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37話「勝者はチート」

 クラークが全員が見ている決闘の場にて大量の吐瀉物を撒き散らすと、そのまま全身から力が抜け切るようにして倒れ込むのであった。

 そしてすかさずに頭領の声が外野から聞こえてくると、


「決闘終了! クラークの気絶により、勝者を異邦の冒険者とする!」


 凛とした声で試合終了の判断を下して右手を俺の方へと向けていた。


「「「お”お”お”お”っ”!」」」


 するとその言葉に続くような形で周囲の野次馬たちから盛大な拍手と共に歓喜の声が上がる。


「よくやった!」

「あの魔弾使いのクラークを倒すとはたまげたなぁ」

「クラークを倒せるってことは相当のレベルだぜ、兄ちゃん!」


 しかもそのあとは歓喜の声や拍手だけでは収まらず、決闘の場近くで見学していた傭兵たち数人が、更に褒めるような言葉をかけてくれて少しだけ嬉しかった。


 しかし褒められることよりも手首の神経が軽い麻痺状態を起こしている方のが気になり、今や剣を握ることさえぎりぎりの状態で、次にまた同じ攻撃を受けていたら確実にこっちが負けていたことだろう。それだけは考えずとも互いに武器を交えた事から分かるのだ。


「だがまさか……こんな幼児体型の女子に追い詰められようとはな……」


 決闘の場の四隅へと足を進めて背中を預けつつ楽な体制を取ると、ふとそんな事を呟いて自分自身の新たな課題を見つけることとなった。


 それはずばりこのままチート能力だけでは魔王討伐は厳しいかも知れないということだ。

 ただでさえクラークとの戦いでもかなりの運要素があったことから、これでは何れ誤魔化しが効かなくなるのではと。


 これは本格的に一度、剣術の修練を何処かで積んだ方がいいかも知れないな。

 それから目の前では女性の衛兵たちが決闘の場へと上がり込むと、気絶しているクラークを担架へと乗せて傭兵案内所へと担ぎ込まれていた。恐らく医務室にでも運ばれたのだろう。


「ふぅん、手首の方は大丈夫かな? 異邦の冒険者」


 そして他の傭兵たちに視線を惹かれていると、いつの間にか横には頭領の姿があり、視線を俺の手首へと向けていた。しかも気になることに呼び名がクラークと同じで、異邦の冒険者となっているがこれは一体どういうことだろうか。


 だがそんなことよりも的確に痛みを受けている箇所を見抜くとは、流石は傭兵案内所の頭領だと言わざる他ないだろう。


「こちらの道楽で付き合わせた挙句、危険な目に合わせてしまい申し訳ない」


 けれど俺が考えことをして沈黙を貫いていると何を思案したのか、頭領は突然真面目な声色で謝罪の言葉を口にすると共に頭を下げてきた。

 それを見て漸くこの状況は考え事よりも返事をする方のが先だということに気がついて、


「ええ、大丈夫ですよ。というかクラークさんの方が気になりますけどね」


 なんとか手首や体の痛みを堪えて返事をするがクラークの事をさん付けで呼んでしまった。

 これはやはりあれだろうか?

 少しばかりやり過ぎたとして本能的に気が引けている証拠なのだろうか。


 まあでも向こうは俺を殺す気でいたのだから、あれぐらいで妥当な所だとは思うのだ。

 ……いや、寧ろあれぐらいで済ませていた俺に感謝して欲しいぐらいだ。

 本来ならば命の危機を感じた瞬間に鞘から剣を抜くことも可能だったからな。


「アイツなら問題ない。なんせ私が鍛えたからな。……だがまあ、あれぐらいの攻撃でくたばるようなら、また一から教育し直さないといけないかもな。ははっ」


 すると頭領はクラークのことに関しては大丈夫だと言い切るとそれは師匠としての言葉のように思えるが、後半の言葉については笑い声こそ上げているものの目が一切笑っていないことから恐ろしく見えて仕方がない。


「そ、そうですか……あ、あははっ……」


 取り敢えず愛想笑いを浮かべて返そうとするが、彼女の威圧に押されて引き笑いとなってしまう。


「あ、ああすまない。今のは気にしないでくれたまえ」


 どうやら逆に気を使われたらしく頭領は自身の頬を人差し指で掻きながら視線を泳がせていた。

 そして互いに沈黙の間が訪れると妙に気まずい雰囲気が立ち込めるのだが、


「そう言えばキミはどうして顔を隠しているんだい? もしかしてお尋ね者かい?」


 何を今更かという質問を頭領が口角を上げながら投げかけてきた。多分だがそれは彼女なりに話題を提供した結果なのだろうか、些か不器用さが垣間見えてならないのだ。


 だがここで馬鹿正直にはいそうです何て言える訳もなく、否応なしに慎重に答えざる得ない状況となった。本当に先程までの気の緩い雰囲気は何処へやら状態だ。しかし可能性としてこれは頭領なりに俺の素性を探ろうと準備した壮絶な作戦なのかも知れない。


「いえ、これはただ単に日除けですよ。生まれつき日光に弱くて」


 そう思案すると自らの正体が明かされないように、慎重に当たり障りのない言葉を選び使うほかなかった。


「ふぅん、そうか。御尋ね者であればちょうどいいアイテムをプレゼントしようと思ったんだけどねぇ」


 手を顎に当てながら頭領は何処か見透かしたような言葉を口にする。

 だが俺としてはそれは自身の素性を探ろうとする為の嘘の発言だとして、


「そんな便利な物があったとしても、それを態々俺に教える通りがないですよ。頭領さん」


 肩を竦めながらはっきりとアイテムの存在を否定して話を終わらせようとする。

 下手に会話を長引かせると不利になる気がしてならないからだ。特に彼女は要注意人物だろう。 

 

 なんせこの傭兵案内所で多くの仕事を日々請け負う、それは即ち交渉術が上手いことも意味しているのではと思うのだ。

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