?」
「そだね〜、でもまずはコイツにシーちゃんとギャリソンさんの方が上だって事を教え込まなきゃ」
「教え込むって……」
そりゃもう物理的にも「色々」と、ね。
この後しばらく熊吉(ウチがいま命名した)の絶叫とともに教育を徹底的におこなって、無事におとなしいファイアベアの子分がウチの一行に加わった。
「よ、よろしくねクマキチさん」
「ガウ!(もちろんでさあ!)」
*****
「ここがビュッへーの町かぁ」
ようやく着いた最寄りの町。
ビュッヘーの名前は途中でギャリソンさんに聞いた。
ここからだと城壁が邪魔して中が良く見えないなあ。
「なんだ貴様ら! 魔物を連れて怪しい奴め!」
入口に並んでる行列の向こうから、鎧を着こんだ人間の兵士が何人も飛び出してきた。
そして兵士さんたちは槍を構えてウチらを取り囲む。
「ねえシーちゃん、人間の町だとこれが歓迎の挨拶なの?」
後ろのシーちゃんへ振り返ると、シーちゃんは「そんな訳ないでしょう」と額を手で押さえて俯いていた。
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