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23話「令嬢とニートは新たな場所へ」

 恐らく冗談で婚約の話を持ち出したのだろうがアリスに力の限り押されて飛ばされると、モーセルは無理やり椅子に座らされていた。


 そしてこのままでは下手に時間が消費されると考えて、俺とアリスも椅子に腰を落ち着かせると、手早く事情の説明を行うことにした。


 するとやはりというべきか反応は難しいもので、


「つまりアマデウスくんと一緒に旅に出たいと言うことだね?」


 モーセルは怪訝そうな表情を浮かべながら言葉を口にしていた。


「まあ目的は魔王討伐ですけど、概ねそんな感じであってます」


 僅かに本題から話が逸れていたので旅の目的を明確にして再度伝える。

 そして隣ではアリスが急に椅子から立ち上がると、


「無事に魔王を討伐したら必ず戻ってきますの! だから父様お願い致しますわ!」


 モーセルと視線を交えながら気迫の篭る声で頼み込むと最後に頭を下げていた。

 それを見て彼は更に考え込むように表情を歪めると、この部屋は静寂に包まれて次の言葉で全てが決定するような雰囲気が立ち込めていた。


 しかし俺に父親の気持ちというのは分からないが、それでも一生の別れになるかもしれない戦いに一人娘を送り込むなどというのは、簡単に答えが出せるものではないだろう。

 ……だが、それでも魔王討伐にはアリスの力が必要だと俺は確信している。


「はぁ……まったく、仕方ないな。これならアマデウスくんを雇わない方がよかったかな」


 険しい表情が僅かに緩むとモーセルは小さく溜息を吐いて顔を向けてくるが、それは一体どういう意味なのだろうか。もしかして俺がアリスを焚きつけたとでも思っているのだろうか?

 

 だとしたらそれは大正解と言えよう。

 少なくともあのままベッドの上で襲われるよりかは断然ましだからな。


「と、父様?」


 困惑しているのかアリスは首を傾げて反応していた。


「ああ、行ってきなさい。そして自分自身の足を使い色んな国や人々の生き方を見てくると良い。そうすればきっと僕みたいな引きこもり領主より素晴らしい領主となるだろうからね」


 両腕を組みながらモーセルは微笑むようにして口を開くとそれは娘の独り立ちを許可する言葉であり、どうやら彼の中でアリスの旅は次期領主としての才覚を磨く為という事を口実にしているらしい。


 流石に現領主としての立場が影響しているのか一人娘を、ただ旅ということで送り出すことは出来ないのだろう。それでもモーセルは娘の気持ちを汲み取ることのできる、良い父親というのは見ていて分かる。本当に何処かのクソ親とは大違いだ。


「と、父様まぁぁ! ありがとうございます! ありがとうございます!」


 無事に旅の許可を得られたことでアリスが満面の笑みで声を弾ませると、何故か俺の手をいきなり掴んで上下に大きく振ると全体で喜びを表現していた。けれど何故に俺の手なのだろうか。

 そこは普通に考えて許可を出してくれたモーセルの役目なのでは。


 現にほら、この光景を見て羨ましいのか対面からは怨念が込められたような視線の圧をひしひし向けられているような気がしてならない。


「あ、そうだ。最後に一つだけ約束してくれ。決して娘には手を出さないようにね。頼むよアマデウスくん」


 人差し指を立たせてモーセルは警告というより注意を促してくると、その凛とした顔の奥には邪神のような影が薄らと見えて本気だということが伝わる。

 

 一体アリスに手をだしたらどんな罰が与えられるというのだろうか……。

 それに親馬鹿もここまでくると何も言えなくなるが、それほどまでに娘を愛しているということだろうな。


「はい、必ず守りますよ」


 即行で返事をしないと今すぐに罰を与えられそうな雰囲気ではあるが、流石にこれはモーセルの前では口が裂けても言えないだろう。既に娘さんから手を出された後なんですがとはな。

 


◆◆◆◆◆◆◆◆



 それから昼頃に全ての話が無事に纏まると後はモーセルからダイヤモンド級冒険者の昇進を認めて貰い、書類に印鑑を押して貰うと何とその場で宝石のような綺麗な輝きを放つ首飾りを受け取ることが出来たのだ。そう、ダイヤモンド級冒険者を証明するダイヤの首飾りだ。 


