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5話「ブロンズ冒険者誕生」

 冒険者の証を失くした俺は受付のお姉さんから新規発行をお願いされると、限りなく小さいカードにありとあらゆる情報を書き込んで渡す事に成功した。


 その際に数枚のカードが誤字脱字により犠牲となったが、こっちは銀貨3枚も事前に払っているのだから無償でやり直しが利くは当たり前のことだろう。


「それではこれがアマデウスさんの新しい冒険者の証です。今度は無くさないように気を付けて下さいね?」

「は、はい! すみませんでしたッ!」


 勢い良く頭を下げて二度と無くさない事を約束すると今度からは首に付けておく事を俺は選ぶと、受付のお姉さんから鈍く輝くブロンズ色のプレートが付けられた首飾りを受け取った。

 

 恐らく懐に入れていた事が一番の原因だろうと俺は考えたのだ。しかしそれを言うと何故お金は無事なのかという矛盾が生まれるが、そういうことは深く考えてはいけないのだ。


「よし、取り敢えずこれで準備はできた事だし早速だが仲間を募集してみるか!」


 冒険者登録を済ませた事で仲間の募集が解禁されると、俺は受付のお姉さんに別れを告げてそのまま木製の提示版の方へと足を進めた。

 その木製の提示版にこそ仲間を募る為の紙が多く貼られていて俺も貼り出す予定なのだ。


「うーむ……カークランドのギルドでは上級職が少ない傾向にあるなぁ」


 ざっと提示版に目を通して思ったことを俺は口にすると、そこに貼られている紙の多くには中級職か上級職を必要とする声が多く書かれていた。そして仲間の募集を掛けている当人達のレベルは中級職が大半といったところだろう。


「まあ中級職でも俺が居れば直ぐに上級職ぐらいまで上げれるし……問題ないといえばないか」


 そう独り言を呟いて全体の状況を把握すると多少時間は掛かるかも知れないが、この上級職の俺様が直々にレベリングを手伝い中級職の連中を一気に上級職まで底上げさせることを視野に入れつつ、仲間募集の旨を書いた紙を提示版に貼り付けた。


「うむ、これなら完璧だろう。欲を言えば上級職の連中が来てくれれば嬉しいけどな」


 丁寧に貼り付けた紙を目を通して誤字脱字がないか確認しながら頷くと、俺としては欲しい人材が三人ほど要るのだ。


 まず俺と共に前線を張れるような勇猛果敢でどんな状況でも冷静に戦える上級戦闘職の者。

 次に回復魔法や状態異常を無効化する事のできるヒーラー兼サポート系上級魔法職の者。

 そして最後は遠距離も中距離も軽く熟せる万能型の上級狙撃職の者だ。


「まあざっと考えた限りでは、この構成が一番良いと俺は思うんだけどなぁ」


 仲間を集めるのは意外と難易度が高いことなのかも知れないが、そういうと勇者一行では全員が上級職だったのは何気に凄いことだったのかも。

 ちなみに俺の二刀流はどの職業を極めても決して得ることのできない職業なのだ。


 今まで旅をしてきて俺と同じ二刀流使いは見たことがないから多分そうだ。

 そもそも話だが片手剣というのは盾と共に使用して扱う物なのだ。

 俺みたいに両手で片手剣を扱うのは……まあ異端もいいところだろうな。


「あとはこの募集を一晩寝かせれば、きっと明日には大勢の仲間候補達が俺の目の前に現れることだろう! くふふっ」


 募集の紙を張り出しても、その日のうちに人が集まることはまずないと数々の街を旅して知っているのだ。これは唯一、勇者一行と旅をしていて良かった点と言える。なんせ時間を無駄に過ごさなくて済むからだ。


「さーてと、やるべきことは一通り済ませたし後は飯済ませて宿屋でも探すか」


 後頭部あたりで手を組みながら今日一日の予定を全て終わらせた事を確認すると、途端に空腹感が一気に押し寄せてきて俺は昼飯を取るためにギルドから出ると街の方へと繰り出した。


 ついでに今日の宿屋も探さねばならないが、冒険者の証を発行する際に銀貨を取られていることから格安な所を見つけなければならない。……仮に見つからなければ今日の寝床は馬小屋だ。



◆◆◆◆◆◆◆◆



「……意外といいところを見つけてしまったな。しかも格安で!」

 

 とある宿屋の一室に入ると早々に俺は周りを見渡して歓喜の言葉を零した。


 昼飯を無事に食べ終えた俺は格安の宿屋を探し始めると、適当に目に付いた場所から声を掛けて値段を確認してみることにしたのだが、まさか初っ端から良い部屋を取る事ができたのは予想外であった。

