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第16話 殴った、燃やした、倒した

来来亭、天下一品、神座、第一旭

 ウチは戦闘態勢を取るべく腰を落とした。

 入り口のヒョロガリローブは手に持っていた灰のような物を捨てると、手を自分の懐に入れる。

 

 やっぱりまだ何か別の魔道具を持ってるみたいだ。

 ちなみに捨てた灰は、使い捨てタイプの魔道具のスクロールなんだろう。



「ぎひゃひゃ、魔道具は呪文の詠唱無しで魔法を発動できる! たとえお前が魔法を使えたとしても、呪文を唱え終わる前にこちらの攻撃がお前を襲うだろう!」


「あっそ」



 手近にあった皿を掴むと男に投げつける。

 ヒョロガリローブ男は余裕の表情で懐から透明な玉を取り出すと、そこから発射した氷の粒で皿を粉砕した。

 そして、



「うぎゃーっ!?」



 叫んだのはヒョロガリローブ男。

 そりゃ突然、頭が燃え出したら慌てるよね。

 さっきの余裕の表情はどこへやら、驚愕に顔を歪ませる。



「馬鹿な! 小屋の魔封石は魔道具の魔法すら抑え込むんだぞ!? なぜ魔法が発動する!!」



 必死で頭を(はた)いて火を消そうとしているヒョロガリローブ。

 その隙にウチは距離を詰めて、思い切りヒョロガリローブの顔面にパンチを叩き込んだ。

 

 悲鳴をあげながら吹っ飛ぶヒョロガリ。

 飛ばされた勢いで、頭髪の火は消火。

 水晶玉は殴られた衝撃で取り落としていた。



「あの程度でウチの魔力を封じ込められたと思ったのなら、角砂糖を10個入れたホットコーヒーよりも甘い!」


「何を言っている!? そこのダークエルフの娘はちゃんと魔力が封じられていたではないか! しかもお前、呪文無しで魔法を使っていたな!?」


「知らんがな」



 敵対してる奴に精霊の事を説明する義理は無いし。

 その時、ようやく物音に気が付いた仲間たちがこちらへ駆け寄ってきた。

 口々にウチの身の安全を気遣う言葉を言いながら。

 そのうちの一人がふと、ヒョロガリの顔を見て驚きの声をあげる。

 


「こ、こいつは王都で指名手配されているダイチャーサ・ヒイじゃないか!」


「まじかよ!?」



 えーと、ダイチャーサって誰?

 首を傾げながら頭に疑問符が浮かびまくっているウチの様子に、仲間の一人が説明をしてくれる。



「あ、そういえばクラム姉さんは最近エルフの里から出てきたんだっけ」


「なるほど、そりゃこの国の事情を知らなくても仕方がないか」


「ダイチャーサ・ヒイってのは、この国の軍事四天王の一人だった男さ。雷帝ライことライ・ライテーを筆頭としてテンカイ・ピン、カモク・ラーと合わせた……な」



 そうやってる間に他の仲間がダイチャーサと皆が言ってるヒョロガリ男を縛り上げている。

 ウチは説明を受けるのを中断して彼らに注意を促す。



「あ、そいつ魔道具を懐にいくつか忍ばせてるみたいだから、身体検査を念入りにしたほうが良いよ」


「まじかよ」


 慌ててヒョロガリの身体をまさぐり始める仲間たち。

 ダイ何とかって名前のヒョロガリは「くそっ」と舌打ちしている。

 あの様子だと、やっぱりまだ何か隠し持っていたな。



「……話を続けるぜ、姉さん」


「あ、うん」


「で、噂によるとダイチャーサは禁忌の魔術研究に手を染めてたのがバレて、国家反逆罪の罪に問われたから逃亡したらしいんだと」



 ウチらの会話が耳に入ったらしく、ヒョロガリのダイ何とか君は突然暴れてわめき始めた。

 何が地雷だったんだろ、面倒くさい奴だなあ。



「くそー! 王女の入浴を遠くから覗くことが出来る水晶玉を作ることの何がいけないんだ! 女湯の(のぞ)きは男のロマンなのに!!」


「お前と一緒にするな!」



 大半の仲間は即座に否定したが、ウチは見たぞ。

 何人かがちょっとだけ残念そうな表情になったのを。

 もう、これだから男ってやーね。

 とか心の中で言ってみる。



 