 なんでもアリスとの契約終了時に渡すつもりで保管していたらしいのだが、事情が事情ゆえに今すぐに渡してくれたそうな。


 まあダイヤモンド級であれば、どこのギルドに行こうとも安定した稼ぎが得られる筈だから、そのほうが得策だと言えよう。


 その後は各々が荷物を抱えて屋敷から出ていこうとしたのだが、驚く事に門の前では大勢の給仕たちが見送りの体制を整えていたのだ。

 当然そこにはモーセルの姿も見えるのだが既に一回泣いているのか目が充血している様子。


 しかし給仕達は俺を見ても特に目の色を変えたり殺気を向けてくることもなく、まだ新聞に目を通してない事が伺える。ならばこれを好機と言わずしてなんと言うか。

 素性が明かされる前に屋敷を出れば、直ぐに捕まることもなかろうて。


「ふっ、どうやら運は俺を味方しているようだな」


 大勢の給仕たちを目の前にして思わず言葉が飛び出すが、幸いな事に誰にも聞こえていないようだ。危ない危ない……まだ堪えるんだ。ここで爆笑すると全てが台無しとなるからな。


「さぁ、行きますわよアマデウスさん! 魔王を討伐する為の第一歩を進めましょう!」

「ああ、そうだな」


 アリスの活気に溢れる声を聞いて頷きながら平常心を取り戻すと、先頭を歩くようにして足を進め始めた。その周りでは大勢の給仕達が笑みを見せながら惜しみのない拍手でアリスの旅路を応援しているようだ。


 彼女らも元は冒険者であるが故にアリスの今の心情が手に取るように分かるのだろう。

 無論だがモーセルは途中で涙腺が決壊して大泣きしていたが、それはそれで面白いものが見れたとして普通に満足だ。


「さて、この門を越えたらいよいよ後戻りは出来ないぞ。本当に覚悟は出来ているな?」

「ふふっ、当たり前ですのよ。私は自らの意思で旅に……延いては魔王を討伐しますの」


 自身の胸に手を当てながらアリスは覚悟に満ち溢れた顔を見せて返事をした。

 その表情からはまるで黄金色の気高き意思が垣間見えるようだ。

 一応最後の意思確認として尋ねるべきかと聞いたのだが、どうやら余計な気遣のようであった。

 

「そうか、ならば上出来だ。行くぞアリス!」

「ええ、行きましょうアマデウスさん!」

 

 そして俺達が同時に屋敷の敷地から外側へと足を踏み出すと、そのまま道なりに沿うようにして歩き始めたが、その間にアリスは一度も後ろを振り返ることはしなかった。

 ――それから暫く道なりに歩いていくと次の目的を決める為に思案を巡らせていた。


 取り敢えずとしては大きな街を目指して、そこで止まっていた伝説の剣の存在や試練の塔についての情報を得ようと考えている。あとはサブクエスト的な思いで街のギルドで有望そうな冒険者を見つけて仲間にしたりとかだな。


 ……はぁ。まだまだやるべきことは多く有り休む時間すらもなさそうだが、これも偏に魔王を討伐して願いを叶えて貰う為だ。身を粉にして働くしか道はないだろう。


 それと忘れはならないのが勇者一行という面倒なパーティーの存在だ。

 アイツらのせいで俺は今や御尋ね者状態で顔を隠さないと飯すらも食えない状態と考えていいだろう。


 それにアリスにすら気づかれてはいけないのだ。本当になんで勝手に縛りプレイみたいな状態となるのか。この世界は俺にだけハードモードを強要し過ぎではなかろうか。勘弁して貰いたいものだ。


 だがそれでも諸悪の根源が勇者一行だと確信している。

 というか勇者一行が全て悪い。己、絶対に許さないからな。

 

 ……まあそれでもいつかはアリスに真実を話してみてもいいかも知れない。

 それがいつになるかは俺にも分からないけどな。

最後まで読んで頂きまして、誠にありがとうございます。

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