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第01話 とあるエルフの出立事情

「い〜じゃんケチー!」


「イカンものはイカーン!!」



 今日も今日とてウチ親父オトンの怒鳴り声。

 もう慣れっこになった母親オカン素知そしらぬ顔。

 部屋の奥に吊るしてあった干し肉が、オトンの怒鳴り声の振動でこぼれ落ちる。

 そんな干し肉のかけらを、オカンは皿に移してつまみ食いしていた。



「あーずるいオカン! それウチも食べたい!」



 オカンの行動を目ざとく見つけたウチは、目の前のクソ親父の事も忘れて叫んだ。

 そんな私の態度を、頭に血が上ったオトンが見逃すはずもなく。



「話の途中で何処どこを向いてる! このわしの目が黒いうちは勝手をさせん!」


「だってエルフの里って退屈だもん! 退屈退屈退屈ーっ!!」



 時々、近所の耳の長い里のエルフ(同族)が我が家をのぞきに来る。

 そしウチとオトンの様子を見ると、苦笑いしながら離れていった。

 ここ最近しょっちゅうやってるからねぇ。



「だいたい、どの精霊とも契約出来ていないヒヨッコエルフのお前では、人間界をうろつくなど百万年早いわ!」


「えっ、じゃあ精霊と契約出来たら外に出ても良いんだ!? それじゃ善は急げで契約に行ってきまーす!」


「誰もそんな事言っとらんわ! って、あっ待てどこに行くクラム! クラムチャウダー!」



 いつもはイカンイカンとしか叫ばないオトンが、ついうっかり漏らした言葉。

 ウチがそのセリフに食いつかない訳が無く。

 そんな捨て台詞をオトンに言い放ったが最後、ウチことクラムチャウダー・シラタマゼンザイ・アーリオオーリオはオトンの声を無視して家から飛び出した。



*****



「おじいちゃ……長老様こんにちはーっ! 精霊さんと契約しにきました!!」



 そう言ってウチは、このエルフの里中心部の神殿を管理してる、里の長老もやってるお爺ちゃんの所へやって来た。

 歳をとって髪の色がすっかり銀髪になったお爺ちゃん。

 神殿の入り口を箒で掃除していた手を止めると、小皺こじわの目立ってきたその目を細めて笑う。


 相変わらずこの神殿が中に入ってる世界樹はでっかいなー、と見上げるたびに思う。

 ウチら家族が住んでる樹の百倍以上は太いんだよね。

 私達エルフは、この世界樹の中の空間を神殿として使っているのだエッヘン!


 精霊と契約する神殿への入り口である、世界樹のみきにある裂け目に立っていたお爺ちゃん。

 ニコニコ笑ってウチに返事してくれた。



「おや、クラムはまだ契約していなかったかい。じゃあ神殿に行っておいで」


「有り難うおじいちゃん!」



 右手を上げてブンブン左右に勢いよく振ると、ウチもお爺ちゃんにそう返す。

 そのまま世界樹に駆け寄り、よいしょ、と入り口の裂け目をくぐるとお爺ちゃんが後ろから声援を送ってくれた。



「たくさんの精霊様に気に入られると良いね」


「うん頑張るよ、じーちゃん!」





 樹の中の通路は光りゴケのおかげで真っ暗じゃないけど、やっぱり光源が少し心許こころもとない。

 なのでウチは一旦いったん足を止めて、しばらく目をらした。

 瞳孔が開くのを感じて目が暗闇に慣れていくのを感じる。

 世界樹の裂け目を利用した通路が前方に続いているのが視界に浮かび上がってきた。


 一応、光るこけが壁に貼りついているので、暗闇に目が慣れたエルフにとっては充分な光源だ。

 足元も干し草を敷き詰めて、歩きやすいようにしてある。

 年に一回、村のエルフが総出で交換するのが恒例行事になってるしね。


 


 そんなこんなで、最初の広い空間にやって来た。

 真ん中には腕組みしてこちらを睨み付けてるマッチョな赤い人型(ひとがた)

 色からして炎の精霊さんかな。


 炎の人型マッチョマンな精霊さんは、重々しい感じでウチに話しかけてきた。



「よくぞ生き残った我が精鋭たちよ。我が力を手に入れたくば、この我に打ち勝ってばああぁぁ!?」



 あ、しまった。

 説明を最後まで聞かずに、先手必勝で顔をぶん殴ってしまった。

 まぁいいや、戦ってもいないのに生き残りの精鋭扱いしてくるトンチキだし。



「うぼっ! おいこら、ちょっと待て」


「話を……話を聞け! おぐぅ!」


「ちょっ……何で未契約なのにこんなに強いのこの娘!?」


「痛い痛い痛い!」


「……すみません(ずびばぜん)参りました許してください」



 最後は私の目の前に土下座しながら降伏した赤い人型。

 腕組みをした私は胸を張ってフンスと鼻を鳴らす。



「戦場で相手が自分の話を聞いてくれるなんて無いでしょ。まだまだ甘い!」


「その通りですご主人様。以降わたくしこと炎の精霊アブサントは、貴女様の下僕として粉骨砕身働かせて頂きます」



 そう言って炎の精霊は、みるみる小さく丸まっていって一匹のスライムになる。

 形を変えた炎の赤いスライムは、その身体をプルプル震わせた。

 

