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第10話 勇者セバスチャン

勇者セバスチャンの設定はこの話を執筆中に突然降って湧いてきました

【ここより再びクラムチャウダー視点】




「やっほ〜シーちゃん。助けに来たよ〜」



 ウチがそう言うと、シーちゃんはさっきまでの不安そうな表情が一瞬で消えた。

 うーん物語のヒーローになった気分。

 まぁでも創作の物語なら、もうちょっとギリギリのピンチに現れるんだろうけれど。

 現実はそうそう都合良くはいかない。



「お、おいこのガキ、どこから現れたんだ?」



 と、誰かの呟きが聞こえた。

 それを皮切りに、この場の男連中にさざ波のように広がるひそひそ声。

 


「さっきアイツが飛ばされたの、この女がやったのか」


「ば、馬鹿野郎。あんなの勝手につまずいて転んだに決まってるだろ……!」


「あっ……」


「今度はなんだ!?」


「こ、このガキ、エルフっすよ! ほら耳がすごい長くて尖ってる!」


「マジか。エルフっていやあ魔法使いって事だろ!? じゃあ、じゃあさっきのも魔法でやられたのかも……」



 うーん惜しい、そこのモヒカン頭のお兄ちゃん。

 正確には土魔法を纏わせた手でぶん殴った、だよ。

 死なない程度に手加減した私、(やっさ)しい〜。

 でも外の世界だと魔法が使えるのはエルフだけだって話、こう言う時にでも実感するなぁ。



「へっ、魔法使いって言っても呪文を唱えてる間は無防備だ。しかも女のガキ。一斉に飛び掛かれば楽勝さ」



 と、別の男が余裕を見せながら鼓舞するように仲間へ語りかける。

 ちょっとイケメン気味なのが勿体(もったい)無い。

 しかし今の言葉で冷静さを取り戻した周りの男たちは、ウチとシーちゃんを取り囲んだままその輪を縮め始めた。



「よーしテメエら。一、二の三で行くぞ! いーち」



 さっきのイケメン気味がカウントを開始。

 ウチは騎士姿の男へ視線を固定したまま、不敵な笑み(のつもり)を浮かべた。

 思い切り小馬鹿にした気持ちを込めながら。



「……にぃの、さん!」



 周りの男たちが宣言通り、一斉に飛びかかってくる。

 ウチはさっきの笑みを浮かべたまま腕組みをした。


 どごーん!


 はい、ウチが床から生やした岩の柱が、狙い違わず襲いかかってきた連中の腹にぶち当たりました。

 吐瀉物(ゲ○)()き散らしながら吹っ飛ぶ男たち。

 これはアレだな、「へっ汚ねー花火だ」って呟く場面だ。

 

