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28話「戦う女性は美しい」

 タスクの中に足を踏み入れて至る方向から眼力の圧を注がれて怖気ついていると、アリスが受付を見つけてくれたらしく俺は早々に求めている情報を知るために受付へと足を進ませた。


「あ、あのすみません。聞きたいことがあるんですけども……」


 受付の前へとたどり着くと直ぐにお姉さんに話し掛ける。


「はい、ご要件はなんでしょうか? 傭兵の依頼ですか? それとも就職希望ですか?」


 すると受付のお姉さんは相変わらず張り付いたような笑みを浮かべて対応してくるが、今はその笑みすらも心地いい所ではあるのだが、こちらとしては依頼を頼む訳でもなく剰え傭兵に就職なんて無理無理かたつむりだ。


 しかも就職という言葉を聞いて俺の体は嫌悪感を抱いたのか、急激に胃の辺りが圧迫されて吐き気が込み上げてくる。どうやら働くということに関しては体の芯まで拒否反応を出すようだ。

 流石にこれは自分でも社会不適合者ということが否応なしに分からされてしまう。


「えーっと、実はですね? とある情報を――」


 それから情報を得る為に全ての事を伝えていく。

 そうして全てを伝え終えると、あとは受付のお姉さんから回答を得るだけとなった。


「あ? なんだよ? ここは情報屋じゃねえぞ兄ちゃん」


 しかし受付のお姉さんは話を聞き終えた途端に態度を一変させると、肘を机の上に乗せて頬付を付きながら気怠い感じを主張してきた。

 その余りにも態度の急変ぶりに流石に面食らうが、


「あー……す、すみません」

 

 取り敢えず本能的に怒られたくないので謝ることにした。

 確かにここは傭兵を仕事を請け負う場所であり、情報の売買を目的とする情報屋ではないのだ。


「はぁ……。んっ?」


 ここまで来て無駄足なのかと思えると自然と溜息が出るが、それと同時に視線が受付のお姉さんの鎖骨部分へと向いた。何故なら彼女の鎖骨には獣の爪で抉られたような傷痕があるのだ。


 一体どれほどの危険な仕事を請け負うのかは分からないが、傭兵業というのは常に命を失いかねない死と危険の隣り合わせなの日常なのだろう。


「まあそのなんちゃらの塔や聖剣なんて物は知らないな。あーでも、私よりも外の世界を知っている奴がいるからそいつに聞いてみな」


 受付のお姉さんの鎖骨に視線を惹かれていると、その話は先程の会話で終を迎えていたと思っていたのだが、まさかまだ続いていたらしく更に詳しい人物が居るとして話を進めていた。

 そしてその言葉を聞いて傷痕から意識を外すと、


「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」


 意外と受付のお姉さんは優しい人のようで感謝の言葉を伝えると共に頭を下げた。


「おいアリス喜べ! どうやら情報が得られそうだぞ! ……えっ?」


 それから頭を上げると背後で待機している筈の彼女に声を掛けながら振り返るが、そこには人影一つなくアリスの存在は何処かに消えていた。


 そしてその瞬間一抹の不安が湧き上がると、もしかして彼女は己の闘争心に従い傭兵たちと決闘でもしているのではないかという考えにたどり着いた。


「くっ……! あの馬鹿令嬢!」


 額に手を当てながら愚痴を呟くと直ぐに周囲へと視線を向けてアリスを探すが、ふと横から場違いな程の楽しげな話し声が聞こえてきて釣られて顔を向けた。

 するとそこには当の本人でもあるアリスが好奇心が赴くままに周りと話していて、


「まじかよ、アリスってコミュ力の塊なのか?」

 

 そう口から本音が出て行くと彼女は後で迎えに行けばいいとして視線を外した。

 だがああいう者はクラスの陽キャグループと毎日ゲームセンターやらファミレスに行くタイプで、生前の俺ならば絶対に接点を持たない人物であることは確信を持って言えるだろう。


「そ、それで情報を持っている人というのは誰ですか!」


 机に両手を乗せて前のめりになりながら受付のお姉さんに顔を近づけて尋ねる。


「あ、ああ。えーっと今の時間なら恐らくそいつは裏庭で射撃の訓練をしてる筈だから直ぐに会えると思うぞ。名前は【クラーク=ハイゼンベルク】だ」


 すると受付のお姉さんは親指で裏庭があると思われる方角を示して、そのあと情報を有しているかも知れない者の名前を教えてくれた。


 名前を聞くに女性のような気がするのだが、このタスクと呼ばれる傭兵案内所は本当に女性が主体なのだろうか?

 まあ今はそんなことを考えていても仕方ないのだが気になると言えば気になるのだ。


「クラークは見た目は子供だが戦闘技能においてあいつの右に出る者はいない。だから話し掛ける時は充分に気をつけてな」


 受付のお姉さんは矢継ぎ早にクラークという女性について、色々と教えてくれるのだが見た目は子供とはどういうことだろうか? もしかして変な薬でも飲まされて体が縮んだのだろうか。


 しかし戦闘技能で右に出るも者がいないということは敵に回すと厄介ということ。

 繊細な注意を払いつつ接触しなければならないであろう。


「クラーク=ハイゼンベルク……見た目は子供……よし分かった! 本当にありがとうございます!」


 名前と特徴を再度確認したあと再び頭を下げて感謝の言葉を言うと、急いで体の向きを変えて裏庭の方へと足を進ませ始めた。これで漸く情報が得られる可能性があるのだ。

 それはもう心が高鳴るという言葉が今の俺の状態を現すのに相応しいだろう。


「そうですわ! 美容に大事なのは食事と睡眠ですの!」

「「「お、おぉぉぉ!」」」


 そして裏庭へと行こうとすると横からアリスの声と共に他の女性傭兵たちの声が流れ聞こえてきたのだが、どうやら彼女らは美容の話をして盛り上がっている様子だ。

 彼女の周りには大勢の女性たちが輪を作るようにして取り囲んでいる状況である。


 つまり幾ら戦いに身を投じる者たちといえど芯は女性、故に美容の知識などが気になる年頃なのだろう。けれどこれでアリスを見張らなくとも面倒事は起きないと確信出来た訳だ。

 あとは俺がクラークという女性と接触して情報を得るだけだ。


「ふっ、この場は任せたぜ! アリス!」


 そう小さく呟いて親指をぐっと上げると裏庭へと出るのであった。

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