41話「白夜の一族、それは女性の傭兵」
頭領の背後を某RPGキャラの如く付いて歩いていくと、案内されたのはなんと彼女の自室であり、どうやらこの部屋で白夜の一族の人と会わせてくれるみたいである。
だがそれだけであるなばら特に問題事は無かったのだが、頭領は客人である俺をもてなそうとしているのか、フォーヒーを入れたコップを目の前の机へと置くと飲むように促してきたのだ。
しかし今までの経験上人が出した飲み物や食べ物には体液などが含まれていることが多く、それが今やトラウマとなり根深く心の底に蔓延ると、目の前に置かれたフォーヒーは絶対に飲むことができない。
……というか体が拒絶していて無理なのだ。
もはやフォーヒーの香りだけでも吐き気を催すぐらいで到底無理無理カタツムリだ。
「どうした飲まないのか? これは遠方の地ブラジリンで採れた上等な豆を焙煎して挽いたフォーヒーだぞ?」
そして頭領は中々フォーヒーに手を付けない俺を見て不思議そうに首を傾げると、フォーヒーの原材料となる国の名前を口にしていたが別にフォーヒーの品質とかはどうでもいいのだ。
ただ単純に人から出され物を口の中に……強いては胃袋に収めることが精神衛生上無理なのだ。
「えっと……それが……その……実はですね?」
ここは意を決してフォーヒーを飲めないことを伝えようとするのだが、如何せん目の前で足を組みながら椅子に座り込む頭領が段々と不機嫌そうに表情を顰めているのが気になり、自分でも歯切れが悪いことは重々承知しいているのだが上手く言葉が出てこない。
だが恐らく今の彼女は心の中でこう思っているに違いない。
『私が入れたフォーヒーを飲めないだと?』という風にだ。
特に傭兵案内所のトップが出した物を怪しんで手を付けないこと自体が侮辱行為に等しく、ここは今後の関係を含めて無理をしてでもフォーヒーを飲むことが、一番穏便に事を済ませることとなるだろう。
しかしそうは頭の中で考えられても心と体は見事なまでに拒絶反応を出しているのだ。
既に手の震えは止まらない状態であり、呼吸も次第に乱れ始めて変な汗が額から頬を伝い流れ落ちてくる始末だ。
「……まさかキミ飲めないのか? 私の入れたフォーヒーが」
自身が入れたフォーヒーを一口飲んだあとカップを机の上へと戻して頭領は、その言葉を重々しく言うと場の空気が一気に凍りつくのを自らの五感を駆使して理解出来た。
まるでこの部屋は今や吹雪が舞う極寒の凍土のようにすら感じられる。
「い、いやそんなことは別にないですけど……」
「そうかい? ならば遠慮しないで飲んでくれ。なに、怪しい物は入れてないさ」
彼女の表情が依然として柔くなることはなく寧ろ段々と目つきが鋭くなると、まるで野生の獣に睨まれているような錯覚を受けるが、流石にこれ以上は言い訳ができないとして震える手でフォーヒーが注がれたコップを手に取る。
「さぁ、一気に飲み干してくれたまえ」
鋭い眼光を浴びせながら頭領は右手を前に出して飲むように促してくると、最早俺の命もここまでかと思い諦めると一切の感情を無くしてカップを口元へと運ぶ。
――だがそうすると背後から突如として扉を叩くような音が聞こえてきて、
「ん、入れ」
彼女は視線を扉の方へと向けて扉を叩いた者へと返事をしていた。
「はいっ! 入ります!」
それから扉の反対側から活気のある女性の声が聞こえてくると、扉は静かに開かれたのだがその際に頭領は椅子から腰を上げていた。
恐らくこの声の持ち主こそが【モエギ=ヒョウカ】という白夜の一族の者なのだろう。
そして開け放たれた扉から一人の女性が姿を現すと長椅子の横へと足を進めて立ち止まるが、その時に自然と視線が彼女の元へと向くと確かにそこには自分と同じ髪色と瞳をした人物が敬礼をして頭領へと挨拶をしていた。
「ほ、本当に白夜の一族が……」
モエギの容姿を目の当たりにして思わず言葉が漏れ出る。
これまでの旅路で自分と同じ一族の者に出会うことは無かったが、今こうして会う事が出来ると不思議と感動にも似た感情が体の底から込み上げてきて仕方がない。
けれど俺自身この体はモニカが用意した借り物みたいな状態であり、この込み上げてくる感情は本当にそういう白夜の一族が居たという発見の感動なのかも知れない。
「それで要件とは一体なんでしょうか?」
それから彼女が敬礼の仕草を辞めて頭領への挨拶を終えると呼び出された理由を尋ねていた。
「ああ、実はそこに座っている者がお前と話がしたいらしくてな」
そう雑な説明をしながら頭領は視線を向けてくると、それと同時にモエギも同じく顔を向けてきた。
「私と話ですか? えーっと……」
しかし彼女は困惑した様子で俺と視線を交わせると、上から下へと観察するようにして顔を動かしていた。
それからモエギは何かに気が付いた様子で目を丸くさせると、
「ってあれ!? も、もも、もしかして貴方は私と同じ白夜の一族ですか!?」
大きな声を出しつつ右手を口元へと添えて自身を白夜の一族だと公言していた。
やはりその髪と瞳は紛れもない一族特有のものであり、下手な誤魔化しなどは効かないのだろう。
だが彼女のその言葉を聞くに俺という存在に漸く気が付いたことを知ると、この部屋に入室して頭領と挨拶するまで自分という存在が空気と同等の価値であるのかと思わされる。
けれど一方でこれが黒衣のコートの認識阻害の能力かも知れないと僅かに期待も見えた。
……それでも自分が空気と同様だと考えるのであれば、それは中学の頃の暗い記憶が鮮明に蘇るので、深く考えることは今は辞めておくことにする。
「そ、そうみたいですね……。あははっ」
取り敢えず会話を続けなければならないとして、愛想笑いを浮かべつつ頭を掻きながら答えるのであった。
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