「大丈夫ですのクラムさん!?」



 森の下生えがガサガサ音がしたと思ったら、シーちゃんともう一人の先輩開拓者が現れた。

 頭や服にいっぱい木の葉がくっ付いているから、相当に急いでここへやって来たのが伺える。

 シーちゃん、めっちゃ息切らしてるしね。



「大丈夫だよ〜」


「突然、通信魔法が途切れたから何が起こったのかと」


「あそこの小屋に魔法封じの石があって、そのせいで魔法が消えちゃったんだよ〜」


「ええっ!? と、とりあえず無事で良かった……」



 ウチの姿を見て安心したのか、シーちゃんはへなへなと膝から崩れ落ちた。

 うん、こんな時のシーちゃんに効くのはコレだな。

 ウチは満面の笑みを浮かべながら、相棒に向かってブイサイン。



「もう、クラムさんたら……」



 つられてシーちゃんも笑顔になる。

 安心が過ぎて、ちょっぴり涙目になってたけど。

 その時、小屋の中から例の捕まっていた女の子が冒険者仲間に連れられてやって来た。



「お(ぬし)じゃな、(わらわ)を助けてくれたのは」


「ん? 誰だっけ」



 ウチの反応にガックリ肩を落とす女の子。

 表の陽の光で見ると、見事な小麦色の肌だ。

 女の子の耳は、やっぱりウチと同じ形の長い耳。

 


「透明化魔法を使って窓から覗いておったのはお主ではなかったのかえ!?」


「冗談だよ、無事で良かった」



 何だか見た目にそぐわない話し方をする女の子だなぁ。

 端的(たんてき)にいうと口調がババア臭……もとい、随分と大人びている。

 これはアレか、いわゆるロリババアとかいうヤツか。



「何だか失礼な事を考えていそうな顔じゃのう」


「よくある事ですわ」



 シーちゃんがロリババアな女の子エルフに同意する。

 ちょっと〜、よっぽど自分たちのが失礼な事をいってるよ、二人とも。

 怒って言い返すのも(しゃく)なので、腕組みして黄昏(たそが)れながら「フッ」と笑っておいた。



「あースマン、せっかく助けて貰ったのに名を言っておらなんだのう」



 女の子はウチよりも()っこい身体を反らせて腰に手を当てる。

 そして不敵に笑って言った。



「妾はココ――ああいや、コチュジャンじゃ、コチュジャン・トウバンジャン。コチュとでも呼んでくれ」


「冒険者の流儀は深く詮索しないことだから、本当の名前は聞かないよ。私はクラム、よろしくねコーちゃん」


「いやだからコチュ……まあええわい、こちらこそ(よろ)しくじゃクラム殿」



 続いてシーちゃんも自己紹介。

 胸に手を当てて、軽く身体を前に屈ませて一礼した。

 さすがは婚約破棄されようとも元お嬢様。

 なかなか堂に入っているなあ。

 


「私はシフォンヌ・ベーグル・ターテロール。シフォンヌと呼んでください」


「シーちゃんも強いんだよ。特に剣の腕前が」



 ウチもシーちゃんの事をコーちゃんに教えてあげる。

 シーちゃんはさっきのコーちゃんと同じ顔をした。

 そしてため息ひとつ。

 


「いえ、だからシフォンヌと……はぁ、まあ良いですわ」


「ふむ、何となく主らの関係が分かったような気がする。大変じゃのう、シフォンヌとやら」


「ありがとうございます」



 なんか二人で盛り上がってる。

 ちょっと複雑。



「しかしクラムとやら、お主は大した魔力の持ち主じゃのう。魔族にもそこまでの魔力を持つ者はおらんぞ」


「ん、魔族? コーちゃんはエルフじゃないの?」



 ウチの疑問にコーちゃんがすぐに答えてくれる。

 親切で嬉しいね。

 でもウチよりもオッパイ大きいのは減点だ。

 


「一部の里を出たエルフは魔族を名乗っておるぞ。征服戦争をした先々代の魔王サルミアッキも現在の魔王も妾と同じダークエルフじゃ」


「ダーク?」


「一部のエルフは里に逆らったか追放されたかで、反骨心を起こしてダークエルフを名乗るようになった、と聞いておるのう」



 ウチらの話がひと段落ついたとみたのか、仲間の冒険者が割って入ってきた。

 あのダイ何とかっていうヒョロガリローブ男を指差してウチに尋ねる。



「姉さん、結局ダイチャーサの野郎はどうするんで?」


「あ、忘れてたどうしよう」



 指差された瞬間、ダイ何とかはウチに向かって口汚く叫び始めた。

 シーちゃんがダイチャーサと聞いて「えっあの四天王の!?」と驚いているのも無視して。

 彼女のリアクションぐらい見てからにしたら良いのに、勿体な〜い。



「おのれ覚えていろ! 大蛇の魔物を洗脳して村をひとつ滅ぼしたこの儂の力で、いつか後悔させてやるぞ!」


「……おい今なんて言った?」



 この場にいる者全ての視線が一気に(けわ)しいものに変わり、ヒョロガリローブに集まった。

 ヒョロガリローブのダイ何とかは、この場の空気が変わったのも気付かず(わめ)き続けている。

 

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