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38話「認識阻害の黒衣」

 頭領から突如として御尋ね者かどうかという事を尋ねられると再び俺の身分を明かそうとしている雰囲気がびんびんと感じられたのだが、どうやら話を進めていくうちに御尋ね者専用の便利アイテムがあるという誘い文句を使い俺を釣り始めていた。


 しかしそんな見え見えの釣り針で俺を釣ろうなんて千年早く、まずは大きな餌で釣り針を隠すことから学ぶべきだとして丁重にお断りの言葉を送ることにした。


「ふぅん、確かにそうだねぇ。……でもね。このタスクに属する者たちは全員が仕事柄お尋ね者状態でね。だからこの場で誰が何をして狙われているとかは一々気にしないんだよ」


 すると頭領は最初こそ理解を深めようと頷いて反応していたが、傭兵という仕事をお行う上で御尋ね者という身分は常に付いて回るものらしく、この傭兵案内所ではそういうことは些細なもので誰も気にしていないらしい。


 確かに全員が御尋ね者状態であれば一々気にする方のが疲れるというか、本当にこのタスクに属する者たち全員が御尋ね者であれば、寧ろ団結していた方のが心強い部分はあるだろう。


 ……というか木を隠すなら森の中というやつで御尋ね者を隠すならば御尋ね者たちが沢山いる場所というのが妥当な考え方かも知れない。


「そ、そうなのか……」


 そう思うと自然と納得に近い言葉が独り言のように出て行く。


「まあちょっと待ってな。今からそのアイテムと一緒にキミが求めている情報をあげるからさ」


 そして頭領は右手を僅かに前へと出して待つように言うと、明らかに歳は俺より上の筈なのに片目を閉じながら小悪魔的な表情を見せて建物の方へと姿を消した。


 だがそんな唐突に十代女子がするような仕草を見させられても、心に響くものは何もなく寧ろ恐怖というか別の感情が込み上げて仕方がない。

 まるで捉えた獲物は逃がさないような……。そんな感じがしてならないのだ。


「まったく、あの人は一体何を考えているのか……」


 彼女が姿を消した建物を見ながら改めて頭領のことを思うが全然理解できる筈もなく、下手に相手をしていい人ではないという事だけは唯一理解できたことである。

 ――それから言われた通りに暫く待機していると、建物の中から頭領が出てきて漸く姿を現した。


「ん? なんだあれは?」


 しかしよく見てみると彼女の右手には黒衣のコートが握られていて、多分だがそれが例の御尋ね者にとって、ちょうどいいアイテムの正体なのだろうと直感的に分かった。

 

 だがそれでも黒衣のコートが一体どんな役に立つというのだろうか。

 そのまま黒衣を見ながら意識を呆然とさせていると、


「お待たせ。これが御尋ね者にとての便利アイテム、通称【認識阻害の衣】だよ」


 頭領が近づいてきて開口一番そんなことを言いながら黒衣のコートを見せてきた。


「認識阻害のコート……?」


 しかしいきなり言われても内容が瞬時に把握できる筈もなくオウム返しをして聞き返す。


「そうだとも。これを着た者に認識阻害の魔法を付与させて、限りなく周囲の人間から他人だと思われるという便利アイテムさ」


 大きく頷いてから彼女は黒衣のコートについて説明をしていくと、それが本当に話通りのアイテムであれば相当に使い勝手が良い物なのではないだろうか。


 というかそんな物があれば犯罪し放題なのではと思えてしまうが、この捉え方は些か無粋なものかも知れないとして口が裂けても頭領の前では言えないだろう。


「ほぉー、中々に良さそうなアイテムじゃないか」


 説明を聴き終えて関心を示すために敢えて声を若干重くさせる。


「まあ物は試しさ。実際に着てみな」


 すると彼女は黒衣のコートを差し出してきて、今ここで試着をするように提案してきた。

 だがその突然の提案は普通に戸惑いの感情を生ませることとなるが、


「あ、ああ分かった」


 仮にその話が本当であれば限りなく便利だとして黒衣を着ることにした。しかしそれは同時に一種の賭けを意味していて、この黒衣がただの布切れであれば頭領の前で自らの姿を公表することになる。


 けれどこの黒衣が本物であればもう一々顔を隠したり偽名を使うことはしなくて済むのだ。

 つまりこれからはもっと大胆に行動ができるようになるということ。

 

 ならばここは勝負に出てもいいのではないだろうか。

 ……いや、ここは断固勝負に出るべきだ。それしか道はない。


 今後の為を考えて勝負に出ることを決意して黒衣を受け取り着替えると、そのあと認識阻害の魔法がしっかりと働いているかの確認をする為に顔を覆っていた布を取り払うことにした。

 そして妙な緊張感を帯びながらゆっくりと顔を覆う布を解いていくと、


「おっと、なるほどなるほど」


 訝しげな顔を見せながら頭領が意味深な言葉を呟いて手を顎に添えていた。

 しかしその言葉を緊張感を帯びた俺の耳が聞き漏らすことはなく、瞬時にこの黒衣が偽物だとして判断すると自らの慢心を恥じると共に急いで顔を布で再び隠そうとする。


「ああ、ごめんごめん。別にキミの正体が分かったとか、そんなんじゃないよ。ただ単にその珍しい髪色と瞳が気になっただけさ」


 けれど彼女が視線を合わせて軽い感じで何故か謝ると、どうやら身分は明かされていないが白夜の一族特有の瞳と髪色はしっかりと認識されているらしい。


 だが逆に言えばそれだけしか認識されておらず、俺が勇者一行に捜索願を出されている者ということには気が付いていなさそうだ。まあこれが頭領の演技であるならば女優賞ものだがな。


「うーん、本当にこれは認識阻害されているのかぁ?」

 

 いまいち不安が取り払えないとして気持ちが落ち着かないが、何気なく周囲を見渡すように視線を向けて見ると、驚くことに誰ひとりとして俺を見て目の色を変えるものはいなかった。


 勿論だが確実に視線を合わせた連中も中には居るのだが、その者達すらもまるで近所の人と顔を合わせるような感覚で済ませていたのだ。


「ま、まじでか! これ本当に認識阻害されてるって訳か!?」


 そしてこれらの実証を重ねた結果一つの答えが導き出されると、この黒衣は極めて本物である可能性が高いということであった。

最後まで読んで頂きまして、誠にありがとうございます。

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