第12話 今後の行動を決めよう
鮪、シャコ、鱈
「ある日突然、王様の元へ呼び出された私は、国家反逆罪を言い渡されました」
表情も固くそう言うギャリソンさん。
いよいよ核心だ。
ウチとシーちゃんは固唾を飲んで耳を澄ます。
ギャリソンさんは思ったよりもあっさりと続きを話し始めた。
「いきなり身に覚えのない罪を聞かされた私はもちろん抗議しました。しかしその抗議の行為をもって、王への不敬罪もその場で追加されました」
「ああ~、最初から利用するだけして使い捨てたって事だねえ」
「その通りです」
ウチはすぐに合点がいったけど、シーちゃんは納得いかないみたいだった。
今の話だけでとても憤慨している。
「そんな、酷いわ。魔王を倒した時には一人で行った訳ではないのでしょう? 一緒に旅をした仲間は、身の潔白を証明して下さらなかったのですの?」
「他の仲間は皆、国王側の人間です。国の体制側と言ってもいい。騎士団出身の騎士マグロー、教会から派遣された僧侶シャッコー、魔道協会所属の魔法使いターラ。皆、私が呼び出される前から王の傍にいて、王と一緒に私を糾弾してきましたよ」
「……」
シーちゃん絶句。
なんだかんだ言ってまだ年若い彼女には、苦楽を共にした仲間が裏切るというのは信じ難かったらしい。
ウチ? ウチはほら、長生きなエルフだから。
「しかし、投獄された私を逃してくれたのもまた魔道協会の手引きでしたがね。独自に私へ恩を売ろうとしていたのでしょうな」
「さっきも話してくれてたけど、魔道協会って……? 魔法使えるのはエルフだけなんだよね?」
さっきからギャリソンさんの話に出てくる単語が気になり過ぎて、思わず聞いてしまった。
そんなウチの疑問はシーちゃんが解説してくれる。
おお友よ!
「そうよ? だから里から出てきたエルフの殆どが協会に所属しているわ。まあそのせいかあそこの人たち、普通の人間の価値観とは微妙にずれているのよね」
「エルフ以外にも、一般人が使える魔道具も作っておる関係上、人間も所属していますな」
なんかエルフの事なのに、何も知らないウチは自分で自分に苦笑い。
この時ばかりは、自身が長生きエルフなのは綺麗さっぱり忘れよう。
はーい、今のウチは世間知らずの小娘でーす。
「ほーん。でもさっき言ってた……ターラさんだっけ? そんな名前のエルフ、里には居なかったけどなぁ」
内心のそんな自己問答を悟られないためにも、魔道協会の他にも聞きなれない人名の事も口にする。
魔法使いって事はエルフだって事なんだけど、ターラなんてエルフっぽくない名前の同族、居たら印象深さバリバリだもん。
「ふむ。エルフの方たちは何故か里での本名ではなく、通り名的に別の名前を名乗る事が多いと聞きますな」
「へえ~、なんでだろ?」
「同族のエルフであるクラムさんがご存じないのでしたら、私たちはもっと分かりませんですわ」
「まあそだね~」
「人間の感性に合わせたとか何とかターラに聞いたことはありますな。魔王討伐の旅の途上で」
「なにそれ」
「だから、同族のエルフであるクラムさんがご存じないのでしたら、私たちはもっと分かりませんですのよ?」
ま、そりゃそうか。
ウチはまた話の腰を折ってしまったのを「ごめんねー」と謝って、ギャリソンさんに話の続きを促した。
咳払いをして気を取り直し、さっきの話をまた語り始める元勇者の有能執事さん。
「まあ話の続きといっても、もうそれほど残ってはいませんがね。王様の追手から逃れた私が、ターテロール家の領地に逃げ込み保護してもらった事ぐらいですから」
「いや、だからなんでシーちゃん家に逃げ込んだら大丈夫になるのさ。貴族っていっても、王様よりも地位は下なんでしょ?」
と言いながらも、内心では反省しきりなウチ。
うーん今までちょっと無駄に長生きしていたかも。
まだまだこんなにも色々と、知らないことが多すぎるや。
「ターテロール領は国境に接する、国防の要とでもいうべき土地。そんな場所を任されるという事は、それなりの権力を有しているという事でもあるのですよ。持っている爵位とは関係なく、ね」
「ふっふーん♪」
ギャリソンさんがシーちゃんの実家の説明をすると、シーちゃんは得意気に胸を反らした。
突き出された大きな胸に、やっぱり少々ジェラシーを感じる。