 ……なんか美味しそう。

 そう思ったら口からヨダレがこぼれ落ちる。


 じゅる。



「ちょっ……ご主人様なんで私を物欲(ものほ)しそうな目で見てるんスか!?」


「なんかグミキャンディーみたいで美味しそうだなぁ。ちょっと味見させて?」


「ダメッすよ!? あ、ちょっと(かじ)らないで痛い痛い痛い!」



 スライムを持ち上げて端っこを口に入れてみた。

 なんだかほんのりイチゴ味。


 





「よくぞ来られました挑戦者よ。この水の精霊ジョーゼンミ=ズノ……」



 どごーん!

 

 次の広間にいた青い人型の精霊さん。

 今度は女の人の姿をしていた。

 でも面倒なので、出合い(がしら)にぶん殴った。



「痛ったーい! こっちが名乗ってる最中なのに攻撃してくるなんて!」


「戦場で相手が自分の話を聞いてくれるなんて無いで(以下略)」


「す……すみません私が修行不足でしたぁっ!」



 炎の精霊ちゃんと同じように青色のスライムに変わった水の精霊。

 なんだか美味しいお酒みたいな味がしそう。



「痛い痛い痛い! 貴女に忠誠を誓うから齧らないで!!」


「ああっ!? しっかりしろ水の精霊ジョーゼンミ=ズノゴトシぃぃっ!!」



 すっきりした味わいの美味しいお酒……もとい精霊さんでした。


 





「よくぞ来た挑戦者よ! 俺は土の精霊……」



 どごーん!



「ひでえ! こっちが名乗ってる最中なのに(以下略)」


「戦場で相手が自分の話を聞いてくれるなんて(以下略)」



 がぶっ!



「痛い痛い痛い! 貴女に忠誠を誓うから(以下略)」



 土の精霊さん(名前はリ=モンチェッロらしい)も黄色いスライムになったので齧ってみた。

 甘くてほんのり酸っぱい味がした。







「私は風の(以下略)」



 どごーん!



「名乗ってる最中に(略)」


「戦場で相手が(略)」



 がぶっ!



「痛い痛い(略)」



 白いスライムになった風の精霊を齧ると綿飴(ワタアメ)みたいな味がした。

 名前はコットン。

 忠誠を誓ってくれた後はグッタリしていた。

 

 さすがにちょっと可哀相だったかな。







「おや、お帰りクラム。どうだった?」



 神殿から戻ると、お爺ちゃんが出迎えてくれた。

 隣には腕組みをして仏頂面(ぶっちょうづら)のオトンの姿。

 


「うん、精霊四つと契約できたよ!」


「四つ!? つまり四大精霊全てと契約できたのか! こりゃ凄い」



 素直に喜んでくれるお爺ちゃん。

 隣のオトンもさすがに驚いた表情に変わる。



「なぁお前の心配も分かるが、クラムは充分な実力があるのをこうして証明したんだ。旅立たせてやっても良かろう」



 お爺ちゃんがオトンを説得してくれる。

 いいぞもっと言ってやれ!

 そんな爺ちゃんの言葉に苦虫を嚙み潰したような顔のまま、渋々うなずくオトン。



「分かった。だが旅先でもしっかり食事は摂ること! 一日三食おやつは一回!」


「一日五食は要るでしょ!」


「旅で食料が安定して確保できるとは限らんぞ! ゲームは一日一時間!」


「一人で何のゲームをするのよ! ソリティア? 一人しりとり? うわ、考えただけでうんざりする」



 と、オトンと言い争い(?)になりかけた時にお爺ちゃんが仲裁に入ってくれた。

 ナイス年の功!



「食料は狩りや食べられる植物で確保すれば良いし、クラムもそこはちゃんと勉強もしてるだろう」


「もちろん! 狩って食べ過ぎて、今じゃ熊でもウチを見たら逃げ出すくらいだし」


「……そこは多少加減するんだぞ、クラム」


「えへへ、分かったよお爺ちゃん」



 そうしてウチはエルフの里から元気いっぱい飛び出したのであった。

 オトンの失礼な言葉を背中に受けながら。



「桁外れな食欲のアイツが、外界の食料を食い尽くして世界を滅ぼす魔王にならなければ良いんだが」



 失敬な!

 ちょっと里の備蓄を全部食べてしまって、三回ほど冬場の食べ物に困っただけじゃない!

お読みくださりありがとうございます。

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作者のモチベが爆上がりします!

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