第13話 そしてやって来ました新天地!
ヤン、ボーマ、ボウ
「ふむ、この地を離れるにしても、移動先としてその開拓地に行くのも有りかもしれませんな」
ボウ姉さんの話を聞いたギャリソンさんが呟く。
ウチも新しく開墾した土地に食べたい農作物を好き放題植えて食べるのを想像して、めっちゃウキウキしてきた。
「ねぇねぇシーちゃん、この新規の開拓地ってとこにウチらも行かない?」
「はぁ!? 突然そんな事を言われても行くわけ……いえそうね、ギャリソンも勧めてるぐらいだからかなり有力な候補になるのかしら」
それを聞いて反応したのは誰であろう、ボウ姉さん。
カウンターに片足をかけて、右手人差し指で勢い良くウチらを指差した。
「よくぞ言った若人よ! 来たれ開拓地! この地は若い君たちの力を求めているっ!!」
「いや姉さんウチらとだいたい同い年ですやん」
「長生きエルフと一緒にすなあぁぁぁ!!」
「まぁ実年齢はともかく、見た目はわりと同年代っぽいわよねえ」
ウチとボウ姉さんのやりとりに、そう言って割り込んできたのは少し年配の女性。
ちなみにたった今までボウ姉さんと話し込んでいた人。
確かギルドマスターだったはず。
名前はヤンさんだったかな?
「シフォンヌさんと同年代扱いされるのは嬉しいですけど、クラムちゃんと同レベル扱いは何か嫌だぁ!」
「はいはい、とりあえずはカウンターから足をどけようか」
「あ、はいスミマセン……」
相変わらず荒ぶるボウ姉さんを、アッサリ鎮静化させるギルドマスターのヤンさんはやっぱり凄いや。
ボウ姉さんもヤンさんに言われて、大人しくカウンターに付いた自分の靴の汚れを取るべく、雑巾がけをしている。
「ごめんねー。この娘、さっきまで貴女たちと離れたくないってグズってたのよ。それが一緒に来るって聞いて、さっきみたいに……」
「あーっ! マスターそれバラさないで!!」
マスターヤンの暴露に、顔を真っ赤にして抗議するボウ姉さん。
ヤンさんはそれに対して「あらあらうふふ」と口元に手をあてて笑顔で返す。
おおう、これが世に言う年の功ってやつか!
「クラムさん、いま何か失礼な事を考えていませんでしたか?」
「い、いえ何でもないデス!」
さっきの笑顔のまま、こちらへ顔を向けるギルドマスター。
こ、怖い!
以前から思っていたけど、この女性には絶対に逆らわないでおこう!
*****
「よーし、やって来たぞ開拓村!」
「……元気ですわねクラムさん。私、もう馬車のガタつきでお尻が痛くて」
ビュッヘーの町から、支援物資を運ぶ隊商を組んで三日ほどの距離の森の手前、そこにある目的地に昼前ごろ到着した。
小さな、村ともいえないぐらいの規模の集落。
家……というより小屋というのが相応しい建物が五、六軒と、ちょっとだけ大きな建物が真ん中にあるだけの。
この隊商の責任者であるギルドマスターのヤンさんは、馬車から降りるとボウさんともう一人の職員――ボーマさんっていったっけ――を連れてまっすぐ真ん中の建物に歩いて行った。
大きさ的にも、この集落の長をやってる人の住む家なんだろう。
ここの住民はどうやら森の方へお出かけ中のようだ。
森の向こうから何人かの男の大きな掛け声がいくつも聞こえたからね。
とかぼんやり考えていたら、隊商の他のメンバーから荷下ろしの手伝い指令が来たので手の空いた者みんながその作業に取り掛かる。
シーちゃんは冒険者生活で多少鍛えられたとはいえ、やはり重い荷物を持つには厳しいものがあるみたいだ。
小さめの荷物をひぃひぃ言いながら、それでも文句を言わずに運んでいた。偉い!
