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25話「新たなる街へと到着」

「もぅ! いきなり何をしますの!」


 爆弾発言をしそうな危険な口から手を退かすと、アリスは早々に怒声混じりの声で荒げていた。

 しかしその言葉はそっくりそのまま返してあげたい所だ。本当になんてことを言ってくれやがるんだと。


「お前、この馬車に乗る前に俺が言ったことを忘れたのか?」


 そして名前に関しては常に危険が付き纏うことから、事前に偽名を使うことで打ち合わせをしておいたのだ。だが恐らくそのことすらも忘れて彼女は平然と俺の名を口にしていたに違いない。


「はて? なにか言いましたっけ?」


 すると予想通りアリスは目を点にさせて首を傾げる。


「……お前って完璧に見えてたまに抜けてるよな。はぁ……まあいい耳を貸せ」


 幾ら領主の娘で頭が良くとも天然という特質した部分には何者でも勝つことは叶わないということであろう。それから彼女の耳元へと顔を近づけていくと、


「あ、ちょちょっとお待ちになって! 耳は……耳だけは! んっ、あぁっん!」


 アリスは妙な声を出して体を少しだけ跳ねさせて反応していた。

 もしかて耳元で喋られるのが弱点なのだろうか。

 だとしたらこれはまた一つ弱みを握ることができたということだな。


 それから俺達が荷馬車に乗る前に交わした偽名を使うという内容は大雑把に話すとこんな感じだ。冒険者という職業上、常に命を狙われやすいから俺の事は偽名で呼ぶようにすること。

 

 まあ命を狙われやすい理由としては冒険者は汚れ仕事もやるからだと嘘のことを教えてある。

 箱入り娘の新人冒険者なんぞ頭がスポンジのように柔らかく、教えたことはなんでも直ぐに吸収していくから簡単に信じてくれたぜ。


「――ということだ。思い出したか?」

「あ、ああはい。思い出しましたの」


 耳元で沢山囁かれたことでアリスの意識は何処かに飛びそうになっているが、これでなんとか危機的状況から脱することが可能となるだろう。取り敢えずとしては一安心だ。



◆◆◆◆◆◆◆◆



 あれからアリスがしっかりと偽名を使用して呼ぶようになると、俺の真名を口にする事はなくなり、気が付けばあっという間に更に日数が経過していた。つまりもう少しで街へと到着するということで、尚且つ漸く薄い木の板から解放されるということ。


 もう本当にお尻の方が限界を迎えそうでやばいのだが、これなら何とか持ちこたえられそうではある。しかしやはり街に近づけば近づくほどに野盗の集団が襲いに来る頻度が多くなり、最近は夜になると毎日戦闘続きで体が疲れてしょうがない。


 それにたまに道中で小物の魔物が現れては一々、荷馬車にちょっかいを出してくる始末だ。

 まあそれでも小物の魔物ぐらいであれば、アリス一人で倒せる程度だから全部任せているがな。


 そして街へと向かうための最後の休憩を取るとアリスが恒例の水浴びで体を清めるという行為を始めたのだが、俺は前回の覗きを反省して今回は裸体ではなく下着に狙いを定めることにしたのだ。


 それは偏に夜のお供として使うためである。もちろんだが使い終わったら返すつもりだ。

 人から何か借りたらちゃんと返す。それ即ち人として一般礼儀であるのだ。

 

 けれどアリスは下着を狙いに来ることは事前に想定済みであったのか仁王立ちしながら俺を待ち構えていて、目が合うと同時に思いっきりビンタを食らわせてくると縄で俺の体を縛り大木に固定したのだ。


 まったく、流石にこうも長く一緒に過ごすと思考というのは読まれやすくなるものなのだろうか。


……まあそれは一旦置いておくとして漸く俺達の前に新たな街が見えてくると、きっちり三週間で『セグレノ』という場所に到着することが出来た。


 ――そのまま難なくと街へと入ると早々に荷馬車から降りて、ペセリに別れを告げたあと俺とアリスは情報を求めるべくギルドを目指して足を進ませる。そうして街中を徘徊して十分ぐらいが経過すると、漸くセグレノのギルドを発見して中へと入る事が出来た。


「よし、取り敢えずアリスは冒険者登録を済ませてくれ。じゃないとクエストも受けられないし色々と不便だからな」

「ええ、承知致しましたわ!」


 なにやらアリスの気分が向上しているように見えるが、恐らく初めてこういう荒くれ者が集まる場所へと来たことで舞い上がっているのだろう。これぞまさに箱入り娘という感じで実に初々しい。


「では受付とやらに行ってきますの!」

「おう、しっかりとな~」


 冒険者登録をするべくアリスが受付所へと歩いていく光景を見ながら言葉を口にすると、直ぐに俺は自分のなすべきことを実行に移すことにした。それはずばり情報収集である。

 このセグレノの街で何か一つでも有益な情報があれば儲けと言えるだろう。


「さて、まずはなるべく酒が入っていない野郎共から聞いていくか」

 

 ギルドというのは必ず酒場が併設されていて、クエスト終わりに打ち上げを兼ねて食事をすることが多いのだ。つまりギルドから払われた報酬金の一部は酒場で徴収されるということ。

 なんとも賢いやり口ではあるが、今はそんなことよりも情報を聞きに行かねばならん。

 

「あ、あのーすみません。少しお話よろしいでしょうか?」

「ああん? なんだ兄ちゃん? よそ者か?」

「あ、はいそうです。実は――――」


 酒場で肉料理を食べていたスキンヘッドの男に話し掛けることに成功すると、そのまま新参者という身分を利用して話を進めていき、最後は俺が求めている情報を尋ねてみた。

 すると結果は……、


「いや、知らねえな」


 短くも全てが凝縮された言葉を返された。

 だがこの男が知らないだけで他の者は情報を持っている可能性がまだ残されている。

 故に俺は続けて周りの冒険者たちに話し掛けていくと、気が付けば酒場に居る全員と話を済ませていた。


 ……けれどやはり誰ひとりとして有益な情報を持っている者はおらず、大半が自分の武勇伝を語るような者たちばかりであった。まさに自語り乙という言葉がぴったりであろう。


 しかし情報こそ得られることはできなかったが、その代わりにちょっとした事を聞くことができた。何でもこの街には傭兵が多く住み着いていて傭兵業を多く請け負うことから別名【傭兵街】とも呼ばれているらしいのだ。


 さらにこれは半裸の男から教えて貰ったことなのだが、どうやらこの街の真ん中に傭兵案内所なる建物があるらしく、そこに行けば俺の知りたい情報を持っている者が居るかもしれないとのことだ。


 理由としては傭兵案内所では数々の傭兵としての仕事をこなす猛者達が多く居ることから、冒険者達では知りえないこともあるいは知っているかもしれないと。


 その傭兵案内所で働く傭兵達は仕事の都合上、色んな国や地域に赴いていることから各地の情報を知り得ている可能性が大きくあるということらしい。


 ちなみに傭兵案内所とはギルドとは別に正式に傭兵としての仕事を受けるところらしく、半裸の男曰く仕事内容は要人の護衛や暗殺などが多いとのこと。


 まあ端的に言えばギルドよりも高難易度クエストが多いという考えでいいだろう。だがそう思うとギルドは魔物退治や盗賊討伐なんぞという雑用系が多い傾向にあると言えるな。

最後まで読んで頂きまして、誠にありがとうございます。

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