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47話「開催されし宴と脳筋自慢」

 決闘の疲労を癒す為に傭兵案内所にて一泊することが確定すると、頭領は宴だと言い出して周りの傭兵達が次々と準備を始めるように椅子や机を外へと運び出しては設置していて、更には木材を積み上げて大型の焚き火すらも始めると、それは確かに雰囲気的には宴のように見えなくもない。


 そして暫くして女性の傭兵達が両手に沢山の食材を抱えて再び姿を現すと、その食材の量は尋常ではなく肉や野菜たちが一見して山盛りの状態であり、まるで三ヶ月分の食料を今ここで消費しようとしている気が大いに感じ取れる。


 だが流石にそんな光景を見させられるとアリスも驚きの反応を隠せないのか、若干頬を引き攣らせては『まじですの……?』という言葉を静かに呟いていた。しかし考えてもみれば傭兵達は体が資本な訳で、これぐらいの食事量が普通なのかも知れない。


 それから一通りの準備が整えられたのか傭兵達が肉や野菜を次々と焼き始めると、次第に食欲を唆られる香ばしい匂いが周りに漂い始めるのだが、それは決闘後の疲労を抱えている俺からしてみれば空腹を増進させるだけであり、椅子から腰を上げると一直線に肉が焼かれている場所へと進む。

 

「ごくりっ……。お、俺は食うぞ! なんせ疲労を回復させねばならないからなっ!」


 目の前で骨付き肉が網の上で良い感じに焼けているのを見ると自然と涎が垂れてくるのだが、取り敢えず生焼けということはなさそうなので骨の部分を手に取ると、空腹の胃を満たす為に一気に齧ろうとしたのだが――――


「よう兄ちゃん! 酒も飲めや! やっぱり肉には酒が合うぜ!」


 唐突にも横から男の傭兵が話し掛けてくると両手には酒の注がれた木製のジョッキを手にしていて、そのうちの一つを渡すように差し出してくると確かに肉には酒だろうとして喜んで受け取る。


「「かんぱーいっ!」」


 そのあと俺と傭兵のおっちゃんは肉に齧り付いて酒で流し込むことで圧倒的な優勝を果たすと、そこからは一切の歯止めが利くことはなくて本能が赴くままに、手当たり次第に肉や野菜を次々と胃の中へと落としていく。


 しかしふと冷静な思考を取り戻して周囲の様子を伺うと、どうやらアリスもこの雰囲気に順応したようで、女性の傭兵達と一緒に酒を飲んでは野菜を小動物のリスのように食べていた。

 幾ら場の雰囲気に流されようとも令嬢としての品性は健在のようである。


「だがまあ外の気温は低い気がしたけどこれなら寧ろ暑いぐらいだな」


 空を見上げるようにして呟くと先程までは若干肌寒いぐらいの感覚で居たのだが、それが今では大型の焚き火やら傭兵達の活気により打ち消されて体感的には初夏ぐらいの暑さである。


 それといつのまにか日が完全に落ちて周囲は暗い闇に包まれているのだが、この辺り一帯だけは焚き火の影響もあり明るくて特に不都合なことなどはない。


 だがこうして改めて火に照らし出されて傭兵達やアリスの楽しそうな表情を見ると、こういう大勢で何か賑やかなことをするというのは日本で生活していた頃は何一つしたことがなくて、まさか異世界の地にてそれを経験することになろうとはと少し感慨深いものがある。

 

「ふむ、楽しんでいるようだな」


 そして背後から肩に手を乗せられると同時に頭領の声が耳元で聞こえてきた。


「うぉっ!? と、頭領さんか……」


 いきなり背後に立たれて声を掛けられると寿命が縮まるので辞めて欲しいのだが、一体いつのまに背を取らていたのか気になるところではある。足音や気配というものが何一つ感じ取れないのだ。


 これでも一応はチート能力である程度の感覚は敏感な筈なのだが、これは自分が明確に相手を敵と判断していないと機能しないのだろうか。それとも頭領という女性がやはり只者ではないという可能性の証拠となりうるのか……。


「ふっ、そんなに驚くこともないだろうに。まあ今だけはゆっくりと英気を養うといい」


 肩を数回軽く叩いてから彼女はそう言い残すと酒と肉を取りに行くのか足を進ませていた。

 

「……あっ、そう言えばクラークは大丈夫なんだろうか? 一応決闘した者としては心配なのだが……向こうが何も言ってこないということは多分だが大丈夫ということか?」


 去りゆく頭領の背中を見ながらクラークの身を案じるが、こういうことは案外と尋ねづらい部分があるから下手に聞けないのだ。


 ――それから頭領が宴に参加したことでより一層の盛り上がりを見せ始めると、傭兵達の気分も登り坂のように上昇していき中には、服を脱いで踊り始める者や投げナイフでジャグリングを始める者までいて、更にアリスまでもが悪い酔を起こしたのか腕相撲勝負を突拍子しもなく傭兵達に挑んでいる始末である。


 そしてアリスに勝負を挑まれた傭兵達は皆意気揚々とした反応を見せながら応えるのだが、やはりうちのお嬢様は日に日に狂戦士へと近付いているのか、傭兵達の腕から妙な音を響かせては次々と薙ぎ倒していた。


 恐らく関節が外れた音だとは思うのだが、酒のせいで感覚が麻痺しているのか、誰ひとりとして痛みで悶える者は見受けられない。このあとの事を想像すると肝が冷えるが、自業自得だとして傭兵の皆様には耐えてもらうしかあるまい。


 だがそんなことをしていると頭領が突入としてアリスとの勝負に名乗りを上げてきて、これは些か予想外の展開だとして野次馬側の俺からしてみれば興奮が高まることで、それを見ながら酒のつまみとすることにした。


「それでわ~。勝負かいしぃぃい!」


 傭兵の一人が試合開始の鐘を鳴らすとアリスと頭領の前代未聞の腕相撲勝負が始まりを告げて、周囲を取り囲む野次馬達が歓喜の声を上げて二人を応援し始めると、場の空気はこれ以上となく最高の盛り上がりを見せる。まさに応援の声のみで空気が振動を起こすぐらいだ。

最後まで読んで頂きまして、誠にありがとうございます。

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