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6話「女神は体液を飲ませる」

「なっ……私言いましたよね!? 貴方が勇者一行を手助けして魔王を討伐できるようにしなさいとっ!」


 俺が勇者一行の元へと戻る事を即座に断ると、モニカは態度を急変させて棘のある視線で睨みを利かせながらそんな事を言ってきた。


「だーかーらー! 無理だって言ってんだろ! そもそも上から見てたんなら大体の事情ぐらい知ってるだろ!」


 彼女の睨み攻撃なんぞ毛ほども怖くない俺は声を荒らげながら正論を投げ掛ける。

 そもそもモニカは可愛い系であるが故に睨むという行為をしても、それはただ単にあざとい系に変わるだけで威圧的云々は何一つ感じられないのだ。


「もぉぉぉ! これじゃあ貴方をこの世界に送り込んだ意味がないじゃないですかぁ!」


 椅子に座りながら感情に身を任せた様子で彼女は両足を慌ただしく上下に動かすと、位置的に俺のところからはモニカの綺麗な生足が拝めるのだが……どうやら白色のニーハイソックスを履いているようである。


 そしてもう少し視線を凝らせば女神の神秘(パンツ)の部分が拝めそうなのだが……


「ど、どうしても勇者一行の元には戻れないですか……?」


 何を思ったのか急に彼女は慌ただしく動かしていた両足を止めると、一転してしおらしい声色で首を傾げながら尋ねてきた。


 だが俺はそれを見た瞬間にこれは泣き落しに似た一種の同情を買わせようとする手口だという事を瞬時に悟る。これでも伊達に長年引きこもりをしていた訳ではない。


 日々数多く更新されるネットという情報の荒波に俺は単身挑んで、ありとあらゆる情報に目を通しているのだ。

 それはもうゲームの攻略サイトからエロ動画やデート商法やらジャンルを問わず全てをだ!

 

 その甲斐あってか人々を口を揃えて俺の事を歩く雑学書庫と言う。

 ……いやまあ知らんけど。今思いついた事適当に言っただけだし。

 そもそもここ異世界だから日本で得た雑学なんて大抵は役に立たんし。


「ああ、どうしても無理だ。……だがお前に出会えて良かったよ」


 モニカの作戦を読み取り尚も断りの言葉を堂々と告げると、次に俺は不信感を与えないように比較的優しい声を出す。だがそれには理由があるのだ。


「ふぇっ? な、なんですか急に?」

 

 俺の声を聞いて彼女は目を細めると若干引き気味な顔をしていたが恐らく気のせいだろう。


「実はだな……お前に聞きたい事があるんだ」


 そう、俺が不信感を与えないようにしていたのは質問をしたいからである。

 先にモニカの要望を断った手前、こちらの質問も断られる可能性が多いにあるからだ。


「聞きたい事ですか? ……あ、先に言っておきますけどパンツの色とか教えませんからねっ!」

 

 そう言うと彼女は膝を勢い良く閉じて頬を赤らめながら睨んでくるが、モニカの中で俺は本当にどういう風に見られているのか疑問が募るばかりだ。

 しかしその恥じらいの篭った表情は中々に良い。今夜のオカズは決定だ。


「お前は本当に何を……はぁ。まあ今はそれよりも聞きたい事を優先させるか。ずばり率直に聞くが勇者ってのは俺にもなれる者なのか?」


 何処かの酒場で得た情報の真意を確かめる為に質問を投げ掛ける。

 多分だが女神ぐらいの者であれば、この異世界のことを全て把握しているだろうと俺は思ったからだ。


 というより俺をここに放り込んだ張本人なのだがら知っていて当然と言えるだろう。

 仮に知らなければただの無責任女神だ。

 その場合はこの場で衣服を全て剥いで裸で全力のあんこう踊りを披露して貰う事になる。


「えっ!? そ、それはえっと……お答え致しかねます……あはっ」


 驚愕の表情を見せてくる共にモニカは言葉を濁しつつ愛想笑いのような表情を浮かべる。


「ほぉ~そうか。まっ、それなら別にいいんだ」


 その意味深な言葉の間を垣間見ると最早それが全ての答えだということを悟った。


「おっ、意外とあっさりと引き下がりますね。何か裏がありそうで怖いですけど……」

「なんもねえよ。聞きたい事を聞いて答えを得られたら普通は黙るだろ」


 どうやら彼女は俺が直ぐに引き下がった事で他に別の何かがあるのではと思案しているようだが特段そんな事は考えていない。寧ろ聞きたい事の答えを得られて俺は大満足であるのだ。


