第14話 最後のダジャレを言いたかっただけ
カモミールとの戦いは、ウチのボディブロー一発で決まった。
すれ違い様に、風魔法で強化した身体能力と土魔法で強化した拳を相手の肝臓に抉り込むように捻じ込んだら、それだけで悶絶のち気絶。
「ぐふっ……!」
「くそっ、次はこのダージリンが相手だ!」
カモミールくんが仲間に引き摺られて運ばれると同時に、別の男が飛び込んでくる。
ふむ、上下関係を身体に叩き込んで覚えさせるのもアリだな。
とか考えながら、これまた土魔法で強化した下腿でローキックを相手の足首辺りにお見舞い。
予想外の下からの痛みに、思わず屈んだ次の先輩開拓者の顎をパンチで打ち抜く。
頭を揺らされた先輩は、その一発で意識を刈り取られて倒れ込んだ。
ズシーン!
「はい、二丁あがり。次の相手は居る?」
「舐めるなよ小娘!」
こんな感じで次々と挑戦者を片付けていったウチ。
ここの長をしてる人がボウ姉さんたちギルドの職員三人を連れて止めに来たのと、最後の一人が地面に倒れたのはほぼ同時だった。
「イェーイ! てっぺん取ったどー!!」
「うおお、やっぱりスゲエやクラム姉さんは! クラム! クラム!」
実力差は理解しつつも、ウチが倒した人たちへの仲間意識から戦いを挑んだリーダー格の先輩。
その倒した身体に片足を乗せて勝鬨を上げているウチと周りの冒険者仲間(開拓者希望)。
そこへ、身分が少し高めっぽい服装の人が窘める感じで声をかけてきた。
「いや何をしているんだね、君たちは」
「何って、この中で誰が一番強いか選手権だけど?」
「ちょっ……クラムさん、長になんて口を」
「長?」
んー、って事はエルフの里長のじーちゃんみたいな感じかな?
あんまり強そうじゃないなぁと思ってたけど、それだったら大事にしてあげないといけないかな。
年齢もギャリソンさんと同じぐらいっぽいし。
そんな此処の長は口元をへの字に曲げた。
ギャリソンさんのように形を整えたグレイの髭を生やした口元を。
そのまま腕組みをして、不機嫌な様子を隠しもせずにいる。
「まったく勝手な事をして。彼らにはこの後、周辺の魔物の駆除に動いてもらう予定だったのに」
「じゃあウチと一緒に来た冒険者の皆に任せたら良いじゃん」
「この辺は強い魔物が多い。君たちは皆、C級かD級だろう? ファイアベアを頂点とした魔物連中に対応できるとは思えん」
長のその言葉を聞いて、ウチらと一緒に来た冒険者は皆、途端にニヤニヤし始めた。
その視線は全部ウチへ向けられている。
うーん照れるぜぃ。
「へえ、ファイアベア……ねえ。そいつがこの辺の魔物の頂点な訳か」
誰かが言ったそのタイミングに合わせたかのように、そのときクマキチが姿を現した。
ようやく追いついてきたか。
ウチらの臭いを辿って、自分のペースで追いかけるから別行動だって本人(本熊)が言ってたけど。
「ガウ?(おめーら何やってんだ?)」
ウチらがやって来た方向にも広がっている森。
その中からゴソゴソガサガサと音をさせながら出て来たクマキチ。
それを見たウチらの反応は、当然ながらパックリ二つに分かれた。
「ひっ……ファイアベア!!」
「クマキチ兄貴!」
当然のように怯えと臨戦体勢を取る開拓者。
クマキチがウチの舎弟なのを知ってる冒険者たちは気安い態度。
当然そんな新参者の様子を見た先輩開拓者たちは、びっくり仰天混乱必至だ。
「お、お前ら何でのんびりしてやがる!?」
「なんだ知らねえのか? このクマキチの兄貴はそこのクラムの姉さんの舎弟なんだぜ!」
「なにいぃぃぃ!?」
先輩開拓者とウチら冒険者のやり取りを見て状況を察したらしいクマキチ。
二本足で直立すると、右手を上げて「ガウ(よろしく)」と挨拶した。
その光景を見てもビビりまくりな先輩開拓者と長。
オラァン!
テメーら男だろうが腰抜かしてんじゃねえ!!
「ほ、本当にファイアベアだ。本当にコイツは君のペットなのかい?」
「ペットじゃないよ、舎弟だよ。それに知能も人間と同じくらい高いんだよ」
ウチの言葉を聞いてシーちゃんも、そばに来て同意してくれた。
ナイス相棒!
