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39話「新たな白夜の一族現る!?」

 頭領から認識阻害の魔法が付与された黒衣のコートを受け取ると、それは一見してもただの黒色の布切れにしか見えなくて、本当にこれを纏うだけで認識が阻害されるのか疑わずには要られなかった。何故なら何処をどう見ても怪しさ百パーセントの押し売りみたいなものだからだ。


 まあ実際に金を支払い購入しているわけではないから、その辺はまだ良心的なところと言えよう。しかしいざ黒衣を着てみると驚くことに周りの傭兵たちとしっかりと視線を合わせても、誰ひとりとして目の色を変える者はおらず、寧ろ普通の一般人に向けるような無機質な視線を見せていたのだ。


 しかもこっちは身分を明かされる覚悟をして顔を覆い隠していた布すらも脱いで素顔を晒したというのにだ。それでも傭兵達は俺に興味を持つ素振りすら一切なく、この黒衣には本当に認識阻害の魔法が付与されている最高のアイテムということが実証されたのだ。


 さらに付け加えるならば傭兵全員が御尋ね者状態であれば新聞という情報誌に逐一目を通している筈であり、それならば勇者一行から捜索願を出されて尚且つ賞金が懸けられている俺を見たら絶対に確保しに来る筈のだ。


 けれどそれが一切ないということは、もはやこれは紛れもなく本物ということで俺に更なる安心感を与えてくれたという訳だ。まあそれでもこれらが全て演技という可能性も捨てきれないことから、無事にこの傭兵案内所を五体満足で出られれば尚のこと嬉しいところだ。


「あー、この髪色と瞳は白夜の一族特有のものらしいですね」


 そして黒衣のコートにすっかりと魅了されていたが、頭領が何気なく呟いていた言葉に返事をする。ここで話を無視してしまい結果的に些細な事で黒衣を返せと言われても厄介だからな。


 でも見た感じ頭領はそんな面倒な性格をしているとは思えないのだ。

 寧ろ大雑把な性格をしているような印象すら見受けられる。


 多分だが可能性があるとするならば会話を途中で無視された場合、注意の言葉よりも先に右の拳が顔面に飛んできそうだ。これは偏見かも知れないのだが頭領のような男勝りな性格の持ち主は、口より先に体が出るような気がしてならないのだ。 


「ああ、そうだそうだ。白夜の一族か! 確か特殊な瞳を扱う事ができるらしいな」


 それから何処か腑に落ちた様子で白夜の一族という言葉を口にすると彼女は自然と両腕を組んでいた。

  

「……もしかして白夜の一族について詳しいんですか?」


 頭領の口から特殊な瞳という特定の言葉が発せられると、その情報はそこそこ白夜について調べていないと分からない情報だと思い咄嗟に聞き返していた。


 もしかしたら彼女ならば、あの時アリスに使用した瞳のことについて何かしらの情報を有している可能性があるからだ。


「いいや、知らんな」


 だがしかし尋ねた直後に彼女は首を横に振りながら断言すると、ほんの僅かな淡い期待すらも一瞬で塵芥となり無となった。


「……いや待てよ? 確か第三奇襲部隊の戦闘員の中にキミと同じ白夜の一族が居た気がするな」


 しかし話しはそこでは終わる気配はなさそうで、手を顎に当てながら神妙な面持ちで頭領は言う。


 だがその言葉は容易に今世紀最大の朗報となりえる事であり、旅をしていればいつかは同じ種族の者と出会えるだろうと考えていたのだが、まさかこんな所で早々にそれが叶うことになろうとは。本当に運命というのは何処で交わるか分からないものだ。


「ほ、本当ですか!? 俺と同じ白夜の一族がここに居るんですか!?」


 驚愕の感情が心の底で発生するとそれは喉を伝わり口から飛び出していくが、その余りにも唐突な出来事のせいで何故か手足の震えが止まらない状態である。


 恐怖や武者震い以外でこうなることは何げに初めてのことで、自身の体の制御が出来ていない証拠なのだろうが、恐らく自分以外の白夜の一族の存在が目に見えて居るという事実がそうさせているのだろう。だからこれは……どうにも例えずらく直感的なものとなるのだ。


「ああ、間違いないだろう。なんせ私は部下全員の顔を記憶しているからな。……まあ少し待っていろ」


 僅かに口角を上げて白い歯を見せながら笑みを浮かべたあと、頭領は矢継ぎ早に待つように指示を出すと視線を周囲へと向けていた。


 一体何をしようとしているのか疑問ではあるが、待てと言われたならば犬のように従順に大人しくしていることが正解であろう。

 ……というか今頃になってじわじわと戦闘後の疲労が全身を包み始めている気がする。


「おい、誰か第三奇襲部隊のモエギ=ヒョウカを呼んで来い」

「はいっ! 直ぐに呼んできます!」


 たまたま頭領の近くを暇そうに歩いていた傭兵の一人が即座に反応すると、その者は敬礼を彼女へと捧げたあと小走りで建物の方へと走り出していた。


 こういう頼み事の際に部下が直ぐに反応するというのは、やはりこの傭兵案内所の士気が高い影響なのだろうか。はたまた頭領の人徳なのかカリスマ性なのかは分からないが、武力で言うことを聞かせようとしないのは非常に好感が持てる。


 ……というのもこの世界に来てから色々と人間の醜い部分も多く見てきたことから、こういう些細なことでも綺麗に見えるものなのだ。特に武闘派集団の集まりではな。


「さて、そろそろ私達も中に入るとするか。いつまでもここで話していては体が冷えてしまうからな」


 ふとそんなことを考えていると頭領が建物の方へと人差し指を向けて中へ入ることを提案してきたのだが、言われて見ると戦いを終えた直後というのも影響しているのか確かに体が異様に冷えて仕方がない。

 

「そ、そうですね」


 一旦寒いという事実に気づかされるともう歯止めは効かなくて建物内へと入るべく足を進ませ始めたのだが、そうするとちょうど風も吹き始めてきたことから頭領の提案は的確なものだとして素直に凄いという感情が湧く。


 しかしこれがスキルによるものなのか彼女の直感による判断なのかは分からないが、仮に直感による判断であるならば頭領の感覚は野生の動物並に鋭いということになるだろう。

 本当に彼女は一体何者なのか。そしてどれほどの実力者なのか気になるところだ。

最後まで読んで頂きまして、誠にありがとうございます。

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