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24話「次の街へと移動するが、勇者一行は尚も面倒事を」

 アリスと共に屋敷を出るとその後は道なりに歩いて、何とか日暮れ前に小さな村へと到着する事が出来た。


 そしてさっそくいつもの荷馬車交渉で近くの街まで運んで貰うというやり方を使用すると、なんと運が良いことに村の特産を納品しに行く予定があるとのことで街への切符を確保する事が出来た。


 それと村人の話によれば馬車で3週間ほどの場所に大きな街があるらしく、どうやらここから暫くは長旅となるようだ。それから交渉して直ぐに俺達を乗せた馬車が村を出発すると、やはりというか当然というべきか今回も野盗からの護衛込みで街へと運んで貰っている。


 この世界でヒッチハイクのようにただで乗せて貰うというのは無理に近く、こういう時にこそダイヤモンド級の冒険者の証というのは使えるだろう。何故ならそれが冒険者にとっての唯一の資格みたいなもので自身の力量を証明してくれるからだ。


 それから荷馬車での長距離移動する上で気をつけるべきことがあり、それはお尻への被害を何処まで抑えられるかというものがある。


 これは長時間も舗装されていない道を進む故に起きる傷害で、下手したら痔になる可能性も多くあるのだ。なんせ俺達が腰を落ち着かせている場所は、ただの薄い木の板が貼られているだけだからだ。


 だがそんな環境でも意外なことにアリスは何一つ不満を漏らすことはなく、寧ろ好奇心の方が強く出ているのか瞳を輝かせては至る方向に顔を向けて外の景色を眺めていた。


 しかし今は完全に日が落ちて周囲は深淵のように暗く、唯一の明かりは馬車の前方を照らす為に備えられているランタンぐらいだ。


「これが旅というものなんですのね! わたくしなんだが興奮しますわ!」


 周囲を見渡したあとアリスが声を弾ませて言うと、確かにその声からも興奮気味だということが大いに伝わる。


 恐らくずっと屋敷で過ごしていた事から外の景色というのが宝石のように見えるのであろう。

 例え外が暗闇だとしても。それに領主の娘とならば自由に外出することも出来ず、仮に出られたとしても統治しているカークランドの街のみだろうからな。


「ああ、それは良かったな。だが今は体を休めておいた方がいいぞ。いつ盗賊や野盗が襲って来るかも分からんからな」


 背を壁に預けて出来るだけ楽な体勢を取りながら言葉を返すが、夜というのは奴らの絶好の時間であり、しかもランタンなどという明かりを灯していては尚更格好の的であろう。

 だからこそ、いつでも戦えるように無駄な動きは避けて休むことを優先させるべきである。


「それは分かっていますわ。……ですが何故アマデウスさんは顔を布で隠していますの?」


 首を傾げながらもアリスは変質者を見るような視線を向けて尋ねてきた。

 そう、何を隠そう今の俺は布で顔全体を覆い隠している状態なのだ。

 それは偏に何処ぞの一行のせいで御尋ね者とされているからだ。


 気分はまるで指名手配犯のようで凄く胃が痛くなる思いだ。だから村に着いて急いで顔を覆い隠せるぐらいの布を購入して身分を隠しているという訳だ。けれど幸運なことに村というのは情報が伝わるのが遅いらしく特に怪しまれることはなかった。


「ん、これは気にしなくていい。ただの日除けだ」


 だがそんなことをアリスに伝える訳にもいかず適当に思いついた事を口にした。


「日除けって……今は完全に夜ですのよ?」


 馬車の外を指差して主張してくるアリス。その表情は何処か呆れているようにも見受けられた。

 しかしそんなことは言われずとも理解しているし見れば誰だって分かる。

 それ以外の言葉が咄嗟に思い浮かばなかっただけだ。

 