 

 この部屋は大きさもそれなりに広く。置いている家具には細かな装飾が施されていて、高級感が其処彼処から溢れている。


「うむ、これで銀貨2枚と銅貨5枚なら当たりだ。あとは明日までここで引きこもってよーっと」


 腰に装備している二本の剣を外して壁に立てかけると、俺は見るからに柔らかそうなベッドへと飛び込んでマシュマロのような感触と肌触りを堪能する。

 ……がしかし急に何処からともなく眠気が襲ってくると俺は堪らず瞼を閉じて意識を手放した。


「……の……おき……さ!」


 すると直ぐに不鮮明な声らしきものが耳元で聞こえてくる。


「おき……もぎ……よ!」


 何やら声の主は怒っているようだが今の俺はこの異様な心地よさに身を任せていて当分は起きることはないだろうと自負している。


「あのっ! 起きないと本当に貴方の息子をもぎ取りますよ!」

「ッ!? よせ辞めるんだ――ッ! ってあれ? ここはどこだ?」


 この世の者とは思えないような脅し文句が鼓膜に響き渡ると、俺は瞬時に体を覚醒させて飛び起きた。しかし気が付くとここは俺が先程まで居た宿屋の一室ではないことが分かる。何故なら周囲には物と言えるものが何一つなく、代わりに辺り一面は真っ白い空間が広がっているのだ。


「やっと起きましたね、隆史さん!」

「なっ!? その声と俺の名前を知っている者は……ま、まさか……」


 飛び起きて束の間、俺の背後からは懐かしくも聞き覚えのある声と共に忘れたくも忘れられない名前が聞こえてきた。

 

 そして俺は恐る恐るというよりかは完全に全身を恐怖感に覆われると、今この場に奴が居ることを確認する為にも振り返ろうとする。


「そうですよ! ご存知、女神のモニカです!」


 するとやはりというべきか背後には一年前に俺をこの異世界に放り込んだ張本人が頬を膨らませて両手を腰に当てながら立っていた。


「そ、そうですか。……じゃなくて! なんでお前がここにいるんだよ!? なに俺はまた死んだの? 嘘だろ!? 寝ている間にか!」


 モニカの登場に俺の脳内は一つの答えを導き出すと、それは自らの死というものであった。

 そう、彼女と出会うには死ぬしか方法がないことを知っているが故に俺は取り乱しているのだ。

 まだ魔王も……そもそも仲間すら集めていないというのにだ。


「まあまあ落ち着いて下さいよ。今から事情を話しますから」


 彼女は俺が発狂して叫んでいる姿を目の当たりにすると、何故か慈愛に満ちた瞳を向けて宥めてきた。それはまるで母親が愛子をあやすような、そんな雰囲気に似ていた。


「……で取り敢えず貴方は死んでいません。意識だけこの空間に呼びましたから」


 そう言い切るとモニカは指を鳴らして何も無い空間に簡易的なテーブルと椅子を出現させて座り始めた。


「は、はぁ? ますます意味がわからん……が続けてくれ」


 一先ず死んでいるという事実が無くなると俺は冷静な思考を取り戻す事ができて彼女に話を続けるように促す。


「あ、はい。それで実は私貴方の行動を逐一監視……上から見ていましてね?」

「おい待て。今なにか不穏な言葉を口にしなかったか?」


 右の手のひらを広げながら前へと突き出すと、俺はモニカの話を無理やり中断させて事実確認を取ろうとした。俺の聞き間違えでなければ今確かに監視がどうこうと聞こえた筈なのだが……。


「いえ別に? 気のせいでは?」

「そ、そうか……話を止めて済まない。続けてくれ」


 真顔のまま首を傾げてくる彼女を見ると、どうやら先程の言葉は俺の聞き間違いらしく続きを話すように言う。けれど本当にあれは聞き間違いだったのだろうか……些か疑問ではある。


「はい。それでですね? 単刀直入に言いますけど今すぐ勇者一行の元へと戻――」

「断るッ! それは絶対にできん!」


 今度こそ聞き間違いではない言葉が耳に入ると俺は光の速さで反応を示した。

 一体この女神は何を巫山戯たことを抜かしているのかと。あんなクソみたいなパーティーに戻ったら、今度こそヴァシリーサから本気の拳を食らって死ぬことになるわ。

最後まで読んで頂きまして、誠にありがとうございます。

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