27話「傭兵案内所、その名はタスクである」
無事に傭兵案内所なる場所を見つけて後は中に入るだけなのだが、面倒な事に出入り口らしき所の前に守衛と言うべきだろうか強面の男達が仁王立ちしているのだ。
恐らく中に入ろうと近づけば、こちらが話し掛けずとも向こうから接触されるに違いない。
しかもそこで顔を覆い隠している布を取れと言われると、そこで俺が御尋ね者だとして即行で捕まることは考えずとも分かることだ。
つまり中に入る前にあの守衛たちを何とかしないといけない。
だが一体どうすればいいのかと具体的な案が浮かぶことはなく、時間だけが過ぎていくのが現状である。
「なにを先程から立ち止まっていますの? この建物の中に求めている情報があるのでしょう?」
それを不思議に思うのかアリスは疑問の声を掛ける共に人差し指を傭兵案内所へと向けていた。
「あ、ああそうだけど……。あの守衛達がなぁ……」
歯切れの悪い感じで言葉を返すと視線を守衛達へと向けていたが、たまたま視線が合いそうになり咄嗟に逸らす。
「はぁ……。まったく、しょうがない方ですわね」
するとその行動で全てを察したのかアリスは溜息を吐き捨てると、そのまま守衛達の元へと歩みを進めていく。だがその突発的な動きには流石の俺も肝を冷やすが、これがまさに箱入り娘特有の怖いもの知らずということだろうか。
「ちょっと、よろしくて?」
何も臆することなく足を進めて等々守衛たちの前にアリスは立つと、その後ろに俺が待機している状況である。これで仮に手荒なことになったとしても何とかなるはずだ。
「ああん? なんだこの身なりの良い嬢ちゃんは?」
「しっ! しっ! ここは嬢ちゃんのような高貴な者が来るところじゃぁないぜ」
守衛の二人は話し掛けられて様々な反応を見せるが、如何にも歓迎されていないということが容易に伝わる。しかしアリスを一目見ただけで高貴な者と的確に見抜くとは流石としかいいようがない。これだけしっかりした目を持っていてれば守衛に抜擢されるのも頷けるというもの。
「あら、そう邪険に扱わないで欲しいですわね。わたくしはここに要がありますの」
そう言いながらアリスはポケットに仕舞い込んでいたダイヤモンド級の首飾りを取り出すと、それを見せつけるようにして前へと突き出していた。
するとそれを目の当たりにした瞬間に二人の守衛は、
「ダ、ダダ、ダイヤモンド級の冒険者だと!?」
「こ、この嬢ちゃん只者じゃねぇ……ど、どうぞお入り下さい!」
顎が外れるぐらいに口を大きく開けて反応したあと態度を一変させていた。
しかしアリスはダイヤモンド級の首飾りは自分の力が同等の価値になってからとか何とか言っていた気がするのだが……その辺は今聞くのは野暮というものだろうか。
だがそれと同時に首飾りにはこういう使い方があるのだということを知る良い機会となった。
俺もこれから一見さんお断りの場所では首飾りを『この証が目に入らぬか!?』と言いながら某時代劇風に見せつけてみることにしよう。
「さぁ、行きますわよ」
「お、おう……」
妙に漢気溢れるアリスの背を見ながら傭兵案内所に入ろうとするが、ふと横に顔を向けると守衛たちが似つかわしくない笑みを浮かべ手を扉の方へと向けて入るように促していた。
しかしそんな守衛達を見ていると看板が設置されている事に気が付いて顔を向けると、そこには傭兵案内所の正式名称が書かれているのか【タスク】という名前が記されていた。
それから建物の中へと入るべくアリスが扉を開け放つが、その際に立て付けが悪いのか変な音を撒き散らしていた。それもまるで黒板を爪で引っ掻いたような不快音を大音量でだ。
そのせいで俺とアリスはタスクの中へと足を踏み入れた瞬間に、一斉に強面の兄ちゃん姉ちゃんから殺されそうな眼力の圧を向けられていた。
「あ、ああこれはやばいな。完全に注目の的だよ。しかも厄介な方で……」
視線を逸らそうにも何処を向いても強面の人達は視線を一点に向けてきて避けようがない。
強いて逃げ道があるとするならば天井か足元ぐらいであろう。
「ふぅん、中々に強そうな方々がいますわね。これは腕がなりますの!」
なにやら何処ぞの戦闘民族のような言葉を口にして肩を回しているが、このお嬢さまはちゃんと趣旨を理解した上でこの場に居るのだろうか。もし適当に話し掛けて決闘でも始めた日には、この街にアリスを置いていこう。うん、きっとそれがいい。今後の為にもな。
「まあ、そうだな。だけど今日は情報収集が目当てだからな。そこを忘れるなよ」
念のために釘を刺しておいたが本当にアリスはたまに戦闘狂のような言葉を呟くから違和感しかない。もしかして多重人格なのだろうか。
まあ病みアリスも居たぐらいだし、あながち間違いではないのかも知れん。
そしてそれとなく周囲を見渡してみると、このタスクの建物内に居る人達は男よりも女性の方が多い傾向にあるようだ。見た感じで男4割女6割であろう。
更に個人的に気になる事があるのだが、この場に居る多くの人達の顔や腕や足には大きな傷痕があるということだ。恐らくこれは傭兵業を行う上で避けては通れない道なのだろうということは素人の俺でも分かる。
「あっ、どうやら向こうが受付のようですわね。取り敢えずそこで聞いてみます?」
アリスが受付を発見したらしく声を掛けてくると、やはり身なりの良い彼女が一番この場所で浮いていると改めて認識できる。しかし誰ひとりとして俺達に声を掛けてくるものはおらず、特段歓迎されていない訳でもなさそうだ。
「おう、そうだな。今はとにかく何よりも情報を得ることが大事だ」
そう思いつつも返事をしてアリスの後を付いて受付所へと向かうと、そこでは一人のお姉さんが満面の営業スマイルを浮かばせて待機していた。
今までの強面の人達とは段違いの軽い雰囲気であり、これならば話しやすいとしてアリスを後ろに下がらせると、俺が今求めている情報を全て尋ねてみることにする。
もし仮に受付の人が強面の大男とかであれば、アリスに頼んでいたがこれなら大丈夫だ。
この張り付くような営業スマイルも普段なら苛つくが、不思議と今なら心の安らぎとでも言おうか安心できるのだ。
最後まで読んで頂きまして、誠にありがとうございます。
宜しければ評価と、ブックマーク登録を、お願い致します。
活動の励みとなり、更新が維持出来ます。