「クラムさんの言ってる事は本当ですわ。だって、私にもこんなに懐いてくれて……ほら」
そう言いながらクマキチに躊躇なく近づき、そのゴツい手をとる。
クマキチは照れたように反対側の腕を上げて「ガーウ♡」と言いながら頭を掻くような動作。
さんざん仕込んだからねえ、ウチ以外の人には今みたいに優しく対応しろって。
「むむむ。確かにファイアベアを手懐けるだけの力があるなら、魔物への対処を任せても良いかもしれん」
それを聞いたクマキチは、少し首を傾げる動作。
ウチが「ガウガウ(どうした)」と聞くと、自分が出てきた藪のほうへ腕を伸ばす。
人間がやる、指を差す動きを何とか再現しようとしてる感じ。
「ガウ。ガウガウガウガウガウ……(姉さん、こっち来る途中の森に生意気な奴が居たからシメときましたが……)」
「ガウ?(何だって?)」
「ど、どうしたんですの、クラムさん?」
クマキチの手を掴んだままのシーちゃんが戸惑った様子でウチらの会話に割って入ってきた。
ああ~クマキチと話してると、つい他の人に熊語が通じないのを忘れちゃうなぁ。
と、心の中で反省しながらシーちゃんに返事。
「ん~なんかね、クマキチがここに来る途中に、そこの森の……たぶん魔物だと思うけど、何かを仕留めたみたい」
「へ?」
素っ頓狂な声をあげるシーちゃん。
それとは対称的に、慌ててクマキチが指した場所へ駆け寄る冒険者および先輩開拓者。
そして彼らが、クマキチと同じようにガサガサと音を立てて藪に入った途端にあがる、悲鳴とも歓声とも取れる声。
「こ、コイツはここいらを荒らし回ってる魔物のリックウルフ! しかも眉間に角がある……って事はボス格じゃないか!」
「あ、本当だね~。コイツの肉をなめろうにしたら美味しいよ」
みんなの後ろから顔を出したウチがそう言うと、みんなが怪訝な顔で振り向いた。
シーちゃんとギャリソンさんも同じ顔。
「なめろう?」
「うん、細かく包丁で叩いた肉にみじん切りにしたねぎと生姜、そんで味噌を混ぜるの。新鮮なうちに食べると美味しいよ。魚肉を使うのが一般的だけど」
シーちゃんが首を傾げる。
ん? ウチ、なんか変な事を言っちゃいました?
とか考える余裕も無く、シーちゃんが疑問を投げてくる。
「ミソ?」
あれ? シーちゃん知らなかったっけ?
う~ん何度か冒険中の休憩で味噌スープ作ったんだけどなあ。
まぁいいか、改めて説明しても。
「ん~と、味噌は大豆と麹を使って発酵させた調味料だけど」
「コウジ?」
「麦とかの穀物を蒸してその後――って、まあ要はエルフの里秘伝の調味料ってことだよ」
「説明が面倒になりましたわね、クラムさん……」
ありゃ、バレテーラ。
しょうがないから、自分で頭をコツンとやって舌をペロリと出したテヘペロの表情で誤魔化した。
「ま、とりあえず味噌はウチが持参してるから、あとはネギと生姜があれば作れるよ、なめろう」
だけどそんなウチの言葉にも先輩開拓者は渋い顔。
腕組みして唸るように返事した。
「ネギは畑の隅っこに少し植えているが……生姜なんて手に入りにくいぜ?」
「あ、でもリックウルフの生息地には野生の生姜が生えてることがあるって昔に聞いた気がする、俺」
「マジか。生姜は普通、野生種は存在しないって言われてるんだが」
先輩開拓者の言葉に、ウチと一緒に来た開拓者志望の冒険者が続ける。
お、なかなか良い感じに話が転がりそう。
と思ったら、その空気に水を差すようなセリフ。
「でもそこまでして探すような食材か?」
ちっ、余計なことを。
仕方がないので、みんなのやる気を上昇させるセリフを放つウチ。
「なめろうってお酒のアテに最高なんだけどな」
「なに!?」
みんなの空気が変わった。
この場にいる全員の背中に炎のようなオーラを感じる。
というか、瞳も炎が見えるぐらいに爛々と輝いていた。
「それを聞いちゃ、黙ってられねえなぁ!」
「長の家に秘蔵の酒が隠してあるの、知ってるぜ俺!」
「あっなにをバラしているんだ貴様!」
この場にいるみんなのテンションが一気に上がる。
どさくさに紛れて長さんの秘密が全員に公開されてる気がするけど。
気がするだけだよん、ウチ知~らない。
「よっしゃあ! クエスト発生じゃあぁぁい! 報酬はクラム嬢の作る酒のツマミ!!」
「うおおおおおおおお!!」
ボウ姉さんが叫ぶと、この場の全員が口を揃えて叫び返した。
今こそ、この場のみんなの心がひとつになった!!
ようし、この流れなら言える!
「よっしゃあ、舐め狼のなめろう、ゲットだぜ!!」
「さむっ! 寒い駄洒落ですわ」
頼れるクールな相方の即座のツッコミ。
そして冷たい視線。
ウチの心はブロークンよ(泣)。
あ~向こうで、いつの間にか存在を忘れられた長さんもイジけてら。
お読みくださりありがとうございます。
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作者のモチベが爆上がりします!