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32話「決闘の準備」

 頭領がこの場に居る全員を楽しませることが出来たら、魔王すらも切り伏せることの出来る伝説の剣についての情報を教えてくれると口にしていた。


 だがそれは俺にとってただ単純に面倒事でありさっさと情報だけ得たい所ではあったのだが、向こうが貴重な情報を握っているということはこちらは下手に断ることが出来ない。

 ならばここは腹を括り敢えて面倒事に身を投じなければならないだろう。


「はぁ……それで? 楽しませるたって俺は一体なにをしたらいいんだ? 踊ればいいのか?」


 重たい溜息が出て行くと傭兵たちを楽しませる内容を尋ねた。

 勿論向こうが提案してきたのだから、それなりの案があるということだろう。

 仮に案がなければそれは相当無責任な頭領という烙印が俺の中で押されることになる。


「うーん、そうだねぇ。ちょうどクラークと何やら盛り上がっていたみたいだし、これがいいかな。うん、それがいいっ!」


 なにやら思いついたように彼女は何度も小さく頷く仕草を見せると、それを見て俺とクラークは同時に首を傾げていた。

 すると頭領は組んでいた両腕を解いて人差し指を交互に向けてくると、


「今から二人には決闘をしてもらう。そしてキミがクラークに勝てば情報を全て明け渡そう。勿論だが負けた場合は何も話さない。どうだい? 面白そうだろう?」


 なんと俺とクラークを戦わせて見世物にすることで傭兵たちを楽しませる方法を提案してきた。

 そして彼女のその提案は周りの傭兵たちには好評なのか、次々と野次馬のごとく歓喜の声が打ち上がる。


「よっしゃ! やっちまえ! クラーク!」

「へっ、精々俺達を楽しませてくれよな。冒険者の兄ちゃんよぉ!」

「ほう、クラークの技を躱した者が決闘か……これは見ものだな」


 どうやらここの傭兵たちは他人が戦う場面を見て気分が向上するらしく誰ひとりとして反対の言葉を口にする者はいない。まあ頭領が提案したことだから下手に文句を言うことも出来ないのだろう。これでは彼女の都合に付き合わされるクラークに同情の念が湧くな。


「決闘か……それしか今のところ情報を得られないのならやるしかないな。だが具体的なルールどうするんだ?」


 もはや逃げ道なんぞ何処にもなく決闘を受けるしか手はない状況だが、俺にはチート能力があることから余程のことがない限り勝てる筈なのだ。これが慢心であるということは重々承知。

 しかし慢心せずして何がチート能力者と言えようか。俺はこの決闘で勝ち必ず情報を得る。


「おお、乗り気だね。いいよいいよ、そういう男は好きさ。だけどルールに関しては少し待ってくれ。それでクラークはどうする? 一応断ることも出来るけど?」


 頭領は返事を聞いて笑みを見せて反応するがルールに関しては待つように言うと、そのまま視線をクラークの方へと向けて決闘の返答を尋ねていた。


 そう言えばまだ彼女は決闘の返事についてはまだ口を開いていない。

 ここでもし決闘を断られようものなら、そもそもの話が破綻することになるだろう。


 だとしたらこれは少しばかりまずい……。いや、少しばかりではなく、かなりやばい状況となる。だからどうか頼む! ここは決闘に応じてくれ! さっきまで俺と戦う気満々だったじゃないか!


「はい、私も決闘に応じます。コイツには個人的な借りがありますので」


 頭領と視線を交わしながら人差し指を俺に向けてクラークが決闘に応じる返事をすると、その瞬間俺の中で一つの難関が攻略されて一先ず胸を撫で下ろすことが出来た。

 取り敢えず決闘自体が破綻するという最悪の展開は免れたという訳だ。


「それに頭領の提案を断れる訳ないじゃないですか。はぁ……まったく」


 矢継ぎ早にクラークが小声で言葉を口にすると、それは偶然にも聞き取れてしまい上司のわがままに付き合わされる社員は大変だと思わされた。

 やはり社会で働くのは俺には不向きのようである。現状を見ていてそう感じざる得ないのだ。


「ん~、今何か言ったかな? クラークぅ~?」


 しかしその言葉は頭領にも聞こえていたらしく、張り付いたような笑みを浮かべて顔を近づけていた。心なしかその笑みには大きな闇が垣間見えたような気がする。


「い、いえ何でもないです! 気にしないで下さい……」


 彼女の黒い笑みに威圧されたのかクラークは小さく両手を突き出しながら顔を逸らすと声が弱々しくなっていた。


「ぷっ、ははっ! そうかい。では今この場を持ってして決闘は無事に承認されたという訳だな。なら次にルール説明を行う。一度しか言わないからしっかりと聞いておけ」


 笑い声を上げて頭領は決闘を正式に行うことを明言すると、次に肝心のルール説明を話すようで顔を再び俺の方へと向けてきた。


「まず最初に命の奪い合いは禁止だ。私たちが命を奪うのは仕事だけで充分だからね。そして勝敗については相手に降参と言わせるか、もしくは気絶させたりして無力化すれば勝ちとしよう」


 人差し指を得意気に立たせて彼女は次々とルールを説明していくと、それは意外と真面な内容ばかりで頭領は意外と常識人なのかも知れない。


 俺としては何でもありの電流デスマッチバトルぐらいを想像していたのだが、どうやらこの考え方は早計のようで滅茶苦茶普通の決闘に少しばかり拍子抜けだ。

 まあ可能な限り面倒事が回避できるならば、それに越したことはないのだがな。


「分かりました」

「了解です」


 奇妙なことにクラークと同時に返事をしてしまうと彼女は睨みつけるような視線を向けてきたが、あからさまに嫌な反応をされると高校時代のトラウマが蘇るのでやめて欲しい。


「よし、話は纏まったね。ではさっそく決闘の場を用意するから暫くの間待っていてくれ」


 頭領はうんうんと数回頷いたあと決闘の場を用意させると言いながら周囲の傭兵たちへと視線を向けていた。そして彼女は深く息を吐いたあと目尻を尖らせると、


「なに呑気に休んでだ無能ども。聞いてたろ、お前らの退屈凌ぎで二人が面白いものを見せてくれるんだ。さっさと重いケツ上げて場の準備をしやがれ」


 途端に先程の柔らかい雰囲気から一転して辛辣な言葉を吐き捨てながら周囲の傭兵たちに命令を飛ばしていた。しかも腰から鞭のような物を取り出すと、それを勢い良く地面に叩きつけては痛そうな音を響かせている。


「「「は、はいぃぃ!」」」


 傭兵たちは一斉に情けない声を出して腰を上げると手足を動かして作業を始める。

 だがしかし俺の視界は確かに見逃さなかった。

 一部の傭兵たちが頭領から罵倒を受けた際に、恍惚とした表情を浮かべていたことを。

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