「ターテロール家はその武門の高さで伯爵位と同等の力を持つようになりましたが、長いあいだ国の中央権力に食い込むことが出来ませんでした。そこへ私の『国家反逆』騒ぎです」
ギャリソンさんはシーちゃんを見据えた。
ウチは、彼女が突然向けられた視線に緊張しているのを感じる。
「お嬢様の父上は聡明な方です。私の事もすでに、民衆への勇者の影響力を恐れた国王の冤罪だと気づいていました」
お父さんの事を褒められたシーちゃん、ちょっと嬉しそう。
腕組みしてポーカーフェイスを保とうとしてるけれど、口の端っこがピクピク上がりそうになっている。
「そして、国の中央への野心も忘れず持ち続けておられたシフォンヌお嬢様の御父上は、その冤罪騒ぎの中心である私の存在が利用できることにも気が付いていたのです」
あ、シーちゃんの顔が今度は、ちょっぴり幻滅した表情になった。
貴族なんだから、誠実な良い人でも権謀術数を身に付けてるのは仕方がないんじゃないかなぁ。
「御父上は、私をギャリソンと名を変えさせ表向きは執事としながらも、私の冤罪にかかわった者たちへ『真実』を公表するという脅しをカードとしてチラつかせて中央に食い込むことに成功したという訳です」
「ああ〜、ちーちーうぅえぇぇ〜!」
ギャリソンさんの語る内容に項垂れ続けていたシーちゃん。
とうとう両手で顔を覆うと、呻くようにそう呟く。
仕方が無いのでウチが頭を撫で撫でしてあげた。
「つまり私「ギャリソン」という存在は、反逆した勇者セバスチャンなど匿っていないという世間体を保つ仮面でもあるのです」
ギャリソンさんがそう話を締め括る。
俯いていた顔を上げたシーちゃんは、ようやく合点がいったという表情。
再び、話を聞き始めた時と同じように腕組みをして、片手を顎に当てて思考しながら呟く。
「なるほど、後ろ盾が無いのに貴方が重宝されている訳だわ。しかも勇者として選ばれたほどの生来の生真面目さで執事のスキルも身に付けていった、と」
「自分で自分の事を称賛するのは面映い気がしますが、おおむねその通りです」
その言葉を最後とばかりに立ち上がるギャリソンさんこと元セバスチャンさん。
いつもの調子に戻って「では町へ帰りましょうか」と声をかけてくる。
ウチら二人も、それを合図と立ち上がった。
「たとえ使える道具として匿って頂いたとは言え、シフォンヌお嬢様のお父上にはそれ以上の恩義があります。私を家族のように扱っていただき、執事頭にまで抜擢してくれたのですから」
立ち上がったギャリソンさんは、再びシーちゃんを見るとそう言葉をかける。
シーちゃん的には不意打ちだったのか、父親を再び褒められて、またみるみる顔を赤くした。
「私をお嬢様に同行させたのは、元勇者である武力も含めたお父上の信頼からなのです」
「お父様……ありがとう」
シーちゃんはギャリソンさんから顔を横に向けると、そう独り言ちた。
ちなみにクマキチは話をしている間、丸まって爆睡していた。
*****
「さてしかし……。私を利用するためにホン・オフェー伯爵の手の者がうろついているとなると、今後の行動方針も少し練らないといけませんわね」
ビュッヘーの町へ戻って冒険者ギルドに向かう道すがら、シーちゃんがそう話す。
ギャリソンさんもシーちゃんの言葉に頭を縦に振る。
「左様ですな。場合によってはこの町を離れる事も視野に入れたほうが良いでしょう」
そんな話をしながらギルドの建物に入ったウチら。
そこで見た光景は。
「あれボウ姉さん、何してるの?」
そこには、カウンターの中でギルドマスターと何かを話し合いながら、色々と荷物をまとめている受付お姉さんことボウさんの姿。
ウチら「花吹雪」パーティーの面子に気がつくと、自分の行動を説明してくれた。
「ああ、今度作られる新しいギルド支部に異動になるのですよ。その引き継ぎやら持っていく荷物まとめやらで」
「異動って誰が?」
「え? いや私と今のギルドマスターと私の先輩の三人がとりあえず」
「どこへ?」
「いやだから、こないだの大蛇が隣村を全滅させたのを補うべく新規に開拓地を作るので、そこに設立される新しい支部に。」
新規の開拓地!?
そこでスローライフして、食べたい農作物を作りまくるのも良いかもしれない!
お読みくださりありがとうございます。
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作者のモチベが爆上がりします!