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22話「令嬢を連れ出す為の交渉」

 アリスの記憶があやふやな部分を利用して上手く仲間に引き入れることにすると最初こそ半信半疑の様子ではあったが、話を聞く途中で頭を抑えながら何かを思い出しそうな表情を浮かべて納得したように返事をしていた。


 だが返事をする前に妙な間が空いてた事に些細な疑問を思えるが、なんとか仲間にすることも誤魔化すことも出来たので気にする必要は特にないだろう。


「そう言えば……どうしてアマデウスさんはそんなにも乱暴なお姿をしていますの?」


 首を傾げつつも何処か冷ややかな視線を向けてアリスは言うと、確かに一見して手錠を手足に付け尚且つズボンを下げている男とは何処ぞの世紀末もいい所だろう。

 だが当の本人にその理由を聞かれるとなんだが釈然としないが、


「あ、ああ。これは冗談半分でお前を襲おうとしたら反撃されてこうなっただけだ。余り気にするな……ははっ」


 色々と無理があることは承知の上だが誤魔化すことにすると自然と手は頭を掻いていた。


「あら、そうでしたの。ですが不思議ですわ。そんな事を言われても嫌な気持ちにならないんですの。寧ろもっと別の感情が……」


 アリスは何故か嫌な顔一つせずに頬を僅かに赤く染めて頭を抱えると、これは本当に記憶障害が起こっていると判断していいのだろうか。自分で言うのもあれだが結構無理のある言い訳だと思うのだが。


「と、取り敢えず魔王討伐が目的だから旅は必須だ。だからアリスは直ぐに準備を整えてくれ」


 これは杞憂であれば嬉しいのだが、このまま話を続けていくといつかは地雷を踏み抜いて彼女の記憶が一気に蘇り兼ねない気がするのだ。だから今は一刻も早くアリスを連れて屋敷を出ることが何よりも優先すべきこと。


 何故なら何かのネット記事で見たことがあるのだが記憶喪失の状態で記憶を復活させるには、思い出の場所や匂いと言う感覚に関連するものが多いに影響を与えるらしいからだ。

 ならば今この場は最も最悪な場所とも言えるわけで直ぐにでも出たい。 


「わ、分かりましたわ! 旅というは初めてのことですが、なんだがワクワクしますわね!」


 意外とアリスの方は気分が向上しているようで旅自体には乗り気の様子であり、返事をしたあと直ぐに荷物を纏めるべく行動を開始させていた。これであとは最後の難関とも言えるモーセルへの報告だけとなるだろう。


 まあ色々と手順を飛ばして逃げるのであれば、今すぐにでもアリスの手を引いて駆け落ちのように屋敷を飛び出せばいいのだが……それだとモーセルから後々何をされるか分かったもんじゃない。


 ならば残された手立ては難関を突破するしかないのだ。だかここでモーセルをなんとか出来れば後々の武器ともなりうる筈なのだ。それは関節的にアリスを利用することになるのだが……まあ今は一旦置いておこう。


「あ、あの……アマデウスさん?」


 荷物を纏めていたアリスが急に手を止めて視線を向けてくる。


「ん、なんだ? お腹でも痛いのか?」

「ち、違いますわ! その、あの……下着を出したいので部屋を出て貰えると助かりますの……」


 顔を俯かせて手元を弄りながら恥ずかしそうに下着という言葉を口にすると、これは一種の恥辱プレイなのではと思えてしまう童貞丸出しの自分の思考が怖かった。


「あ、ああそうだな。察しが悪くて済まない。じゃあ準備が出来たら呼んでくれ」


 右手を小さく上げて部屋を出て行く事を伝えると彼女が履いている下着がどんな物か気になる所ではあったが、このあとモーセルから旅の許可が出れば自然と旅をしている間に分かるだろうと部屋を後にすることにした。


「はい! 承知致しましたの!」


 笑みを見せてアリスが返事をすると、そのまま俺は廊下で待っている訳にも行かずに一旦自分の部屋へと戻ることにした。念の為の荷物と痕跡が残っていないかの最終確認を行うのだ。

 これで抜かりがあれば全ては水の泡となり消えるだろう。



◆◆◆◆◆◆◆◆



「もし、アマデウスさん? 準備が整いましたので父様に会いに行きましょう」


 部屋の扉を三回ノックされると続けざまにアリスの声が聞こえてくる。


「あ、ああ了解した。直ぐに行く」


 自室で最終確認を終えて暇になると本能が赴くままに一人虚しく致してしまった訳だが……本当に僅かにでも暇な時間があると右手が動いてしまうのは猿と何も変わらないのではと思えてならない。これが俗に言う賢者タイムと呼ばれる悟りの時間ということだろう。


 ――そして最後の痕跡を処理して何食わぬ顔を維持して部屋を出ると、そこにはアリスが先程の服装とは違い鎧ドレスを着ていて本当に準備万端の様子であった。


「さあ、行きますわ……んっ? なんだか変な匂いがしません?」

「っ!? き、気のせいじゃないか? それよりも急ごうぜ……ははっ」

「それもそうですわね。でもなんだが、この匂い嫌いじゃないですの。ふふっ」


 妙に含みのある笑み零すアリスではあるが、どうして女性というのはこうも匂い敏感なのだろかと正直にこれは生前の頃からの疑問である。ネットを使い調べる時間は幾らでもあったのだが、それだけは何故か検索しなかったのだ。


 ……いや、恐らく本能的に辞めていたのだろう。

 なんせ匂いのことで女子に陰口を言われていた小学生時代を思い出してしまうからだ。

 だがそう思うと本当に日本で生きていた頃は碌な思い出が存在しないな。

 

「父様の部屋に着きましたわよ。多分ですが、この時間であれば仕事に区切りをつけて休憩している筈ですの」


 つまらない過去を思い出しながらアリスの背後を某RPGゲームの如く付いて歩くと、いつのまにかモーセルの部屋の前へと到着していたらしく意識が現実世界へと引き戻された。


「そうか。だったら手短に済ませないとな」


 仕事の間で申し分ない気持ちがあるが、俺としても一刻も早く屋敷を出たいことから素早く事を済ませたい。

 そうしてアリスが扉をノックして中に本人が居るか確認の意味を込めて声を掛けると、


「入っていいよ」


 というモーセルの声が聞こえてきて俺達はドアノブを握り締めて扉を開け放つ。


「失礼します」

「失礼しますの、父様」


 そしてアリスと共に部屋の中へと足を踏み入れると、そこには何故か直ぐ目の前にモーセルが仁王立ちしていて今にも彼女に抱きつきそうな雰囲気を醸し出していた。


「おっと、アマデウスくんも一緒なのかい? これこれは……もしかして婚約の挨拶かな? あははっ!」


 何を考えているのか理解出来ないが急に冗談めいたことを口走ると、急に俺とアリスを交互に見ては高く笑い声を上げていた。もしかして彼は領主としての仕事により、頭のネジが数本外れている状態なのかも知れない。


「なっ!? ち、違いますわよ! これには訳がありますの! とにかく話を聞いてくださいまし!」


 だが彼女だけは呆れることもなく寧ろ予想通りの反応を見せると、そのままモーセルへと近づいて両手で彼を突き飛ばしては強引に椅子へと座らせていた。

 その際にモーセルが情けない声を出して椅子へと倒れ込んでいたのが妙に面白かったがな。

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