 あ、掛け声かけてたイケメン、飛びかかってなかったな。

 騎士姿の男の隣で青い顔をしてら。



「馬鹿な……。こんな大規模な魔法なのに呪文の詠唱が無かっただと!?」



 うんうん良い反応だ。

 ウチはさっきの笑みと腕組みを崩さず、人差し指を立てながら余裕たっぷりに語った。



「ウチは四大精霊を舎弟に……じゃない、精霊と契約してるから呪文無しでも魔法が使えるんだよ」



 普段は腰に下げた袋の中にいてる精霊スライムを呼び出すと、人の姿をさせて背後に整列させる。

 全員にウチと同じように腕組みをさせた。



「なんだそれズルじゃねーか!」


「女の子一人に多人数で襲いかかるほうがズルじゃん」



 と言いながらウチは風の精霊コットンに睡眠作用のある空気の塊を作らせて、イケメン気味に投げつける。

 相手の顔面にその塊がぶつかると、速攻で意識を失って地面に崩れ落ちた。

 残るは騎士姿の慇懃無礼な感じのヤツだけ。



「さてシーちゃん。コイツ、婚約破棄……だっけ、その相手の手下なんだよね。コイツもやっちゃう?」



 ウチは騎士姿の男から目を離さずにシーちゃんへ声をかける。

 たぶん今の光景にビックリしてたっぽいシーちゃんの反応は数瞬遅かった。

 そういえば、ここまで範囲の広い魔法を彼女の前で使ったの初めてだったっけ。



「……え? あ、ああはい。そうね、ちょっと考えさせてくださる?」


「おっけー」



 そう話していて、ウチは大事な事を忘れていたのを思い出した。

 シーちゃんを確保したらギャリソンさんに合図するんだったっけ。

 アクションを起こす前に、助けた相棒へ振り返って念の為ために注意する。



「今からギャリソンさんに合図するから、一応少し下がってて」


「分かりましたわ」



 シーちゃんがウチから距離を置いたのを確認すると、右手をまっすぐに突き上げる。

 ちょっと盛り上がったテンションで叫んだ。



「出ろー! トルネードぉ!」



 なんとなく振り上げた右手の先で指パッチン。

 そのタイミングを見計らってくれたのか、風の精霊コットンが小さな竜巻を作って木造の倉庫の天井をぶち抜いてくれた。

 騎士姿の男はこの光景にビックリして口をあんぐりと開けて茫然自失。


 ウチはついでに火球の魔法も空いた天井から打ち出して、上空で破裂させた。

 よしよし、今度はそれなりに綺麗な花火だ。

 

 しばらくすると、クマキチを隣に連れたギャリソンさんが此処へやって来た。

 今のの魔法で、とうとうへたり込んでしまった騎士姿の男が、有能執事さんを見てビックリしたように叫ぶ。



「お、お前は勇者セバスチャン!?」



 ギャリソンさんは後ろに腕を回して腰の辺りで手を組んだまま、騎士姿の男を見下ろす。

 その表情はひとつも変わりない。



「はて? 私の名前はギャリソンであり、そこに居られるシフォンヌ様にお仕えしている只の執事でございますが」



 全く気にした風もなく、騎士姿の男に返すギャリソンさん。

 だけど言葉を向けられた相手は全然聞いた様子もなく(わめ)き続ける。



「この角度から見たら間違い無い! 王都の銅像を見上げた時の顔にそっくりだ! 多少老けようが勇者セバスチャンだ!」



 ギャリソンさんの顔が少し歪んだ。

 そして人間には聞こえない大きさの声で「王都の銅像、まだ残って……」と小さく呟く。

 シーちゃんへ視線だけを向けるウチ。

 うん、やっぱり聞こえた様子はなさそう。



「だけど……勇者セバスチャンは人間の国々を滅ぼす魔王を倒した後、名誉も地位も褒賞も固辞して世直しへと再び旅立ったって……」



 思い出したように。追加で呟く騎士姿。

 それを聞き逃さず、即答でギャリソンさんは訂正した。

 


「何を勘違いされているのか分かりませんが、私の名前はギャリソン。ターテロール家に仕えるただの執事でございますよ」



 シーちゃんもようやく何かを悟ったように「そう、そういう事だったの」と独り言。

 へたり込んでいた騎士姿は、周囲の転がっている手下を気にする余裕も無くソワソワとしている。

 すぐに立ち上がり直立不動になると、上体を少し倒した。



「勇者様! 俺、クロフォードって言います、クロって呼んでください! あっそれとサイン貰っても良いですか!?」

 


 お辞儀をしたままで顔だけをギャリソンさんへ向けた、クロフォードを名乗った騎士姿の男。

 その表情はまるで少年のようにキラキラと輝いている。

 ウチら三人とクマキチは困惑顔で顔を見合わせた。



「困りましたな」


「えーと、要はこのクロ――何とか君はギャリソンさんの舎弟になりたいって事?」


「何を言ってますの!? 騎士たるもの、主君への忠義は(たが)えるものではありません事よ!」


「あっ勇者様、サインはこの紙に書いて貰っても良いですか? 真ん中に勇者セバスチャンって、でっかく」



 ウチらの話し合いに空気も読まず割って入ってきた騎士姿のクロ何とか君。

 どこにしまっていたのか、ペンと書類用っぽい白紙をそれぞれ両手に持ってギャリソンさんに突き出している。



「とりあえず言う通りに書いてあげたら良いんじゃない? それでこの場は丸く収まりそうだし」


「気楽に言ってくれますな、クラム嬢は」



 ギャリソンさんは少し恨めしげな目で、クロ何とか君が差し出す紙を見た。

アニメ「ザ・ファブル」を見ている最中にクロフォードことクロちゃんの設定が新たに追加されたのは、ここだけの秘密

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