「そ、それもそうですね」

「……で? 俺はいつまでこの変な空間に居ないといけないんだ?」


 話がひと段落した事でモニカが魔法で出現させた椅子に一先ず腰を下ろしながら次の質問を尋ねる事にした。ちなみに対面側に彼女が座っている状態だ。


 そして俺としては得たい答えは既に手に入れたので、最早この異空間のような場所に長居する理由は一つもないのだ。寧ろ早く帰りたまである。これは長年引きこもりをしていた名残だろうか。


「あ、ああすみません。このお茶を飲んで頂ければ現実世界の貴方が覚醒する筈です」


 そう言いながら彼女は徐に軽く手を叩いて音を鳴らすと机の上には一つのティーカップが出現した。しかも中身も注がれているようで湯気を立ち上らせながら、柑橘系特有の酸っぱい匂いが俺の鼻腔を突き抜けていく。所謂これは紅茶と呼ばれるものではないだろうか。


「筈ですって……まあ従う他に手はないか」


 モニカの言葉に大きな不安を抱きながらも他に方法がある訳もなく、多少癪だが大人しくティーカップを手に持つと自らの口元へと近づける。


「そうですよ! さあグイっと飲んじゃって下さい! 私の体液をっ!」

「ぶほぁ!? げほっげほっ! お前今なんて言った!?」


 紅茶らしき液体を一気に飲み干そうと口内に流し込んだのだが、声色が妙に楽しそうな彼女から聞こえてきた言葉に俺は体中が雷に撃たれたような衝撃を受けると液体が変な所に入り込み盛大に噎せた。

 

「え? 普通に体液ですけど?」


 俺の質問にモニカは真顔のまま僅かに首を傾げると特に悪びれている様子はなかった。


「それだよそれ! 体液ってなんだよ!? これ普通のお茶じゃねえのかよ! ……うぇぇ少し飲んじまったよ……」


 右手に持っていたティーカップを机の上に置くとモニカの体液を飲んでしまったことで口内や喉や胃が何とも言えない不快感に襲われていた。例えるならば内側から焼かれるような感覚だ。


 しかしなぜ彼女は恥じらいもなく体液なんぞという物を人に飲ませる事ができるのだろうか……。確かに体液を嗜みたいという一風変わった人達は居るがそれでも俺は至ってノーマルだ。


「あら、なんて酷い反応を。というよりこの空間は私が作り出した特別な空間なんですから、本物のお茶や家具が持ち運べる筈がないんですよ」


 俺が指を喉奥に突っ込んでモニカの茶を吐き出そうとしていると、彼女は依然として表情を一切変えることはなく淡々とした口調でそう説明してくる。


「は、はぁ?」


 だがその説明では余りにも俺の理解を飛躍していて理解が追いつかない。


「つまり貴方が今座っている椅子や、この机やティーカップも全て私の細胞から作り出されている物なんです」


 カップや家具に指を差しながら自身の細胞から云々という事を言うと、そのあと彼女は再度軽く手を叩いて自身の体液が注がれていたカップを瞬時に消した。


「そ、そうなのか。いや待て! だからと言ってこれを飲んだら……おれが……げん……じ……つ……」


 そもそもモニカの茶を飲んだ事で本当に現実世界に戻れるのかという事を訊こうとするが、突如として視界が歪み始めると共に耳鳴りが起こると次第に音の強さは増していく。


「な、なんだこれは……っ」


 余りにも急すぎる体調の崩壊具合に堪らず椅子から転げ落ちると、そのまま地面に倒れ込んで両手で耳を塞いだりして抵抗を試みた。


「時間みたいですね。取り敢えずとしては様子見という形で貴方を監視していきますからね。ずっと。……それとたまにこの世界に呼びますが、ここでの出来事は他言無用でお願いしますよ? た・か・し・さん」


 椅子から降りて彼女はその場でしゃがみながら顔を覗き込んでくると、色々な事を言いながら俺の名前を最後にゆっくりと呟きながら満面の笑みを見せていた。

 ……そして俺は視界の歪みと耳鳴りが収まると同時に意識を手放すのであった。

最後まで読んで頂きまして、誠にありがとうございます。

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