とか考えながらウチは、魔法で強化した身体能力で大きな荷物を何個も担いで運んでいた。
「なんだあ手前ら。どこから来やがった?」
「いや待て、服装から見てコイツ等が長が言ってた補充要員じゃないか?」
「マジか! これで少しは人手不足が解消されるか!?」
そう言いながら、結構ガタイの良い男の人たちが十人ぐらい森のほうからやって来る。
彼らがここの住人なんだろうね。
ウチらを含めた隊商の他のメンバー数人をジロジロ無遠慮に見てくる。
「ふーん……ま、身体は鍛えてるようだが、それでもちょっと頼りないな。使い物になるのかコイツら?」
「なんだとテメエ!」
開拓要員を希望してやって来た体力自慢の冒険者たちは、先輩開拓者の言葉に色めき立つ。
まぁ男性がよくやる、相手の値踏みを兼ねた安い挑発だね。
エルフの里でも男の子がよくやってたな〜。
最後は大抵ウチが腕力と魔力で黙らせたけど。
とか思ってたら、今度はウチの方へ話の矛先が振られてきた。
「おいおい、こっちはエラい華奢な姉ちゃんだな。大の男でもヘトヘトになる開墾作業なんか出来ねえだろ。長の家のメイドでもやるのかよ」
「まだここは使用人を雇えるような余裕は無いぜ、さっさと町に逃げ帰ったほうが良いんじゃねえか? ハッハッハ!」
うーん。
なんか悪党ぶって口の悪い感じで言ってるけど、基本ウチら女性陣の安全を心配してる内容だね。
自分の見た目を気にしてそういう言い方にしてると思うんだけど、もっと素直でも良いと思うよ。
とか考えながら周りを見渡すウチ。
目的の物が見つかると、黙ってそちらに歩き出す。
シーちゃんが「ははーん」という感じのドヤ顔になってウチを見た。
「おいおい嬢ちゃん、いくら本当の事を言われたからって泣き出したりしちゃダメだぜ」
とか言われたのも無視して、そこら辺に転がっていた大きな岩の前に立つ。
この手の人たちを黙らせる方法は単純だ、より強い力を見せつければ良い。
ウチはこの場にいる人間の身長より、倍ぐらいある高さの岩を見上げた。
「お、いいぞクラム姉さん! いけいけー!」
「な、何だ!?」
ウチの意図に遅ればせながら気が付いた、他の開拓希望の冒険者も声援を送ってくれる。
何も知らない先輩開拓者は狼狽えたようにウチと新参者たちを交互に見た。
それを横目で眺めて心の中でニヤリと笑いながら、岩に向かって半身になる。
腰だめに拳を構えて腰を落とす。
そして足を踏ん張り、体幹の捻りと共に魔法で強化した拳を突き出し、岩を思い切り殴りつけた。
どごーん!!
土煙が盛大に舞い上がって、思わずちょっと咳き込んじゃった。
で、大量の埃が収まったあとには粉々に砕けた岩。
それを驚愕の表情で見る先輩開拓者さんたち。
「すげえ! さすがだぜ、クラム姉さん!」
「どうだ、俺たち冒険者の姉さんの実力は!?」
「なん……だと……」
勝ち誇る冒険者の皆さん。
いまだにショックで硬直している先輩開拓者。
ウチはこの先輩開拓者たちのリーダー格だと目星を付けた男の人の身体を指でツンツンした。
「どう、ウチの実力は?」
「す、すまねえ。アンタを見くびっていたよ」
土下座でもしかねない勢いで頭を下げる先輩開拓者さん。
だけど別の人が不満そうな表情で割り込んできた。
あ、この人さっき、ウチの事を華奢だなんだと馬鹿にした人だ。
「納得いかねえ、勝負だ小娘! 動かない岩と、人間様が相手の喧嘩じゃ違うんだ!」
ま、そういう奴もいるだろうね、血の気が多そうな連中だし。
腰に手を当てて仁王立ちしたウチは、戦闘モードの目つきの笑顔で右手を突き出した。
そして人差し指だけをチョイチョイと動かし「かかってこい」と意思表示。
「うおお! 姉さんやっちまえ!」
「いけ、カモミール! 開拓者魂を見せてやれ!」
やれやれといった様子で手を顔にあてるシーちゃん。
その後ろで直立不動の姿勢でポーカーフェイスなセバスチャ……ギャリソンさん。
そしてウチとカモミールと呼ばれた相手を中心に、この場の全員が円陣を作り出す。
相手が突っ込んできたのを合図に、開拓者の頂点を決める勝ち抜き戦が始まった。
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