「まあなんだっていいだろ。俺は寝るから何かあったら起こしてくれ。おやすみ」

「……お、おやすみなさいですの」


 一方的な言葉の勢いに押されたのか彼女は弱々しく呟くと、それを聞いて俺は寝る姿勢を整えると体をしっかりと休めるべく目を閉じるのであった。



◆◆◆◆◆◆◆◆



 それから退屈するほどに何事も起きずに日数だけが消費されていくと、村を出発して既に一週間ほどが経過していたのだが、その中で起きたことと言えば俺がアリスの水浴びを覗いて往復ビンタを受けたことぐらいであろう。


 まったく、たかが裸を見ようとしただけで焦りすぎだろ。

 あんなの病んだ状態のアリスであれば快く許してくれた気がするけどな。


 まあそれでも病んだ状態の彼女は、それ以上に面倒だからどっちもどっちだが。

 今のところ記憶が復活する傾向も見られないし当分の間は大丈夫だろう。

 それに俺は自分の瞳についても色々と知りたい所なのだが――――


「お、そうだ兄ちゃん。今日の朝に新聞が届いたんだが見てみるか? 中々に面白い事が書いてあったぞ」


 すると突然手綱を握り締めて荷馬車を操る男、通称ペセリが気さくな感じで話し掛けてきた。

 流石に三週間も共に過ごすとなれば嫌でもコミュニュケーションは必須となり、今では毎晩共に熱い猥談を交わすほどの仲である。そのせいでアリスは夜になると早々に寝るようになった訳だが。


「面白い記事? どうせ下らない何処ぞの王の特集かなにかだろ? あんまり期待させんなっ――――どぅえぇっ!?」


 妙なにやけ顔を晒しているペセリから新聞を受けると、適当に目だけ通して終わらせようとしたのだが、ある記事の見出しに視線が否応なしに寄ると驚愕の声を出さずにはいられなかった。

 何故ならその見出しには――――


「なっ、面白い記事だろ! 勇者一行様が探してる男の顔が等々公開されたんだぜ! これで一気に金が目当ての野郎どもが動くぜぇ。はははっ!」


 そう、今ペセリが口にしていたことが全ての事実であり、俺の顔写真が無修正で張り出されていたのだ。しかもその写真はいつ撮影されたのかも分からないもので、なんだが背筋に冷たいものが這いよる感じがしてならない。


「あ、ああ……そうだな。ははっ」


 取り敢えず写真を見ながら乾いた声で返事をするが、今ここで正体が見つかれば間違いなく捕まる。そして街に着いたと同時に明け渡されること確実だ。

 だがそんな気持ちをも知らずにアリスが唐突に、


「アマデウスさん! その新聞わたくしにも見せ――」

 

 大きな声で俺の名前を叫びつつ顔を合わせてきたが咄嗟の判断で口を塞いだ。


「おい馬鹿! 名前を言うな!」


 一応小声で注意の言葉を口にするが、これはもしかして手遅れ状態なのではないだろうか。 


「ん、今嬢ちゃんの口からアマデウスって聞こえなかったか?」

 

 やはりしっかりと聞こえていたらしく振り返りながら、ペセリが眉を顰めて俺達を怪しむ目で見てくる。

 ならばここは敢えて危険を承知でも誤魔化す必要があるとして、


「いやぁ、気のせいじゃないか? 多分だが風の音がそう聞こえただけだろ」


 真面目な声色を出しつつ風の靡く音のせいにして逸らす策を講じた。 


「気のせい……まあそれもそうだな! がははっ!」


 それを聞いてペセリは暫く険しい表情を見せていたが、何を考えていたのか途端に陽気な笑い声を上げると再び前方へと顔を向けていた。どうやら無事に誤魔化すことに成功したようである。

 まったく、こんなところで肝を冷やすことになろうとは。


「……はぁ。危ないところだったぜ」


 安堵の溜息を漏らすと共に一気に緊張の糸も解けていく感覚を受けた。


「ん”ー! ん”ー!」


 それから口元を手で塞がれていたアリスが唸り声を上げて抗議してくる。


「あ、ああすまない」


 口元から手を離すのは別にいいのだが、これ以上の余計な発言は控えて貰いたいものだ。

 いやまじで本当に。今のでも結構無理やりだったからな。辛うじて首の皮一枚状態だぜ。

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